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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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357話 水の中からこんにちわ

357話目投稿します。


行方不明探索の果てに現れたのは…

頑丈で分厚そうに見えても所詮は硝子。

抵抗も防御もなく2名の馬鹿力で衝撃を食らえば一溜まりもない。

ピシッと音を立てた亀裂が拡がり、一回り円筒をなぞり繋がり、内側の水圧に押される様に砕けた。


飛び散る水飛沫は予想よりも温かく、水というよりは微温湯か…中に詰められたとしてお風呂に入ってるようなものか?などと気の抜ける事を考えているうち、大方その微温湯は流れ出し、膝丈に残された硝子に留められる程度。

それもガラティアがオマケと言わんばかりに軽く蹴って砕かれたところから零れ落ちた。


こんな大きな装置が破壊されたにも関わらず、ロニーが調べていた盤面以外は静かな物でここを管理しているであろう者の姿どころか人っ子一人現れる気配も、先の人形のような防衛機能が動く様子もない。


となると、この円筒は一体何を、何の為に造られたのだろうか?

「…ふむ。」

一つ、ラグリアの唸りが聞こえ、視線を一度向けたものの、

「フィル!」

と名を呼ぶカイルに遮られる形になってしまった。


駆け寄る私の視界に映った光景は、何とも言葉の、気持ちの整理に難しい物だった。

ロニーとラグリアの言葉通り、確かに人は居た。

この場に居る誰もがそれがセルストだと思っていたはずだ。

だが…

『子供?…』




私たち一行がこの地下に辿り着き最初に潜った扉、休憩所に一旦は戻り、簡素なベッドに発見した子供を寝かし付け、状況の整理を行う運びとなるものの、しかしながら埒は開かず結局はノプスやパーシィの意見も必要と議題を先送りに船に戻ると言ったところ。

子供の世話…というより運搬に手を上げたのはヘルトだ。

何か思うところがある様子の彼女に一先ず預ける事に異論はない。

戻る道すがらチラリと彼女の様子を伺うが、その表情は今までの焦燥感など微塵も感じさせない、むしろ安堵の色が濃い。

『ふぅ…』

彼女の様子も相俟って、一段落といった空気に大きく息を吐いた。

「疲れたか?オマエもおぶってやろうか?」

『遠慮しとく。』

心配は結構だがどちらかと言えば声を掛けてきたカイルの方が重症だろうに。

『アンタは後でもう一度ヘルトに診てもらいなさいよ?』

「へいへい。」

やれやれだ。




「で、目的の場所に居たのはこの子供だった、と。」

船に戻った私たちは、全員が集まれる広さから船内の食堂に集まる。

パーシィの看護の甲斐かどうかは不明ではあるが、ノプスもほぼ全開した様子に安心。

「で更には謎の子供だけじゃなく陛下まで同行してる、と。」

『まぁ…それに関してはある意味別件かな。』

ノプスに歩み寄るラグリア。

「所長、キミにも御足労かけてしまったな、すまない。」

「いえいえ、好きでやってるんで。」

こうして見る限りは普通の王サマなんだがな…と少々不満を感じる。

「なにかな?」

私の視線に気付いているラグリアが妙な笑顔をこちらに向けた。

『いいえ、何でも?』

後で殴る…とはいかない所がまた口惜しい。


「ヘルト嬢、キミの様子からすると何か思うところがあるように見えるのだが?」

話を促すようにラグリアが語りかけ、ヘルトが口を開いた。


「…皆さん何と無くお気付きかと思いますが、この子は間違いなく私の兄、セルスト=ヴィルゲイムに相違ありません。」


幼子にラグリアが顔を近づける。

「確かに面影はあるな…こやつの幼少はあまり会った事もなかったが…確かに。」

続け様、ノプスが例のランプに手を触れる。

波長に引かれる光が、ヘルトと彼女が膝に抱える幼子の周囲を回って消えた。

王の記憶も、技術的な側面からも、そして何より血を分けた親族が同一人物と言うのだからこの奇妙な事実はどうやったって覆りそうにない。


発見、救出は成功…となったわけだが、残された謎が多過ぎる。


あの地下で現れたラグリア。

私たちからすれば彼こそが諸悪といった予想は外れ、彼は王族である故にこの場所の存在を知ってはいたし、何らかの行為が行われているのは無論だが、些事には僅かにも興味がないといった具合。

「機能として問題なければ私が関わる必要もないのでな。」

国が永らく秘匿にしていた謎ですら己に課せられた事に比べれば小さき事だ、と。

『…案外我儘…いや案外でもないか。』

王を演じ続けるのも中々にして骨が折れるといったところか…いや、でも今は領制も廃止されて仕事も減ってるような…あれ?…もしかして…


「所長、ロニー君、キミたちにはこの地下施設の調査を頼む事になるな。」

「それは秘匿を開示すると?」

即座に返したのはロニーだ。

彼女からすれば完全に情報が開示される事が古代の知識獲得に繋がるのだから心踊るのも当たり前だ。

「キミたちが口伝するとは思っていないが、少なからず今の国の状況…いや状態と言った方が正解か…このままにしておけば起こる事もある程度の予測はつく。」

「それは構わないんだが、ここは深過ぎる。」


調査ともなれば頻繁に行き来が必要になるのは当然で、毎回船で、というわけには物資の運搬面でも手間が掛かる。

「それについては苦労はないと思うぞ?」




確してこの旅は終わりに近付く。

王すら全てを知らない謎、その本質と今後エデルティスを取り巻く未知、見えない未来を遺して。


『エディノームもまだまだ安定には遠いんだけどなぁ…』

出口を失った魔導船は動かす事も出来そうにない。

このまま地上まで徒歩か?と思っていたが、

「見えてきたぞ。」

ラグリアの声掛けの先に見えたのは…

「『あ…』」

私とパーシィの声が重なる。


視線の先には王都で暮らす者なら利用の有無はともかく誰しも目にした事がある乗り物だった。



感想、要望、質問なんでも感謝します!


地上に戻り旅の終わりから日常へ。

再会と言える幼い姿の目覚めを待つ。


次回もお楽しみに!

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