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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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377話 彼女の能力

377話目投稿します。


彼女が何故、潜入という任に選ばれたのか?

概ね予想通りではあったし、それこそが故郷に望む形ではあるが。

『変わらないなぁ』

一夜明けた翌日、案内がてらべーチェを連れて歩く風景は旅立った時とさして代わり映えのないノザンリィの日常だ。

「寒いのはともかく、静かでいいところじゃない。」

『まぁそうなんだけどね。』


そう多くはない人の行き交いでも、私の姿を捉えた住民はその口から凡そ変わらない第一声を飛ばしてくる。

「あら。久しぶり、いつ戻ったの?」

『昨日。あまりゆっくりも出来ないんだけどね。』

「アイナから時々話は聞いてるけど王都も貴女も大変なんでしょう?」

『口の軽い母だ。』

「ふふ…心配されてるのよ。私たちも同じだけどね。」


行きがけの御駄賃とばかりに渡された一部鋭利な金属塊。

昨日の薪割りで柄が壊れてしまった斧頭。

麻布に包んだソレを手に、名工の工房の扉を叩く。

「おう、帰ってきたって聞いてたぜ、嬢ちゃん。」

『これ、いつもの。』

麻布を捲り、またか、と一言、あの馬鹿力め、と二言。

サラりと刃先を指でなぞり、欠けが無いのを確認した後に釜ではなく、作業台に向かう。

「アレの数は足りてるか?」

私の主力である小さな刃、その造り手であるラルゴ。この小さい刃先が私や周囲の危機を救った数は細かいところまであげればキリが無い。

『うん、いつも助かってるよ。』

「今日は時間もなさそうだろう?」後ろに控えたべーチェに一度視線を向けて、私に向き直る。

「明日にでもまた来いや。」

自分の仕事に自信はあっても手は抜かない。

刃の整備は明日、斧の修理もその時に終わっているだろう。

『分かった。お願いね。』


「人気者なんだな?」

『ん?、んー…どうかな?、故郷を出たから物珍しいだけだと思うけど。』

「居なくなっても忘れられないというのは私からすれば十分過ぎる。」

使えないという烙印を押されれば処分されるか、端から無いモノとして扱われる。

さもそれが当たり前のように呟く今の彼女の表情は、積もりかけの雪のように少しの冷たさを漂わせる。

そんな環境で育ってながらも会話を交わせば至って普通の女性だ。

『そういえば…』

ふと頭に浮かんだ疑問は自然に喉元に上がって来たが、口から出す前に少し悩み、言葉は止まる。

「…?、何だ?」

『ん…言い辛かったら無理には聞かないんだけど、べーチェさんはシャピル家に居た頃、ノプスと同じく選別?の中に居たんでしょう?』

促されて黙るのも悩ましく、勢い良く口から出た問いかけに、彼女は溜息、肩を上下に揺らし、物好きね、と小さく笑った。

「別に隠す事でも威張れるわけでも無いし…あぁ、そんな気遣いは不要だわ。」

言葉に詰まった理由に気付いた彼女に逆に気遣われる。

「んー…要は私の得意が見たいって事だよね。」

辺りを見回す彼女が探すモノは何なのか?


歩きながら向かう先は町の中心を抜けて、旧領主の館方面。

今も変わらず老夫婦が代理のままで受け継いだ館は町の何処からでも見える象徴。

手前に拡がる広場は町の催事場。

季節が良ければ短い花の香りを楽しめる憩いの場所でもある。

「…ん、ここはいいね。」

私の少し先を歩いているべーチェが設けられたベンチに腰を下ろし、視線は散歩中の猫を捉える。

「…」

カクんと彼女の首が折れた。

『べーチェさん?』

急に動きのなくなる彼女に駆け寄り、肩を揺するがまったく反応がない。

どころか、支えていないと倒れてしまいそうだ。

『ちょっ…と…?』


「こっちだよ。」

『えっ?』

いつの間にか足元に近づいて来ていた猫。

「寒さに弱いって聞いてたけど、成程ね。」

『はっ?えっ?』

「まぁー、驚くよね。べーチェだよ。」

『……?え、っと…』

しゃがみ込んで手を伸ばす。

逃げる様子のない猫は少しニヤついているようにも見える。

顎の下を擽ると目を細めて気持ちよさそうにする姿は…猫そのものだ。

「おぉ…これは確かに気持ちいいな…」

本当に…べーチェか?

とまだ少し信じきれないままに撫でていると、

「…っ、ぶしゅん!」

くしゃみをする猫。

直後、目の雰囲気が代わり、一度身を震わせて、振り返り走り去った。


「あぁ、寒かった。」

ベンチに腰掛けたままで一度体を縮めてから上腕を擦る。

『も、戻った?』

「どう?」

『夢…じゃない、よね?』

「こんな寒いとこで寝てたら凍え死ぬわよ。」

驚き以外に何がある?


『えっと、操る…とはちょっと違う…?』

「正確には憑依。」

目で捉えて、視線を交わし、その相手の魂を眠らせて自らの意識を潜り込ませる。

一時的に対象の体そのものと一体になって動ける。

それが彼女の力で、潜入といった事に関しては今のような小動物に憑依するのが役に立つという事だ。

効果を出せるのは彼女の体調に依るところが大きいのと、乗り移る器の魂の力、そして意識に左右されるらしい。

先程の猫は、彼女からすると寒さ故に頭が回っていないといった状態だったからだという。

寒さによって噴き出したクシャミに依って意識が覚醒されて憑依状態が切れてしまったのだとか。


『凄い…』

「まぁ…役に立つかどうかはその時次第と環境によるけどね。」


『ねぇ、もっかい猫にならない?』

抱きしめても逃げない猫は貴重だ。

「嫌な予感がするから遠慮しとくわ。」

『えぇぇー!』

寒空に残念がる私の声が上がった。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


モノのついで、というのはモノの言い方で、佇む象徴はヌシと共にゆっくりとした時間を刻む。


次回もお楽しみに!

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