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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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355話 時の和解

355話目投稿します。


私だけでは動かせない。

私一人では出来なくても。

『アンタ、ホントに人間?』

「一度経験した失敗ならある程度慣れるもんだろ?」

『そーいう問題?』

少し動きが鈍くもあるが、さしたる問題も無さそうな灰色のカイル。

周囲に現れる放電現象だけが先程より大きくなっている気がしなくもない。

元の色彩を戻した世界では酷い傷に苦労させられそうではあるが、文句を言ったところで大人しくするようなヤツではない、百も承知だ。

無茶をしている。

誰の目にも明らか、それを止められないこともまた同様に。


『ラグリア。今までの貴方がどうであったかなんて知らない。でも未来ってただ無碍に続いているだけじゃないでしょう?』

大きく見開いたままで驚きの表情から変わらない王。

この灰色の世界のように固まってしまったその諦めを覆して壊すのがどんな結果に繋がるのか?

それが新たな困難を生み出すとしても、未知の世界だとしても、私たちは手を取り合って、心を繋いで進んでいけるんだって伝えたい。


「王サマ、アンタもフィルが好きならいつだって相手になるからさ、こんなとこに籠もってないで一緒に剣でも振らないか?」

先日に続き、先程もまた自分を激しく傷付けた相手であるラグリアに手を差し伸べたカイルの姿…

いや、ちょっと待て、その言い方は腑に落ちないところがある。


「…私は…いや…」

背後に浮かべていた槍と鎖が光の粒になって消えた。

負けを認めた、というわけじゃない。

私以外にこの世界に足を踏み入れたもう一人の存在、カイルの言葉が彼の中で何かを揺らした。

「…カイル君といったか、気を引き締め給え。」

そう呟き、返事を待たずしてラグリアの周囲が灰色から彩りを取り戻すように明るくなっていく。

「…っつ、あーやっぱ痛えな…」

こちらにも及んだ世界の切り替わりに依ってカイルの体から赤色がまた動き始める。


「フィル、そしてカイル君。キミたちの可能性を少しだけ信じてみよう。」

その刃を納める理由、今まで過ごしてきた時間の流れに比べれば一世代の終わりを待つことなどは些末なものだと。

「流石に何度も求婚を無碍にされるのも辛い物だ。」

「求婚ん?」

頓狂な声を上げるカイル。

その頭の天辺からぴゅーと血が噴き出しフラりと体が傾く。

『ちょっ、動くなってば!』

あくまで見様見真似の治癒術ではこの深手を治すのは無理。

同様に得意ではないだろうが離れた休憩所に居るはずのロニーの方がまだマシかもしれない。

いっそこの地下空間の上に鎮座している船からヘルトが来てくれるのが一番だが、船内にはまだ芳しくないノプスも居る。

そうそう都合よくいくものじゃない。




とりあえず切りがなさそうな治療は程々に横にして眠らせたカイルを余所にラグリアに向き直る。

『この場所は王国にとって、貴方にとって何なの?』

「…結界という物が作られる大体の理由はキミも察しがつくだろう?」

頷く。

エディノームに私が仕掛けたように、それを生み出す理由は何某かの危険から護るという場合が殆どだろう。

王国のソレも例に漏れず、故に千年の平和という別の意味も生まれた。


作ったのは勿論自分ではないとは言ったが、その効力は王の地位を継ぐものに媒介にして絶対的な効果を示している。

「外界、王国の外を見たこと、知っている事はどれくらいある?」


思い返してみてもそれ程多くはない。

異世界に飛ぶ切掛となった火山噴火に押し上げられるように上空から見た景色はオスト山脈の連なりと巻き起こる溶岩が殆どで遠くまで見る余裕も体力も無かった。

西領での船旅は、この海が遠く異国に繋がっているのだろうか?と、屋敷に勤めていたサクヤの故郷、大海に沈んだ古の国の存在。

身近に感じる事はあっても直接異国に触れたわけじゃない。

そう、私は何と無くでしか異国を知らない。

私だけじゃない。

カイルにしても、他にも多くの人が国外に出る事など殆ど無いだろう。

その必要が無い程にこの国は彩りに溢れている。


でも、それは誰かの意思に依って映された視界の狭さ、思考の方向なのかも知れない。

私たちはこの場所、国の歴史に秘められていた謎すら知る由もなかったのだから。


私たちは知ってしまった。


国の謎に対する探究心も、王が口走った異国の事も、知ってしまえばまた一歩を踏み出す理由としては十分で、それこそが冒険者なんだ。


「キミの両親も外の世界に行ったことがあるのだよ。」

それ故に冒険者としての枠から大きく外れた実力を手にした。

年齢を重ねても未だに冒険者としての気持ちが消えない原因がそこにある、とラグリアは言う。


なら、私もカイルもまだまだあの背中を追う理由としては十分だ。




まだ聞きたいことは沢山ある。

けれどそれを確かめるなら、今回の仲間が全て揃ってからだ。

当初の目的、あのランプが示したその場所はここ。

この地下空間で間違いないのに、セルスト卿の姿が見える様子は微塵もない。

『ラグリア、貴方の力になりたい。貴方は今まで国の皆の為に一人で頑張ってくれてたから…今度は私たちが貴方を支える。でもその前に解決しなきゃいけない事があるの。』

それくらい私が言うまでもなく。


「…少し急いだ方がいいかもしれないな。」


知っていてもラグリアに制御出来ない事がこの場所にあるのだろうか?



感想、要望、質問なんでも感謝します!


信じてくれるならどんな事だってきっと叶えられる。


次回もお楽しみに!

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