362話 熱情
362話目投稿します。
体調?状況?余暇のせい?
「この先、何があると思う?」
『どうかな…外の事って本当に何も分かんないし。』
旅に出る前の私たちは故郷の町の外の事ですら何もかもが新鮮だった。
新しい町につけば何もかもが輝いてるように映って、事ある毎に田舎者丸出しの落ち着きの無さ。
折々の同行者たちに笑われ、恥ずかしい思いをしたのも今ではいい思い出だ。
『結局私たちって今までと同じじゃない?』
ラグリアやセルストの言う危機感とは別に、故郷を出る時と同じように国の外に対する好奇心は拭えそうにない。
「言えてるな。」
『せめて田舎者みたいには見られないようにしたいなぁ…』
「それ、自信ないわ。」
不器用な彼はすでに諦め状態。
私も私で勿論自信なんてないし、真新しい物はどうしたってワクワクする。
出来ることなら2人が危惧するような事に直面しなければいいのに…。
「エディノーム、どうなるかな?」
『グリオス様とマリー、リアンさんが居れば取り敢えずは大丈夫と思ってるけど…』
「出来れば見てたいし自分も、ってとこだよな。」
まだまだ未完成の町。
直面していた事象からは脱したとはいえ、町の誕生から共に居た身としては、カイル以上にその気持ちは強い。
『そだね。』
「また軍隊みたいなのに入れられるんかな?」
『それは外次第じゃない?…でも…』
言い淀む私を察してか、
「…誰も危ない目に合わないってのも難しいか…」
『うん…あまり見たくはないな。』
軍と称される集団を見ているのは辛い。
本来ならきっとグリオスや、それこそ西のパルティアの方が慣れているだろうに、これも目立ち過ぎた自分の行動の結果か…結局は行動の一つ一つが重なって私に集束してしまった結果に他ならない。
歴史の裏側、表舞台に立たないように立ち振る舞っていたとある家柄の話はまだ記憶に新しい。
しかし、件のその家が今王国を取り巻く状況に大きく起因している。
その調査は現在進行系で、私たちの立っている地の更に下層で行われているに違いないのだ。
新たな防衛機構や、実際の侵入者に対抗するための人員は見つからなかったものの、先程見送ったヘルトが少しだけ心配になる。
彼女だけではない、実際に何等かの成果を挙げるために頑張ってくれるであろう技術院、学術院の者たちも同様だ。
『危ない事が起こらなきゃいいけれど…』
「俺が行ってくるか?」
『ふーん…ヘルトが心配?、それともパーシィや所長…ロニー?』
「ん?…何だって?」
『何でもない。』
本当にどうかしてる。
今日は何だか…彼の言葉が、普通の会話のはずが、妙に苛つく。
「何か今日のオマエ、おかしくねぇか?」
いい加減そんな私の様子に感じ始めた疑問が彼の口から紡がれた。
『…』
その意見は決して外れてはいない。
自覚する程に今は、妙に、彼の一挙手一投足が癇に障る。
屋敷で充てがわれていた部屋は、久しく使ってなくても手入れが行き届いていて、メイドさんや執事さんたちには頭が上がらない。
背後から追いかけてくるカイルの気配を感じつつ、彼の顔を正面から見れない自分に戸惑う。
ホントに何か変。
切っ掛けのようなものに心当りがないのに…
逃げ込むように閉じた部屋の扉を抑えて。
『何で追いかけてくるのよ…』
「いや、そりゃ追っかけるだろ?」
ホントに何かヘンだぞ、と。
アンタは心の声でも聞こえているのか、と思える程に…
扉で隔てた向こう側、ズルズルと下がる音。
廊下に腰を下ろしたカイルが呟く。
「何かしたっけかなぁ…」
そんな事ない。
変なのは私だ。
今日、彼と交わした会話。
一つずつ思い出す旅の思い出、思った事。
『…アンタとの会話、楽しかった。』
それは本心。
まるで自分の考えを確かめるような会話。
自分の気持ちに質問して、自分の気持ちに答えるような、そんな会話。
『でも…』
これだって私が勝手に誇張しただけだ。
私の心配を打ち消す為に提案してくれたカイルの気持ちに、私の我儘が悪さをした。
『フー…』
大きく深呼吸を一つ。
そして扉を開いた。
「おわっ!?」
背凭れを無くした彼の上半身が、私の部屋に倒れ込んだ。
『……やあ。』
掛ける声に迷い、何とか出たのは情けない呼び声。
「お、おう…」
ええい、儘よ!
グチャグチャと考えるのも馬鹿らしく思えてきた。
いっそ振り切ってしまえ。
転がったままのカイルの首根っこを掴んで、勢いに任せて部屋へと連れ込む。
一応、特に言い訳をする必要も無いが、廊下に首だけ出して、人が居ない事を確かめて扉を閉じる。
この屋敷には眼の前の男と違って合図もせずに扉を開ける者は居ない。
それは分かっているが、私は部屋の鍵を掛けた。
施錠を確認した私はそのまま、カイルを掴んだまま、ベッドへと向かった。
力任せにカイルの体を放り投げ、羽織っていた上着から袖を外す。
ハラリと落ちた上着の音と同時に、ベッドが撓む。
「本気か、オマエ?」
『悪い?』
「いや…悪くねぇ…けど…」
『もう…黙って。』
単純に、私の言葉に後押しされる形で、カイルは私の手首を掴み、一瞬で体を入れ替える。
『わっ…』
「知らねぇからな?」
『何がよ。』
「言わすなよ、恥ずかしい。」
『こっちの台詞なんだけど?』
「さいで。」
先程まで玄関先で外気に晒されていたカイルの上半身。
私の変な体と違って、治癒術を受けても決して消えない大小無数の傷跡。
指先で触れたその傷跡から伝わる熱は、温もりを通り越して、火傷してしまいそうな程に熱かった。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
本当に気が狂ったのか、と思える程に今の自分はおかしい。
次回もお楽しみに!