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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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371話 水面下の策

371話目投稿します。


戻った私たちを待ち受けていたのは言わずもがな。

「2人共何を考えてるんですか?」

案の定、戻ってきて早々に私たちの腕を掴んだヘルトはそのまま適当な部屋を選んで私たちを座らせて口を開く。

間違いなく怒っているはずなのだが、声色があまりにもいつも通り過ぎて逆に怖い。

『気分転換したくて…』

「夜の散歩に…」

彼女の怒りを鎮めるには心許無い言い訳を並べてみたものの。

「2人だけで随分と遠くまで行かれたようですが?」

まるで何処まで行ってたのかを知ってるような言い分だが、隣に座るセルストが小さく舌打ちをした事で何と無く理解した。

『今度から貴方は絶対に連れて行かない事にする。』

「無難な考えだ。」

「何か?」

『「なんでもないです」』




「フィル様、一人で出掛けるのは別にお止めしません。せめて誰かに伝えてから、それだけでもお願いします。」

一頻りの説教の後、真面目な顔で懇願された約束事。

『…ゴメン、また心配掛けちゃったよね。』


「それで何か分かったことが?」

『うん。まぁ壁は私やセルスト卿でも抜けれなくはないってとこかな。ヘルトは覚えてるでしょう?湖畔の下で…』

記憶を辿り、私が行った事を連想させる。

「同じような事が?」

『ちょっと調整が必要だけどね。』


こうなると壁の消失を待つ前に、何某かの手を打てるという流れになるのは明白だ。

無論通れないのは一部の者だけで、未知故の危険、警戒を考えなければそれ程困るわけでもない。

でもいざ必要になった時に出来るかできないか精細さが求められるなら試しておくことは悪い事じゃない。

「今はまだ国境を超える必要は無いのですから、あまり無茶は駄目ですよ?…と言っても無理でしょうけれど。」

いい加減慣れた、と言わしめる溜息を吐かれた。

彼女が言うように自分に出来ることを探して、その結果が周囲から見れば無茶、無理、無謀に映る事はそれなりに自覚が無いこともない。

『…ゴメン。』

でも知っててくれる人が居る事は嬉しいことでもある。


「さて、私からは以上ですが…」

扉を開いた廊下、壁に凭れていたのはカイル。

ヘルトが退室したのと入れ替わり、カイルは室内の長椅子に腰を落ち着けた。


『何よ?』

「べつにー」

明らかに不機嫌。

「ヘルトさんに怒られたんだろ?」

頷きを返すとだったらいいよ、と一言だけ。

「外には出れそうか?」

何をしてきたのか、言わずとも予想はついていたようで。

『できなくはないってところかな?』

そして私はというと、カイルに少し残っている匂いが気になった。

『べーチェさん?の所に行ってた?』

「ああ、ヘルトさんの手を借りたけど治療はしておいた。」

ヘルトからは匂わなかったがそこは彼女の身嗜みの整えありき、カイルに同等を望むのはあまりに酷という物だろう。


「あの壁って結局の目的って何なんだろうな?」

壁が作られたのはラグリアが王位に着くのと同時かその直後。

生み出した勢力の現在地は不明だが、壁の向こう側というのだけは分かる。

今回の調査以前には国を守る為の装置と考えられていたが、強者を両方向から阻むという点からすれば防衛のためだけではなく力の流出を防ぐ為といった事も考えられる。

防御壁として考えるなら確かに圧倒的な強者の力で並居る程度の侵入者を撃退していけばいいだけの話だが、壁を失った途端に状況は真逆になりかねない。


『そもそもシャピル家が謎すぎるよ。』

王国の歴史の中で目立ちはせずとも長い歳月その裏側に名を連ねていたであろう一族。

事を荒立てなければ今も尚その立場を変えずに王国に潜んでいた彼らが何故今王国を締め付けるような行動を執っているのか?

「王位を奪うつもりだった、とかか?」

『うーん…』

流れとしてはそう見える一面はある。

ただそれが今である理由に辿り着けない。

『所長ならまだ何か知ってるかもしれないけど…』

「今の王国にあるけど、昔は無かったモノでもあるのか?」

『…昔…と、今…』

もし王位を狙うとすれば、昔はできなかったけど今はできる事…。


推測しろ。


計画は抜かりなく進んでいる。

纏わる神を打ち砕く者を見つけた。

障害になりうる力を、分割し、吸収し、弱体化させた。

王冠に不義を抱く要因を生んだ。

絶対的な力に対応しうる者を生み出した。

そしてそれらを留めるための壁を作り、大きな箱に閉じ込めた。


強者はこの箱から出る事はできない。

千年の王冠を戴く者も同様に。

荒れた箱庭は怒りを買い。

全てを喰らい尽くして…その魂を削る。


やがて壁は時を待たず消え去り、孤独な王は荒廃した玉座に項垂れる…。


壁の向こうに、私やカイル、セルストのような強者が多く息を潜めているのなら、ラグリアはどうなるんだろう?

カイルや私のような特異な者が居たとしたら、彼の首は切り落とされてしまうのだろうか?


もしそうなったら、シャピルの一族はこの地に戻るのか?


『…もしかしたら私たちは…』

ラグリアと争ってはいけなかったのかもしれない。

「今更遅いってなってもさ、きっと上手くいくさ。」


『ふふ…』

「どした?」

『こんな時さ、叔父様が居たら、どんな策を考えるんだろう?って思っちゃった。』

「あぁ、そりゃいい考えかもしれねぇな?」


叔父様なら、きっといい策を考えていたはずだ。

思い出せ、あの人を。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


多くを与えてくれたあの人の思考を思い出せ。


次回もお楽しみに!

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