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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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359話 尊さとは

359話目投稿します。


二つの絆が織りなす光景は、緊迫と尊い光景を見せてくれた。

『ふ…わぁ、ぁ〜』

少し眠っていたようだ。

まだ重い瞼を開けて室内を見渡す。

窓の外の明るさを見る限りはそれ程長い時間眠っていたわけでは無さそうだ。

「フィル様、まだお疲れの様子。お休み戴いて大丈夫ですよ?」

『ううん、もう大丈夫。ヘルトは平気?』

頷き、ここに案内された時と変わらず彼女の膝元で眠ったままの幼子の頭を撫でる。

その表情に僅かながらに笑みが見えるのは心地よい証拠か、楽しい夢でも見ているのか、いずれにせよこうした反応を見れてこれはこれで一安心だ。

『この子がセルスト卿って貴女を疑う訳じゃないんだけど何か確証があったの?』

必要、というわけではないが、彼女が何を以て彼を彼だと認識したのか、少し気になっていた事を聞いてみた。

「あぁ、それは…」

血の繋がりで何と無く、というのも嘘ではないが、と前置きをした上で毛布に包まれた右腕を捲り上げる。

肩口まで上げられ、少しブルっと反応するのを尻目に幼子の肩を指した。

そこには注視しないと見落とす程だが痣のような物が見て取れる。

「小さい頃の記憶ですが、兄におぶってもらった事があったんです。」

その視界に残った兄の肩。

そこには同じ様な、体の成長と共に濃くなって行くであろう痣があったと。

『…そっか。』




「スタットロード夫人、御足労済まないな。」

「いえ、この状況であれば私が出向かずどうしましょうか。」

チラりとラグリアの肩越しにこちらに視線を飛ばした叔母が小さく溜息を吐いたのが見えた。

傷はともかく、流石に装衣までは取り繕う事は出来ず、主に前面に出ていた私やカイル、ガラティアの見た目は明らかにボロボロだ。

その様子を飲み込んだ上での恭しいやり取り。

そうする必要がある程に今の王都は日常と大きく掛け離れた異常に見舞われている。

「隠しても仕方あるまい。現に城は落ちた。」

「私をお責めになりますか?」

私たちには計り知れない駆け引き、しかも両者共に王族の血筋。

時と場合に拠れば大事どころの話ではない。

人柄、人脈、有する力やその立場次第で内戦になっても驚きはしないだろう。

「…引いては私の為を思って、と分かってはいる。しかし今すぐに結論を出すにはまだ事も動き始めたばかりだ。私自身も行末を見たくなったのだ、あの男と夫人が託した者たちがどう受け止めるのかをな。」

一度目を閉じて、再び開いた眼で王の視線と言葉を正面から受け止める叔母。

「…ふぅ…ならば私も彼らと命運を共にしましょう。」

大きく息を吐き、この件は一先ずの終わりを告げた。


叔母に何らかの罰が与えられるとしたら、その内容も温情もすべて私とカイルが取る行動に左右される。

そういう事だ。




「さて…まずは無事に戻ってきてくれてありがとう、御苦労様だったようね?」

『叔母様…』

駆け寄り、直前で差し出された手を握り返す。

『ごめんなさい…』

「謝ることなんて何も無いでしょう?」

叔母の想いは振る舞いと、その手から十二分な程に伝わっている。


私の肩を乗り越えるような勢いで飛ばした視線の先、幼子をあやすヘルトの姿…いや…叔母の視線の向きはヘルトではなく…

『あっ…』

若干視線に熱を感じるのは…触れないでおくべきか…私たちも実際の所はまだ不明だが、彼が目を覚ましたらどんな騒動になるのか?




「…む、ぅ…煩いぞ…」

声だけでなく、体も好き放題にされていた幼子が眠そうな瞼を開いた。

『あ、起きた。』

「…可愛いわねぇ?」

ハッとしたのも一瞬、直後彼の動きが固まる。

「なっ!…どっ…ええい、離せっ!」

纏わりつく叔母から逃れるように暴れるセルスト坊。

「あらあら、少し落ち着きなさい、セルスト卿?」

「む…貴殿はスタットロード夫人、か?」

「ええ。」

言われた通りに暴れるのを辞めたものの、自分自身の体に起こったこと、目覚めてみれば思いも寄らない者に取り囲まれている事。

恐らく気を失う前に居た場所の事も踏まえれば彼の混乱は当然だろう。


「…貴公らの言う事は俄に信じがたいが。」

流石に自分自身の体を改めて確認すれば推測だけの話ではなく紛れもなく現実なのだ、と認めざるを得ない。

そして、周囲の様子を改めて確認する中で、ヘルトと視線が交わる。

「…無事だったのだな。」

「…」

あんなに会いたがっていた、目覚める前も愛おしそうに抱いていたヘルトは、実際に自らの意思で動きを見せるセルストに対して声を出せずにいる。

気圧されたり、恥ずかしかったり、そんな感情ではない。

これは紛れもない喜びなのだが、彼女の心の計器はその指針が激しく揺れ動いているようだ。

笑顔に緩む表情と、溢れる涙を何とか抑え、兄の前では凛とした態度であろうと、端からみても健気さが独り歩きしているような光景だ。

『ヘルト。』

そっと肩に手を添える。

このまま言葉も交わせないなんてのは悲しすぎる。

背中を押してあげる事ぐらい、難しい事じゃない。

「…兄様…お元気ですか?」

本当に短い再会ならきっと何度もあった。

城に勤めていた事も、以前私が遠乗りに誘った時もそうだ。

しかしいずれもゆっくりと話をする時間は無かった。


念願とも言える兄妹の再会は、幼い兄と彼のお蔭で平穏に育った妹の尊い時間。


触れ合いを求めたのは意外にも兄だった。

膝立ちで目の前に居る妹を不本意なその身で強く抱きしめた。

「平和に育ってくれて嬉しいぞ。」

今までの彼ならこんな表情も、行動も多くはないとは言え、人前で見せるような事はあり得なかった。


ある意味に於いては退化した体もその理由の一つなのだろうか?


『良かったね、ヘルト。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


私たちがやるべきこと。

今までの歴史に類する事はなかった事象、王の記憶にも記録も当てにはならない。


次回もお楽しみに!

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