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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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390話 己が刻んだ道標

390話目投稿します。


今まで考えないようにしていたことはふいに目の前に現れる。

壁を維持する事。

外界からの圧倒的な脅威を遮るための防御壁であり、箱庭を守護する力の漏洩と確保。

消失してしまえば自然現象、人為的な物も含め大きな災厄に見舞われる事となる人としての平和な世界。

それを感じられるのはその力、立場を持つ者のみ。

日常を平穏無垢に過ごす者にはその存在すら認識できない。


長い時の安定した効果は次第にその物も、者も劣化していく。

永遠なんて言葉は口に出しやすくても、実現させるのは不可能に近い。

そこに諦めを記さなかった存在は、今でも自らの内側にだけソレを体現できた。

それを外側に昇華する為に必要となるのは極単純に生命力。

彼が人形の器にその記憶を埋め込んだ事と同じ事を繰り返す。


王都の地下で行われていた事。


シャピルの作り出した装置を機能させるべく生命力の塊であるセルストをその核に使った。

そして次は私がそうなる。

セルストのように私も幼い姿になるのか?

両親は悲しむだろうか?

あまり想像は出来ない。

ある意味で楽観的すぎる親たちだ。

心の底でどう思っているのかは私には分からないだろうけど、きっとあの2人は何があろうとも笑って受け入れるだろう。

その根本は喜びというより私への愛情だ。

私が不安にならないように、家族が笑って過ごせるように。


『王都の地下を元に戻すの?』

「あそこは最早使い物にはならんだろう。何よりキミたちがそれを許さないはずだ。」

特に暴れそうな人を知っている。

そして彼の身に与えられた事象がこの先の私の姿でもある。

『私もセルスト卿のように縮むのかしら?』

「アレについては予想外ではあったろうね。」

特別な力を持つ者というのは、長い歳月を生きてきたシャピルにとって、珍しくはあっても稀少と言う程でもないらしい。


「キミも知っているだろうが、海に沈んだ亡国の渦中の聖女。あれも特別な力を持っていた。」

『リリーさん…』

「その従者の力を受け継いだキミの幼馴染もその素養があるだろうね。彼自身の力ではない部分ではあるが。」

嫌な言い方だ。

カイルにもその資格があると言われてしまえば、私が何としても阻止する。

つまりは彼の手を煩わせないよう、近付けさせないようにするのも考えた上での言い方。

『…卑怯な言い方。』

「策と言ってもらった方が正しいな。」


やり口が気に入ろうが気に入るまいが、少なくとも私が単純に誰かに助けを求める事は難しくなったと言わざるを得ない。

そもそも自分の迂闊さが招いた事だ。

無償の行為であったとしても都合が良すぎる。

それでもあのバカが歩みを止めるとは思えないが、思い返せば似たような失敗でカイルは長い間、西の海底洞窟から動けなくなってしまった。

あんなのは二度とゴメンだ。




「壁の外側、一応は私の新拠があるのでね。今、この船が目指しているのはソコだ。」

一族の者とはすでに別離状態といっても過言ではないシャピル本人。

目的地という場所も恐らくは人間は存在しないだろう。

だが彼にとっての孤独ではないその拠点で、その知識欲を満たすための施設がある。

『どちらにしてもすぐには戻れそうにない、か。』


「壁を超えてしまえば、そんな考えも少しは和らぐ。」


いよいよにして逃げ場がなくなる、そういう事だろう…。

出来ることなら、王国の外、新たな土地に足を踏み入れるのなら、仲間とともに高鳴る胸を押さえて旅をしたかった。

私だけでなく、今の王国の状況を鑑みれば、それが叶う日は当分先の事になりそうだが。


ズズズ…と足の裏に伝わる振動はこの船内に入ってからずっと変わらずに一定の感覚で伝わってくる。

航海はすこぶる順調、と言ったところか。

この部屋の中に居る限り、ここが空の上なんて事すら頭の中から消えてしまいそうな程に外の様子は見えない。

『今更だけど不思議なお部屋ね。』

王国の中でこんな部屋は見た事はない。

王城のように豪華なわけでもなければ、牢獄のようなみすぼらしさもなく、人の手で建てられたような代物とは思えない程に整然と作られた部屋。

壁の使われているのは鉄だろうか?

もし、船の全てがこの鉄のような素材だったのなら、この船を浮かばせている目の前に聳える装置、その中の遺跡は一体どれくらいの力をその中に宿しているのか。


「私はしばらく席を外させてもらうよ。キミも…そうだな。」

手を翳したその先の壁が再び開く。

扉の隙間から除く別室。

隙間から見える限りだと、あまりにも豪華なはずの部屋…とは言いきれない。

この部屋と大きな違いはなくとも、設えられた家具…だろうか?は静かに私を室内へと招く。

「この部屋を使うといい。何か聞きたい事があるのなら、声をかけてくれればすぐにでも顔を見せよう。」

私が室内に入ってキョロキョロと周囲…室内の様子を探る。

そして警戒心もこそぎ取られるに十分な家具。

寝具、ベッド。


寝不足もあるが、それ以上にこの部屋の中は私の興味を誘うには十分だった。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


そこが自分のものであるなら、それはどこだってどんな世界でも安堵できるものだ。


次回もお楽しみに!

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