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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
386/412

379話 曇天の日

379話目投稿します。


天気の悪い日は、気分が沈むだけではない。

むしろ私は悪天候が嫌いなわけじゃないんだ。

故郷っていう場所は時に離れて、時に戻り、その度に懐かしい記憶や変わらない風景と、少しずつの差異を見つけて楽しむ、そんな場所だと思っていた。

私の故郷は王都からすれば他の地域比べてそれ以上の行き先のない辺鄙な田舎だと思っていた。

それは王都に繋がるノーザン山脈以上に人を始めとする生命を寄せ付けない程に連なる北ノーザン山脈とその先に拡がるはずの北海に開拓という言葉など縁のない土地柄に依るものから来ている。

つまり、私の中だけじゃなくこの国の者なら誰しもノザンリィが北の果だという認識。

それより先の土地がある事なんて想像の枠を超えている。

そう思っていた。


その北海にも件の壁があるのは少し考えれば分かっていたはずなのに…。




ゴゴゴゴゴ…

と空が低い雄叫びを上げる。

『っつ…』

今日はこの天気のせいか、朝から軽い頭痛が私の気分を少し曇らせている。

「気圧が下がってる、意外な弱点といった所か?」

私と違って平気そうなべーチェが軽く笑う。

確かに、今更すぎて思い浮かばなかった弱点と言っても過言ではない。

普段は気にする事でもないが、精密な魔力操作が必要となるような場面に於いては致命的になりかねない。

『…いや、まぁ…事が起こってから発覚するよりはマシか。』

「これは遺伝かしらね?」

母も私ほどではないようだが、調子は今一つな様子。


幼い頃、あまり気に留めて上げることも出来なかつたが、確かに天気の悪い日は母の元気も空模様に比例していたような気もする。

年齢を重ねて自覚し始めるということは、ある程度は個人差はあるだろうが、悲しいかな肉体年齢に依るモノということか?


「でも今日のはいつもと違う気がするわ。」

それは私も同じ様に感じていたところではある。

『うん…何と無くわかる。』

水に石を投げ込むような、掻き分けて蠢くような、何とも喩え辛い感覚。

「私には良くわからないが、無理しない方がいいんじゃないか?」

一応、帰郷した目的は既に終え、また王都に戻る為の準備を、と考えていた今日の日。

今日が出発の日でなかったのが救いか。

「無理しない程度にゆっくりしましょう。」

母の言葉に頷く。

それにしても、不思議な感覚。

そして、嫌な予感もまた身を潜めるように薄く私の背中を撫でるかのよう。




『…ふぅ。』

暖炉と釜に焚べる薪を屋外の倉庫に取りに出て戻る。

「平気か?」

倉庫から出たところで我が家に訪れたカイルと鉢合わせ、断りを入れるでもなく、私の手から薪の束を奪い取るカイル。

町で暮らしていた頃、旅に出てからも共に過ごしていた彼は、当然私や母のこんな日の体調は知っている。

「アイナさんもだろ?遅くなってすまん。」

『今更だから気にしないでよ。』

無論、こんな日に私たちを支えていたのは父なのだが、今日は朝からラルゴさんの工房に行ったまま戻ってこない。

「工房に顔出してみたらおじさんが居るもんだから俺も驚いたんだ。」

『アンタの剣は大丈夫なの?』

「預けてきたよ。」

カイルの剣の整備は本人が居なくても大丈夫なようだが、父を留める理由は私には思いつかない。


「…うーん、どうだろうな?」

頻繁に柄を破壊する父に対しての説教が続いているのか、それともまた別の理由か。

カイルが見てた限りでは雰囲気が悪い様子は無かったらしいが…。

『まぁそのうち帰って来るでしょ。』

薪から解放された手で自宅の扉を開く。

『お昼は?』

「手伝うよ。」


ゴゴゴゴゴ…。

空は相変わらず唸り声を上げ、扉を潜る前の私とカイルは特に理由もなく空を仰ぎ見た。




結局その日、準備と言っても対して進まず、父が帰宅したのも日が暮れてから。

母は何か知っているのか、遅い帰宅にも文句を言うわけでもなく、父は父で申し訳なさそうにしていたのは中々新鮮な光景でもあった。

寄り添う両親に和まされたのも悪くはない。


しかし、夜になっても一向に治まる気配のない頭痛。

それどころか、強さを増して私と母を悩ませる結果となった。

「早目に休めよ?」

遅くまで残ってくれてカイルは帰り際にそう言い残して家路についた。




『うー…』

「いつもそんなに酷いのか?」

流石に心配してくれているべーチェが自室のベッドに転がって唸っている私の見舞いに来てくれた。

『…こんなにキツいのは始めてかも…』

「アイナさんはオマエ程じゃなさそうだが…」

個人差はあるとはいえ、母も辛いのは変わらない、目に見えない、口にしないだけで私と大差ないかもしれないが、いずれにせよ辛いのは変わらない。

「…一緒に居てやろうか?」

無理にとは言わないが、と加えるが流石にそれは私が申し訳ない。

『大丈夫。でもキツかったら呼んじゃうかも…』

「ああ、それでいいよ。」

オヤスミの挨拶を交わして、彼女は寝室に戻っていった。




灯りを落とした寝室で、何度目かの寝返りを打つ。

窓からの月明かりが今夜は妙に明るい。

掛布を頭から被っているにも関わらず、部屋の暗さに困る事もない程の明かり。


妙だ。




『…ちょっと待って…』


今まで母や私を悩ませていたのは、天気の悪い日。

夜まで続くのも珍しい。


何より天気が悪いなら月明かりが部屋を照らす事なんてあり得ない。


『…っつ。』

ズキりと痛む頭を押さえて、窓の様子、空の様子を伺った。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


光。

その出所、正体は…


次回もお楽しみに!

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