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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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388話 見えない謎、見えない姿

388話目投稿します。


旅の目的はもっと自分本位の欲だった。

だだっ広い空間が目の前に拡がる。

室内に設けられたいくつかの装置に若干の見覚えがある。

王都の地下で目にしたのと近い造形の物。

「こっちだ。」

短い言葉で私を先導するシャピルの後に続くが、見覚えがあったとしても未だ未知のそれらは私の興味を誘発して後を絶たない。

『何に使うのか予想もつかないんだけど…』

「だろうね。でもキミが知らなくても問題ない物だ。」

それはそうなのだが、当たり前な事に私に説明する様な親切さは彼にはない。


『!…あれ…』

いくつもの装置の横を通り過ぎ、彼の誘導先である場所、視界が晴れたその場所。

この部屋の中心か或いは最奥か、目に映ったソレは沢山の装置よりも見覚えのある代物。

そしてソレ自体を包み込む物も以前一度目にした事のある装置。

先を歩くシャピルを追い越して、その全体像を視界いっぱいに捉える。


中央に浮かぶそれを囲む装置。

結局のところそれ自体がどんな効果を及ぼすものかは知らない。

私にとっては内在するものが中に浮かんでいるというだけで驚嘆に等しい代物だ。

見覚えのある理由は私の記憶に残る旅の残滓、少ない時間で急を要した中でも鮮明に憶えている光景。

時間を超える為の扉。

あの時、私はこれと同類の装置に押し込められた。

内側から見渡したあの時の光景。

その場に居た多くの人、研究者たちの視線を一身に集め、託された瞬間だった。

『…思ってた以上に遺ってるもんだね…』

研究の成果が希望となるか否かの切実な顔、その目が余りにも鮮明に記憶に残っている事に気付いた。

『またこれを見ることになるなんて…』

感謝すべきか、問い詰めるべきか…その答えも分からない。


軽い鼻詰まりを一度啜り、改めて目を向ける。

装置の中に浮かぶソレ本体はまだ終わりそうにない旅の中で何度か触れた物だ。

淡く緑に発光するソレは、私の故郷やエディノームに拠を構える名匠の手によって私に大きな強みを齎してくれた武装具と同じ。

故郷の地の底で眠りについていたり、太古の森の奥で澄んだ御鏡に佇み、東の火山では私に大いなる魂を宿す事となる原因であった。西の海底、そしてとある湖畔では大切な人を石に変えてしまった代物でもある。

更には屈強な戦士たちに奉られ、長い時の間、その地を見守ってきた。


『…これが最後の神殿…。』

「…」

『この船が浮かんでいられる理由はこれね?』

「流石にこれを見てしまえば絡繰も分かるというものだな。」

神殿に使われていた石材は普段は発光しない。

本当にただの遺跡のように静かに佇んでいるだけだ。

今、装置の中に収められたその輝きは私が装具を使い、刃を投げる時と同じ光を発している。

だが、私のソレと異なり、周囲に使役しているような姿は見えない。

あの装置がその役割を担っているとすれば、シャピルが用いる技術は私の力と同様の事が出来る…そういうことだ。

彼の行動如何で操作が可能だとすれば、身に付けている物ですら私に牙を剥きかねない。

『…』

背筋に汗の冷たさを感じる。

「安心するといい。キミの予想通り、私はこれの操作は出来るがこれ自体は他の用途には使えない。」

『船そのものは思うように動かせる。そう考えていいのかしら?』

「そうなるね。でも操作そのものはキミのそれとは違う。」

遺跡の、石に直接操作を及ぼすのではない。

あくまで装置を媒介に操作をするのだ、と。


「キミが何故この石を、何の装置を使わずに操れるのか?、それも確かめたい事象の一つでもある。」


私が旅に出たのは、昔から自分にあった奇妙な力を知るため。

それはやがて、更に大きな力をこの身に宿して、多くの、様々な人たちと出会って、少しだけ遠回りをしている。

でも、それを嫌な事だと思った事はない。

そして今、シャピルが私の中の謎を確かめるという。

ならばそれに身を委ねるのも悪くない話なのだろうか?

『確かめる…それで私はどうなるの?』

「キミ次第、と言ったところではあるが、キミの選択肢はそれ程多くはない。それも分からなくはなかろう?」

『私の事を調べる。それで私の目的が少しでも紐解けるなら、それも悪くない…のかもしれないね。』




当分後で聞いた話だ。


「カイル!、フィル見てない…か…。」

駆け込んできたフィルの母。

夜が明けて、いつもの寝坊とは思ったが、昨夜の頭痛があまりにも酷かったため、念の為に覗いた娘の寝室。

そこに姿はなかったという。

父親に町周辺の見回りに行かせ、自分は町の住民に聞き込みを行うべく、真っ先に訪れたのが幼馴染である俺の家だった。

「…あまり良い話ではなさそうですね。」

日課である早朝からの鍛錬、今日はそんな時間の余裕も猶予もなさそうだ。

「昨日、随分頭痛が酷そうに見えた…。」

アイナおばさんに付き添って訪れたべーチェは昨日のフィルの様子を思い出し口を開いた。


「…何やってんだ、アイツ。」


俺は呑気すぎた。

故郷の空気に薄れていた警戒心を今一度引き締めた。


「二度とゴメンだ。あんなのは…」


次の瞬間、二人の言葉を待たず、俺は空に駆けた。

アイツの居場所ならきっと分かるはずだ。


思い出す。

東の地でその姿を見失ってしまったあの時の喪失感を。

繰り返しはしない。




感想、要望、質問なんでも感謝します!


謎を求める事に恐怖がないわけじゃない。

心も体も。


次回もお楽しみに!

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