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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
367/412

360話 特殊な趣向

360話目投稿します。


王と叔母のやり取りも束の間、王と幼子のやり取りもまた緊張感が走る

『じゃあ殆どと言うかまったく覚えてないってことか…』

「口惜しい事にな。」

少し場を整え、感動の光景もまだ冷めやらぬものの、いつまでも時間を費やせる程の余裕もない。

「叛逆の徒としての矜持は全う出来たのか?」

見た目は幼子、身の丈で言えばオーレンやイヴよりも一回り二回り程に小さくとも中身は変わらぬセルスト卿。

嫌味に相違ない王の言葉だがそんな物も彼からすれば何処いく風のようなものだ。

「俺を動かしたのはそこの娘で、見出したのは貴公だろう?」

唐突に大元の原因みたいに指すのはやめていただきたいところではあるが、私自身にもそうした行動をしている自覚はあるので反論は出来ず。

『むぅ…』と唸るしかない。

私の様子と対極に嫌味を発した張本人と、言い返した叛逆者は口元に妙な笑みを浮かべており、これでは板挟みの私が一番の被害者じゃないか…。


しかし、セルストの言い分が全てだとすればあの遺跡で彼を捕らえた機構そのものが王都の地下に拡がる空間を生み出した者の手に依る物と言う事になる。

恐らくは私たちが突入しなければ王都の状況は前から変わらない物だったはずで、そこに変化があれば何某かの動きを見せて然り。

すでに動きがあるのか、まったくの憂慮か、的外れか、あれらが何の為に造られたのかも分からない私たちにとっては手の打ちようがない。


「すでに調査計画は動かしているよ。私もこの後現地に行く事になるだろうね。」

手を上げたノプス。隣のパーシィも頷いている。彼女は最早、本格的に技術院側の立場になってしまっている。

船旅の前はそれなりに拒んでいたはずだが、成行というのは恐ろしい物だ。

「これについては国の全力を上げる。学術院も共同であたってくれ。」

「勿論ですよ!」

鼻息荒く答えるロニーだが「あ…一応教授と話してからになりますね〜。」と加える辺り、彼女の好奇心が先行しているところが見て取れる。


私が出来る事、何があるだろう?

ラグリアとの駆け引きはそこまで詰まっているわけではない。

研究や調査で自分が何等かを成せるかも自信はない。


『ラグリア、王国の周辺国について分かっている事はあるの?』

一般的な知識ではそれこそ国境付近の現在を探るしか細かな情報は分かりそうにない。

精々自分にある僅かな物といえばオスト山脈を超えた先の小さな集落や、西の大海を超えた先にサクヤの故郷が存在しているのを知ってる程度。

「大仰な交流は殆ど無い。過去の歴史から見ても西からの手出しはそうそう無いと思うが東については火山活動以降にあちらがどういった取組みをしているか…気にすべきはやはり南部だな。」

ラグリアの言葉に真っ先に返したのは小さな体のセルストだ。

「南部国境付近は混沌の域だ。障壁が無くなればアレは間違いなく侵略に移るだろうな。」

『障壁?』

見慣れない言葉に聞き返すが少々呆れるような態度で睨まれる。

「構造は俺も知らんが国境には古くから防衛の為の結界が張り巡らされている。」

エディノームに私が張ったもの、地下空間への侵入を遮っていた物も同類といった所か?

しかし、王国領土を全て覆う、恐らくは海上も含めてとなれば一体どれ程の人員と時間を要したのか…。

セルストの言い分だと、その障壁が消えてしまうまで時間はあまり残されていないかのような口振りで、それについては地下の円筒を破壊した私たちが言えた義理ではない。

己の拳を何度か握り直しながらセルストが付け加える。

「まだ信じがたいところはあるが、俺の力がそれに充てられたのならばまだ幾分の余力はあろうが…な。」


自分の力が奪われたからか、尽きる時もその身に感じられるところがあるのだろうか?

もしあの装置がまだ動くとしたら…




『本当に大丈夫?』

城での会議を終え、それぞれの居へと戻る事となった一時。

私と共に屋敷へと戻る事となったヘルトが兄の身の振りを案じていた。

当然、叔母はセルストが何をしたのか理解した上で、客人として、ヘルトの家族として招き入れるつもりでは居たが、セルスト本人がそれを拒み彼の行き場をどうしたものかと。

以前なら上層部の一画に南部地域用の居宅があったが、一連の騒動でそれも取り潰しとなってしまっている。

「なら私たちと一緒に来るのはどうだい?」

助け船を出してくれたのは、技術院のノプスを始めとする調査、研究にあたる面々。

「ゆっくり眠れるかどうかは確約はできないけどね。」

聞けば彼等は一度、技術院或いは学術院に戻った後、蜻蛉返りで地下の調査に向かうという事だ。

新たな対象が目の前にぶら下っていれば掴まずには居られない。

そういう人種しか両機関には居ないのだろうか?

『いい加減衛星部門というか健康部門みたいなの設けた方がいいんじゃない?』

「確かに。」

私の突っ込みにパーシィが激しく同意する。


「セルスト卿が知る情報も中々有益に使えそうなのでね。そちらが良ければ是非共に来て頂きたいというのが正直なところだよ。」

「そちらの方が気を使わなくて良い。構わんぞ。」

中身は間違いなくセルストなのだが、今の見てくれから眺める率直な意見としては…


『何か…可愛いな…』

「…ですよね?」

ヘルトさん?

「オーレンに引けを取らないわねぇ」

叔母様?


感想、要望、質問なんでも感謝します!


久しぶりの屋敷で過ごす一夜。

こんなに落ち着いてゆっくりできる夜が次に訪れるのはいつの日になるだろう?


次回もお楽しみに!

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