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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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378話 町の親とその営み

378話目投稿します。


町を見守り続けた長い時は、そこに暮らす者たちの信頼を得て、未だ変わらず平穏の時を促す。

『…』

「領主…今は旧領主か…」

『そうだね。』

特に理由があったわけじゃないが、散歩の最終目的地となった領主の館。

以前、帰郷した時には庭園の一画に綺麗に整えられた件の遺跡をラルゴと共に掘り返したのも今となってはいい記憶…?なのかな。

あの時は屋敷の管理人夫婦の片割れでもあるメアリに怒られた気がする。

「おや、お嬢ちゃん、久しぶりだね。」

『メアリお婆ちゃん。』

庭園から姿を見せた老婆、その手には水遣りの如雨露。

冬でも手入れは抜かりない…というよりはカイルの鍛錬以上に日々の習慣なのだろう。

「お客さんかい?、寒いのによく来てくれたねぇ。」


あの時はあまり時間も取れず、結局老夫婦と落ち着いた時間も取れなかった。

「いいんだよ、こうして来てくれるだけでも十分さ。」

招かれた屋敷の応接室で、セルヴァンも合流しての細やかなお茶会。

元の主がこの屋敷に居る事は以前から多くはなかったが、今となってはそれすらももう無い。

その夫人が訪れる事はあるかもしれないが、今の状況からすれば当分の間は難しいだろう。

主を無くした館を今でも尚守り続ける老夫婦は、私が旅に出るより前、小さい頃から暮らしてきたこの町を取り纏めるまごう事無き町の礎だった。

「今更、他の暮らしもできそうにないしねぇ?」

「あぁ、少しばかり書類整理が増えた程度の違いしかないしの。」

あの叔父は領主でありながらも自由気まま、それが出来ていたのもこの老夫婦を始めとする周りが優秀で有った事は間違いない。


「王都は凄い事になっているようだねぇ。」

それなりに情報は仕入れているようで、詳細はともかく領主代理として培った経験は今尚この町を平穏に保つ為に見えない苦労を重ねてくれているのだろう。

『少し落ち着いたは落ち着いたんだけどね。』

「で、今後はどうするんだい?」


壁を抜ける方法は見つけている。

少しでも他国の情報、同行が分かれば方針も多少は定まるのだろうが、今のところ大きな動きはない。

『隣国は気になるんだけどね。』

「新たな土地というのは、私たちのような老人でも心が踊るというものだ。」

「貴女が町を出た時と同じ、気の向くままに進むといいわ。」

町の住民はその年齢に限らず、2人にとっては子供のようなものだ。

新しい事に目を向けて、そこを目指す者たちに大して、背中を押してくれる。

そんな2人だから信頼も厚い。

『応援してくれるなら嬉しい。』

「フィルも、カイルも好きなように進むといいわ。ご当主様もきっと見守ってくれる。」

メアリの言葉に、セルヴァンも頷く。

そうして楽しいお茶会の時間は過ぎていった。




「いい夫婦だな。」

『この町の皆の親みたいなもの、かな?』

「良い得て妙ではあるけど、良く分かるよ。」

良い町だ、と嬉しそうなベーチェ。

その足元に、先ほどの猫が寄って来た。

「お前…寒くないのかい?」

『この地域に住んでるくらいだからね、少しは慣れてるんだろうけど…』

しゃがみ込んで、その喉元を撫でる。

にゃー!と一度その体を強くこすり付け、またどこかに駆けていってしまった。

「良い町だ。本当に。」

『気に入ってくれたなら嬉しいな。』

「…色んな事が終わったなら私も…」

路地裏に消えた猫の姿を追ったままの視線は、そのままここから見える町を眺める。

『まずはこの寒さに慣れるところから、かな?』

「…それもいいかもね。」




家に戻ると父の姿はなく、残された母が早くも晩御飯の準備をしていた。

『父は?』

「さっきカイルが来て、一緒にどこか行ったわよ?」

行動派ではあるが、実は割と面倒臭がりな父にしては、カイルの誘いに乗るというのも珍しい。

逆にカイルからすれば、父と行動を共にできるのは嬉しい事で、私が思いつく光景としては、カイルとオーレンの仲に近しい物を感じる。

尊敬するのはいいけれど、オーレンには2人のように暑苦しい容姿にはなってほしくないとも思う。

そりゃ叔父のように肉体的にちょっと頼りない感じとまではいかないが…


私の預かり知らないところで2人が何をしていたのかは、その内無理やりにでもカイルに吐かせればいいとして。


『お母さん、また王都に出てくるつもりはない?』

台所に立ったまま、こちらに視線を向ける事なく母は問いかけに問いかけで返す。

「エディノームではなくて?」

場所、というよりその理由が居る場所であればいいのだけれど、今の時点でそれが王都なだけだ。

『まぁ、それは今後の場合にも依るかな。』

「そうね。確かに貴女の町はまだ気掛かりというか、一番楽しいところでもあるわねぇ。」

過去にキュリオシティの建設にも一枚嚙んでいたらしい両親からすれば、今のエディノームの発展具合は気になるところらしい。

セルヴァンとメアリがこのノザンリィの住民にとっての親であるのと似て、キュリオシティをある意味で自分の子供のように見守ってきた経験からすれば、エディノームはまた別の子供のようなモノなのだろうか?

成長を見守る親の気持ち、というのはまだ私には分からないが。


「あの人次第かしらね。」

『父?』

「きっと今頃、カイルとそれを確かめてるんじゃない?」


そんな答えに私の視線は自然と家の玄関に向く。

『2人してどこに行ってるんだか…』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


世代をまたぐ2人の男、そうして出た結論は。


次回もお楽しみに!

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