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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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365話 隠者の影

365話目投稿します。


最早、秘匿の地下空間はその装いを真逆へと姿を変えている。

『うわぁ…』

口角が引き攣るようにピクピクと震える。

『これは…酷い…』

眼の前に拡がる光景は、戦場に於ける医療現場と勘違いしてしまいそうな程に酷い絵だ。

幸いな事に場を染める色や匂いにソレを彷彿とさせる要素がないという所だろうか?


半ば強引にヘルトを送り出して数日が経った。

考えていた以上に長くなった、現在も続いている休暇の最中、それでも日々の警戒の針を研ぎ澄ませていたが、特に事の起こりはなく、何か出来ることがあるとすれば、極普通の生活支援と己の体調を万全にする程度。


あの日以降も進んで私のお願いを続けていたヘルトから言伝を受けて訪れた件の地下空間。

王都の関係者の殆どを投じる形となった今回の調査だけに支援についてもそれなりに行われたようで、先日私たちが辿り着いた時とは内装からして随分と手が加えられたようだ。

『まぁ流石にあの休憩所じゃ足りないよね。』と追加された建物でも一番大きい扉を開けた中で見た光景、ソレが私の口から溢れた感想だった。


別の建物の屋根からはこの場所に似つかわしくない煙が上がっていてそこだけは妙な騷しさと鼻腔を擽る香りが起こっている。

『食堂か、な?』

そう言えば数日間の警戒の折、城に大量に食料が運ばれていたのと、町の飲食店の営業が減っていたのが気になったが、原因と理由がこれだった事に納得を得る。

私も利用した事がある店が作る独特の香りは多くの関係者の活力になっている。


しかしまぁ…胃が満たされ、眠る場所もしっかり用意され、利用者の生活を支える基盤が厚くても当人たちがどれ程の限界に触れているのかは別問題。

『私には無理そうだ。』

事に迫られれば数日間ぶっ通しで当たる事はあっても日常的に出来るか?と言われれば私の答えは否だ。

学術院の現在の指導者、指揮者はロニーの直接の上司に当たる教授と呼ばれている人物のはずだが私にはそれ程面識はない。

もう少し限度を考えるように進言したところで、少なくとも技術院側、ノプスにはどこ吹く風な結果が目に見えている。

件の教授にしても、部下であるロニーの普段の様子を見ていれば一概に改善されるのか怪しい所だ。


結論は、成るように成れ、と言ったところが差し障り無い範囲での私の判断だ。

私には真似できないだろうが、精々事が落ち着くまでは。

落ち着いた後にでも好きなだけ休んで頂きたい。




「やあ、フィルじゃないか、ハッハッハッ!」

ブラブラと眺めながら歩いていた私に声を掛けてきたのは技術院所長のノプス。

明らかに睡眠不足で目の下が凄い事になっている上、言動も少々…かなり変だ。

『何日目?』

短い問いに、指折り数えてみたものの、

『え…』

両手の指が曲げられ、折り返される。

「ハッハッハッ、忘れた!」

『嘘でしょ…』

多分この人が仕事で倒れる事は無いんじゃなかろうか?むしろこの人こそが古代の装置とかで出来てるんじゃないか?

「フー…」

とは言え今の話が事実である事が証明できる程に疲労が顔から滲み出ている。

『あまり無理しないでくださいよ、あんな怪我もあったんですから…』

怪我?とはまた違う気がしなくもないが、今は細かいところはどうでもいい。

「…んー、そこはさぁもっとやれ!って言うところじゃない?」

スッと顔を寄せたノプス。

突然の彼女の行動に唯一反応出来たのは両手でその身を受け止める程度で、耳元に近い口から呟かれた言葉…

「ヤツらの手の者が居る」

と。

「っとっと、ゴメンゴメン、流石のノプスちゃんも限界が近いかなぁ?」

なんて身を起こしながら元の口調に戻した。




その後は会話の流れに違和感を出さないように付き添って仮設の宿舎へと送った。

一応はベッドに潜ったノプスを見届けてから再び地下の徘徊へと戻る私は、頭の中で彼女の言葉を反芻している。


ノプスが私に伝えた言葉、内容、そして手段。

ヤツら…彼女が警戒心を顕にする存在。

恐らくは彼女の出自、シャピル家の手の者で間違いないだろう。

少なくともその手勢であればこの場所に立ち入る事は容易い。

ラグリアの興味や指示は無くとも、長く秘匿とされていたこの施設の管理をしていたならば、私たちが知り得もしない侵入経路がある可能性は考えるまでもない。

ましてや今の状況からすれば作業員なり支援者なり紛れてしまえば特定すら難しい。


ノプスが数え忘れたと、恐らくはそれだけでは無いだろうが、そう言う程に調査に没頭していた理由、ノプス自身は侵入者にある程度の目星は付いている。

気付かれている事を見破られたなら彼らは何の躊躇も名残もなく姿を消すだろう。


この調査を急ぎ、大きな成果を上げるためなら、邪魔は勿論何としても阻止するし、捕らえる事も考えておかなければならない。


歴史的に目立たず、名を残しても目に見える実績は残さない。それがシャピルの記録だ。

その秘密に少しでも近付く事。

ノプスが私に伝えたかった事、きっと当たらずも遠からずと言ったところだろう。


『その時が来たら…』


私も躊躇するわけには行かない。

まるで祭りさながらの様子にも見えるこの場所。

そこに集まった人たち。

この結果次第で沢山の命を左右するかもしれない。

だとしたら…私は多くに助けられ、支えられ、託されているのだから。


もっと大きな腕で包み込めたなら…。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


王都だけじゃない、大切な人はもう数えきれない。


次回もお楽しみに!

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