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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
376/412

369話 壁を超える術

369話目投稿します。


強者を拒む壁。

その先は未知だけが蠢く見知らぬ世界。

「中々いい代物だな?」

少し前を飛行するセルストが自分の手首辺りを突付くような素振りで私に声を掛ける。

四肢に付けている装具の事を指しているのだろう。

『うちの町の職人は優秀ですから。』

彼を真似るように下を指差す。

眼下には生活の灯りに包まれたエディノームの町が見えている。

「以前はゆっくりも出来なかったからな…会ってみたいものだ。」

平穏な日々に戻ったのなら、南部戦線から名が上がった者たち、私も含む者はその多くが罪人、反逆者としてどうなるかは分からない。

全てを無かったことになど誰にも出来ない。

それでも皆の平穏が残るのなら…私に出来ることをやるまでだ。


『ヘルトに怒られても知りませんよ?』

「気付かれなければ問題あるまいよ。」

いやぁ…流石に目立ち過ぎる私とセルストが一夜の間、その姿を見かける事もなければ誰だって違和感を覚えるだろう。

そもそもこの人はそうやって叱られる事を気にもしてない、私と違って…。

彼からすれば毛ほどの不安もないのだろうが、私は色んな人に叱られるんだろうな、と今から気が重い。




『ここからどれくらいですか?』

「この速さならそれ程かかるまいよ、すでにスナントも見えているのだしな。」

そう言えば、今もエディノームで暮らしているはずのヴィンストルの者たちはセルストの無事?な事を知っているのだろうか?

彼らに今の姿を…と視線を向けるが…。

今は見せない方がいい、のか?

『…まぁいいか。』

「何か言ったか?」

『今はいいよ。』

「そうか。」

一瞬だったけれど、彼が眼下に見えるエディノームの町並みを一瞥したのが見えた。

何だよソレ。




エディノームの上空を通り過ぎ、既に視界に入っているスナントへ向けて私たちは速度を上げる。

遠目で見るスナントの景色は先日訪れた時とは掠りもしない程に異なる雰囲気。

町から漏れる灯りは仄かにも温もりを取り戻しているようで、か細くもこの季節の夜の空気を内側から和らげてくれるような、そんな灯だった。

『良かった…』

思い出すのは教会の外に横たえられた意識不明の住民たちの姿。

あんな光景は出来るなら二度と見たくはない。

けどその原因の全てを事前に防げるわけじゃない。

そうなってしまった時に、少しでも早く苦しみから解き放つ方法があればいいのに、と思う。

「本来スナントの夜はどの地方より静かなものだ。」

南に拡がる砂漠の砂が、汎ゆるモノを呑み込み、全てに平等に静けさを与える。

セルストの個人的な好みだと言うが、一人になりたい時はこれ程に都合のいい土地はない、と言う。

『ん?…だったら何で…』

王国に反旗を翻すような真似をしたのだろうか?

「その理由を今更聞くのか?」

この動乱でスナント毎動いたのはあくまでも結果。

「まぁ…貴様らからすれば結果的に良かったのではないか?」

『…それ、どういう意味です?』

良い事?、そんなわけない。

「フフフ…少しいい顔になったじゃないか。」

怒っている、怒りを感じている。

『…今は私を煽ってる場合じゃないでしょう?』


「少し安心した。」

意味深な呟きの真意は私には不明。

ただ…悲しいかな、やはり今のセルストに対して我を忘れる程の怒りを抱くことは出来そうにない。

ある意味、彼の性格に差し替えれば興味が沸かない…とでもいうのだろうか?

今はセルストの相手をする余裕もないのは事実。

彼自信が私に明白な煽りをするのだってきっと彼の欲を満たすための駆引きだ。

残念だけど、以前のような形で彼と相対する事は無い。

それでも望まれるなら…私としては出来れば遠慮したいが先の闘技会のようなモノならまだ…。

『残念だけど貴方の煽りに構っている余裕もないの。』

「それは残念な事だな。」

以降、口は開かず、私たちは壁と呼ばれるソレが聳える麓へと夜空を翔けた。




『これが…』

「紛うことなき壁だ。俺がここを通れたのは貴様よりも若い時だったか。」

確かめるように拳を一度握り、開いた掌を壁に当てる。

時折カイルの体から発せられるような放電現象がセルストの手を覆い、壁より先への侵入を拒む。

「この身になってもしかしたら、とも思ったのだがな。」

口惜しいと睨みつけ手を離した。

同じ様に私も手を翳す。

私の中にももしかしたら?といった考えがあったのは事実。

例えばセルストと初めて相対した時のように意識を失った後にその力が発揮されていたなら、操りきれない自分には除外される程の実力はないのでは?と。

『…っ。』

残念ながら考えは甘かったようだ。

ある意味で大敗を喫しているシャピロ家であってもその名は伊達じゃない。

ノプスが言ったことは過大評価などではなく、明確な力の評価から来るものだった。

「互いに当てが外れた、といったところか?」

『そうね。』

とはいえ、実を言えば私が試したい事はまだある。

成功するかどうかは試してみない事には分からないが、個人的には可能性は高いと思う実験。

だが、それをやるにはセルストの目と存在は少々邪魔だ。


『ねぇ、セルスト卿。』

力加減を変えているのか?数度、同じ事を繰り返すが、一向に好転の気配に乏しいセルスト。

『もしここを抜けれたとして、貴方は何がしたかった?』

何度か繰り返したソレを止めて、私に顔を向けるセルスト。

「この体にした者を探して八つ裂き。」

思っていた以上に物騒だ。

いや…まぁ、彼からしてみれば当然だろうし、吸い取られたという自覚から、元の力が戻らないというのもまた、彼なりに腹に落とし込んでいる証拠か。


『もし通れたとして、約束してくれるなら、今思い付く事を試してみてもいいのだけれど…?』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


約束。

それが守れるならまだ後戻りはできる。


次回もお楽しみに!

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