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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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363話 裸の付き合い

363話目投稿します。


昼間から温かいお風呂なんて贅沢すぎる。

『ん…』

窓、カーテンの隙間から覗く陽光が瞼を過ぎり、目覚めを促す。

暇すぎる休息日の締めは熱情と思い出と温もりに満たされ、深く心地よい時間をただただ並んで天井を見上げている内に眠りについた。

まだ目は開けていないが、ベッドにまで陽が差し込むとなればもう随分と朝の時間からは遠い。

幸いな事に扉を叩く音は聞こえていない。

名残惜しい微睡みから意識を醒まし日差しから逃げるように顔を逸らして目を開ける。

「…やっと起きた。」

何をするでもなく、こちらをただじっと見つめる視線と重なり、もう一度瞬きをしてからゆっくりと口を開いた。

『おはよう』と。

「早くはないな?」

相変わらず空気も読まない幼馴染だ。

『…バカ』

それも彼らしいところだ。

伸ばされた手が私の頭に添えられ、ゆっくりと撫でられる感触に、心地よさに目を細めた。

『ん…』

成程、これは猫の気持ちも分かる。

撫でられるって凄く単純で、日常にありふれているけれど嬉しくて気持ちいい事なんだな。

多分今の私は端から見れば陽溜まりで寛いでいる猫そのものだ。

「…猫みてぇだ。」

驚いた。

いや、そうでもないか?

「どした?」

一瞬の表情に返した言葉、

『自分が猫みたいって思ってたとこ。』

「そっか。」

短い納得を戻して再び揺れる彼の手。

その手を両手で掴んで胸元に奪い取る。

少し肌寒い肩口を和らげるように暖を取る。

『少し堅い。』

鍛えられた男性特有の無骨な手、指先。

剣の柄を握り、日々の鍛錬でボロボロのソレに文句をつけはするが嫌いじゃない。


そして会話は止まる。

何も無くてもこうして過ごす時間は本当に久しぶりで、懐かしくて、少し嬉しい。

何も無い日はずっとこのままでいい。

心からそう思える。

いつか…何処かに自分の家を持って…そして…。

少し視線を上げて、改めて目の前の幼馴染の目を見る。

ずっと逸らす気配のない視線。

そして今頭に浮かんだ光景が重なり…。

『…う。』

途端に顔が赤くなるのを自覚した。

「ん?どした?」

ベッドに潜った。逃げ場はないが。

『うー!』


変わらない様子でカイルは私の頭を撫で続け、しっかり、のんびり、ゆっくりと午前の時間は過ぎていった。




『フー…』

のんびりお風呂も久しぶりだ。

王都に居た頃、初めてこのお風呂を使わせてもらった時、装飾もそうだが、泳げる程に広い湯船に感動したのを覚えている。

「あら、貴女も?」

立ち上る湯気の中から姿を見せた美しい人。

頬が少し汚れている。

『叔母様…ここ。』

自分の頬を指で示し、午前中に叔母が何をしていたのかを想像する。

叔母も最近は何かと忙しいはずで、お気に入りの庭園の手入れに使える時間も少ない。

それもあってか、一心不乱に土弄りに勤しんでいたのだろう。

「あら、気づかなかったわ…ちょっと待っててね。」


一旦姿を消して、顔を整え戻ってきた叔母。

『顔が活き活きしてますね?』

「貴女も、肌艶が良いように見えるけど?」

いかん、これは藪蛇になりかねない。

「ふふ…変に肴にするつもりはないわ?安心なさいな。」

それは助かる。

「でも、いい夜だったのは違いないみたい。」

『そ、それは…はい。』


「貴女たちを見てるとね、自分たちの若い頃、貴女の両親も含めてね?。思い出しちゃうのよね。」

肩までしっかりと湯船に収めて、視線は遠く。

懐かしさを思い出すようにポツポツと口を開いた。

「本当に貴女たちはジョンとアイナそっくり、それを近くで見ていたアインや私自身も若かった。」

更にその四人を眺めていた人物、ラグリアも含めて、懐かしくも輝かしい。

そして決して戻らない美しい記憶。

叔母が語る昔話は、これまた耳にするのは珍しく、

『ラグリアともよく一緒に?』

「今でこそ若作りしてるけどね、当時は本当に爺臭かったのよ?」

叔父や叔母が一時期に於いて私の両親と旅をしていたのは知っていたが、そこに国王であるラグリアも同行していた、というのは初耳だ。


そうか、今までだと明言にせず叔母とラグリアは姉弟のように思っていたが、実際は違っていた。

叔母も王族の血を引いているというのは分かったが、本当のところのラグリアとはどんな関係、繋がりなのだろう?

『言われてみれば少し気になりました。』

問いかけて返された言葉に、少しながら…いやかなりか?驚く事になる。

「貴方が陛下に気に入られている事は重々承知しているわ、それでも…その、何と言うか…身内からすれば、ねぇ?」

言葉を選ぶ、というのも困り物で。

「正直に言えば…」

口元に手を添える叔母、身振りから察するに小声で呟くようにと、私の耳を近くへと促す。

「少女趣味にも程がある。」

『あ…はい…』

国王ともなれば、一般的にありえない程の年の差など関係なく、家柄などの兼ね合いでそう言った関係も無いことはないだろう。

少なくとも私はそんな枠組みに居るような立場ではない。

それでも私にちょっかいを出す辺り、そして実年齢も考えれば、言葉に出しにくいのも納得だ。

あくまで小声で口にしたのは叔母の優しさだろうか?


当事者ながら思わずに居られない。

地下での緊迫したやりとりからすれば申し訳ないが彼が演じる王という役柄は私の中で随分と小さくなってしまった。


『大変だな、今更だけど。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


こうして過ごせる事はとても幸せなのだという再認識を。


次回もお楽しみに!

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