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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
373/412

366話 労いの燃料

366話目投稿します。


ノプスから齎された情報を元に、自分に出来る事を考えた。


★ご案内 今後の投稿予定について後書きに記載を行います。

「フィル様、そちらはどうですか?」

『ゴメン、思ったより綺麗にならなくて…』

「大丈夫ですよ、代わりましょう。」

ベッドに洗濯した綺麗な布で整える。

ヘルトや屋敷、或いは城に勤めるメイドさんたちからすれば朝飯前といった作業も私には難しい。

立ち位置を入れ替わった彼女は手慣れた手付きで皺一つない寝台を完成させた。

『ふわぁ…凄いなぁ…』

自分と何が違うのかさえ分からない。

これもまた職人技術と言ったところか?

「ふふ、いつかフィル様にも寝具を整える日がくるのでしょうか?」

少し悪戯味を含んだ笑みで淀みなく片付けていくヘルト。

『う…ヘルトも中々言うようになった…』

何がだ、と内心、自分に突っ込む。


今日、ヘルトに付いて回っているのには少々理由がある。

『次はどこだっけ?』

「そろそろお昼の下準備ですね。」

『となると…』

城下でも一二を争う飲食店、千戸亭。

調査研究の短い期間とは言え、その戦場を地下に移しても質と客の満足度に手は抜かない。

多種多様なかなりの数の研究者、技術者、そして現場環境を整える作業者。

並み居る者たちを満足の渦に巻き込み食事時ともなるとまるて鉄火場相応の現場。

その下準備、のお手伝いが次の仕事だ。




「フィル様はホールの準備が良さそうですね。」

厨房は凄まじい光景と雰囲気だ。

『ヴェルンの工房より熱いんじゃない?』

「ある意味はそうかもしれませんね。」

腰の結び目を強く締め直して、私にお願いしますね、と残してヘルトは厨房へと足を踏み入れていってしまった。

ヘルトが加わった厨房から発せられる圧は凄みを増して私の髪の毛を揺らす。

『凄いなぁ…』

とかまけてもいられない。

ベッドと違って椅子を並べてテーブルを拭くだけ。

これくらい出来ないと本当に唯の役立たずだ。


『さて…』

流石にホールの準備くらいは問題なく完了。

厨房からの熱苦しい程の空気は相変わらずだが、私はとある準備を進める必要があった。

『上手く行けばいいけれど。』

千戸亭の仮店舗の外、見上げた視界はその屋根を超えて更に上に。

地下空間の外周にほど近い位置に立てられたこの店舗、眺望も中々悪くない。

『でも、空が見えないのはちょっと寂しいね。』




「やぁ、フィル。」

眠りから目を覚ますには足りてない睡眠時間と比較しても話にならない。

『隈が取れてない。』

「そうそう寝てもいられなくてね。ほら、一応は指揮者だしねぇ?」

引き連れた数名の技術院職員を振り返り相槌を引き出すノプス。

逆にあれ程疲弊していたのに起きれる方が尊敬に値する。

私なら三日は起きない自信がある。

『作業前ってとこです?』

「たまには部下を労うのもいい上司の姿ってものだろう?」

「なっ?」と振り返り声をかけるものの、皆が所長ほどにタフなわけもなく、疲れが抜けきらない様子が殆ど。

大変なのは勿論ノプスだけではない。


「今日の、ご飯は、なんだろなっ!」

凄く嬉しそうに千戸亭の入口を潜るノプスの後、同行した職員もそれに続く。

『よく付き合えるなぁ…』

「あれがノプス所長ですから。」

やや後方に連れ立っていた職員の一人が私に声を掛けた。

『皆さんも毎日お疲れ様ですよ。』

私じゃなくても彼らの未知に対する情熱の欠片ぐらいは感じ取れる。

「ふふ、聞いていた通りの御方ですね、フィル様。」

あまり顔馴染のない人に様付けされるのはどうにもこそばゆい。

今の立場はともかくとして、身分は何も変わらないただの田舎者のままだ。


「では。」

と話を切り上げ、職員の一人もまた扉を潜った。

ふと、足元を見ると何やら…

『…何だろ?』

黒い点。

しゃがみ込んでじっくり見つめるその色は黒ではなく、固まりを帯びた赤。

『血?』

自分の体を何処かに引っ掛けただろうか?

もしそうであれば、さして気にする必要もない程に小さな物だ。

立処に癒えていく私にとっては怪我ですらない。

もしかするとここを去った職員の中で手傷を負っている者がいるのだろうか?


だとすればせめて止血だけでも。

そう思い、彼らの後を追って私も千戸亭の入口を潜った。




結局手傷のヌシは見つからず。

まぁ…治療の素養が少しでもあれば治すのは容易いはずて、血痕が店内の床を汚す事は無かった。


『はい、食後のお茶と甘いお菓子ですよ。』

歓声が上がる理由は、ここが仮であれ千戸亭である事。

このお店が城下でも強い勢力を締めている理由がソレだからだ。

昔程ではないのだろうが、彼らにとってのソレは技術院界隈で正にご褒美と言われて問題ない程のお菓子の存在だ。

考える事は体を酷使するより甘味を欲する。

「考えるのには頭に詰め込む燃料は必要だからねぇ」

『船や変な装置に使うわけじゃないでしょう?』

燃料とは酷い喩えではあるが、言い得て妙と感じてしまう自分もいるわけで。

ノプス曰く、お菓子の甘さこそが研究職に必要な成分だと声高らかに宣言。

理由も根拠も私には分からないが、まぁ…彼女が自信有り気に言い放つのであれば強ち間違っても居ないのだろう。


『ゆっくり食べるといいよ。店主も喜ぶだろうし、ね。』

一概に賑やかに、和やかに、というよりは唯只管に体の燃料補給さながらの上司の労いは今日の作業に於ける準備を進めて行った。


『オヤスミ。』





感想、要望、質問なんでも感謝します!


仕掛けられているのなら、それを塗りつぶす程の罠を仕掛けるだけ。


次回【★11/11月曜日予定】もお楽しみに!



※今後の投稿や活動についてのご報告をさせていただきました。

宜しければこちらも一読ください

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3363344/

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