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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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389話 隙間を埋める声

389話目投稿します。


船を脱する方法は見当たらない。

『この船…といえばいいのかしら?』

頷く彼の様子から察するに私が知るモノと遠からずと言ったところだろう。

『貴方以外に誰か居ないの?』

「人、と言えば今のところキミ以外は居ないな。」

人以外なら居る、つまり、彼と同じ人形なら他にも居る。そういう事だろう。

「言っておくが、キミが暴れれば私たちなど簡単に砕かれるだろうね。」

いくら数を増やしたところで、意味はない。

あの地下で私が沈めた人形の数は、先ほどシャピルの口から聞いた事ではあったが、その数は3000を超えていたという。

この船にどれ程の人形が居るのかは知らないが、相対すればそれはそれで骨が折れるのに変わりはないし、できればそんなことは避けたい。

多分、そうなってしまえば私はいよいよこの船から脱出する事が出来なくなってしまうどころか、この船が落下してしまっても何ら不思議ではない。

『どっちにしても、今の貴方、貴方の他にも私には何もできそうにないのね。』

「理解が早くて助かる。」

『貴方についていけば私の力が分かるの?』

「ご期待に答えられるかどうかはキミ次第ではあるがね。」

少なくとも今は。


短く付け加えた言葉、彼自身も私と相対する事は望んでいなかったりするのだろうか?

そもそも、彼は私たちと敵対しているのか?

その理由は?

言葉の全てを鵜呑みにするわけにはいかないとしても、彼自身はただその身に知識を集めるだけの事象のようなものだ。

『国境の壁はシャピル家…貴方たちが作ったものなのよね?』

「この国は私にとって箱庭のようなものだ。ただ只管に知識を蓄積していくための何事も起こらない平和な国だったはずなんだがね。」

溜息を一つ。

「人というものは今の私にとって居ても居なくても変わらない存在だったはずだ。しかし、今ではキミたちの生み出す事象で国は大きく動いている。」

『シャピル家はそもそも南部領を主にしていたと思っていたけれど…』

その南部に拠を構えていたセルストが国が大きく動いた原因だ。

「あの強さはシャピルの名を目立たない物にするには都合が良かったんだがね。」

セルストが取った行動もその一つに違いないが、南方地域に混沌を巻き起こしたのはそれだけじゃない。

「無論、私自身もあまりに己の家をないがしろにしていたのも原因の一つではある。」

スナントで己を異形の姿に変えたノプスの実弟、リグの存在。

当代のシャピル家の当主。

彼の暴走を止められなかったという点では、確かに目の前のシャピル本人の失態と言えるだろう。

シャピル本人もそれは理解している。


『この船、人は居ないって言ってたね。それならここが貴方が望んだ場所ではないの?』

いっそ外界から離れた場所、まさにこの船はそれを体現していると言えないだろうか?

「セルストの反乱も、リグの暴走も、国が動いた起点ではないのだよ。」

それを確かめに来た。

「私がただ一人の人間に興味を抱いたのは何年ぶりだったのか。」


新しい知識をその身に治める事以上に満たされた。

自分でも驚く程の事だったという。

「それがキミだ。国が動き始めた原因というなら、キミからすれば2人が起こした騒乱は巻き込まれた事象と感じているだろうが、彼らにそうさせたのはキミの旅立ちだ。」


『私が…』


一番の原因。

ただの田舎娘。

私が自分の事を知りたくて旅に出た事が全ての原因だというのか?

周りの人たちに恵まれただけの、ただ運がいいと思っていただけの旅路。

私がその謎に疑問を持たず、故郷で年付きを重ねていれば、今のような世界にはなっていなかった?


一番の理由。

この部屋の中央に浮かんだままの遺跡。

故郷で発見された同じ類いの代物。

あれの触れたのも偶然と言えば偶然ではあったが、そこに辿り着いたのは自分の不思議な力があったからこそだ。


『私が望まなければ…』


傷つく人も居なかった?

命を失う事も無かった?

国を揺るがす事態にもならなかった?


ドクン、と鼓動が脈打つ。


「やはりキミはそう考えるのだろうね。私にはその心というものはすでに持ち合わせていない。だが、その気持ちというのは己を知りたいと思う欲だ。」

遥か昔、シャピルがその道を選んだ強い想い。

私は彼のようにあらゆる物を知りたいと思ったわけではない。

けれど、同じ欲望で有る事は変わらない。

「自分を責める必要などない…と口を滑らせてしまった私が言えたものではないが…それでも知りたいという欲は消えるものではない。その思いだけは私も未だに憶えている。」


膝が揺れる。

シャピルから掛けられる慰めの言葉以上に、突き刺さるその意味。




分かってた事だ。

考えないようにしていた。

あの日、私の背中を押してくれたその手を亡くしてしまったのは私。

沢山の人を哀しみに落としてしまったのは私。

『…あ。』

一筋、頬を伝う雫。

『ぅぐ…』

隠すように顔を覆う。

しゃがみ込んで、声を、震える肩を抑える。


そして掛けられた声が、私の耳に、心にすんなりと入り込んできた。




「キミの力が役に立てる可能性があるとしたら、どうする?」



感想、要望、質問なんでも感謝します!


そうして私は仄暗い底に、心を落とす。


次回もお楽しみに!

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