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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
361/412

354話 世界の乱入者

354話目投稿します。


この世界に生きる。

それは本当の幸せと言えるのか?

世界は相変わらず灰色。

つい先ほど、私が目を覚ました直後まで色付いた世界で、目の前に拡がった赤色の先、ゆらりと動いた輪郭がその境界を灰に染めた。

『…ラグリア、貴方がどんな人生だったのか、私は知らない。』

でも、彼のお蔭で今この瞬間はカイルの治癒に気を回す必要はない。

私と彼以外の時の流れが止まっているのだから。

『何度でも言うけど、私は貴方の隣には居られない。でもね…』

時間にしてどれくらいなのか、私がこの灰色の世界に足を踏み入れたのか。

「…フフ…やはりか…。」

この世界に於いて、ラグリア以上の知識を持つ者は存在しない。

でも今この男が私に対して抱いてるのはまた違う。

ゆっくりと立ち上がり、淀みのない動きでラグリアを捉える指先。

『貴方の困ってるのは見たくはない。』

「…キミは…」


少しだけ考えるような様子の後、彼もまた私を真似るような素振りで指先をこちらに向ける。

「実にキミらしい答えだな。」

灰世界に穴を開け、現れた黒い渦。

そこから対極とも言えるほど眩い金の鎖。

再び私を捉えようとうねる鎖の先、カイルを幾度も傷付けた光の槍、その矛先が今度は明確に私に向いている。

「キミがそう言うなら、私を黙らせるだけの算段があるのだろう?」

彼を納得させるだけの意志と実力を見せ付ける必要が今だ。


バチッと瞼の裏が疼くのも今度は一瞬。


どうやってこの世界で自由に振る舞うのか、あな槍と鎖が何処から来て、何処に向かうのか、私の体に馴染んできたこの世界の空気が私の動きを支えてくれる。

『ほら、貴方だけの世界じゃない。私にだって来れる。』

今はラグリアと私だけしか辿り着けない場所。でもきっといつかは誰もが訪れる事が出来る場所。

「キミのその力が、誰しもに与えられるとでも思っているのか?」

私の言葉で生まれた彼の問い。

今すぐに彼の望みを叶えるのは確かに無理だ。

『この世界に籠もってるだけじゃ駄目だ。貴方が諦めてしまった事も、皆で力を合わせればきっと!だからラグリア!』

ある意味では彼はつい先日までの私と同じだ。


全ては自分の中に理由があって、それは自分だけで解決する事、立場がそれを邪魔するなら、その壁こそが一番に解決しなきゃ行けないことで、それはきっと想像以上に単純だ。


『…一つ分かったよ。』

あの時、私とラグリアが目にした未来からの手紙。

今やっと分かった。

グリムが伝えたかった事。

私に託した本当の事。

彼が救いを望んだ世界は、この灰色の世界。

本当に救われたかったのは自分自身。

ラグリアに私を護るように頼んだのは、私がこの世界に辿り着ける事を願って。


『貴方を救う。貴方が、未来の貴方が叶えたかった事。』


王として人々に平穏、安寧と、道を指し示して行きたかった想い。

しかし、それを叶えるために犠牲になった己の幸福。

それが彼の孤独を後押しして、歯止めを失った。


人はきっと誰であれ、どんな生き方と経験を積んだとして、己の満足を求めて生きていく事は暗闇の道を進むことと同義。

そして孤独はか細い道を一層狭めて、歩みを遅く、重くしていく。

その先の道が見えなくなってしまえば当たり前に進めなくなる、未来を見れなくなる。


グリムはそんな自分の想いを経験した事で同じ孤独に過去の自分が過ちに至らないよう。

あの世界の自分が生まれぬよう願った。


どうすれば彼を救える?

今すぐに全てじゃない、彼が希望を抱けるだけの何かを残すことができるなら、諦めだけに占められている彼の心に一つの希望を教えられる。


『私を捉えたところで何も変わらない…』

「キミの時を止めれば良い。」

この灰色の世界に私を繋ぎ止める。

その為の鎖。

『この世界だけで、貴方は満足できるの?』

「キミが共に居てくれればそれでいい。」

繋ぎ止める鎖と、抵抗を無くすために貫く槍でこの世界から私の逃げ場を無くす。

それが今、彼が望む現在。

誰にも邪魔される事なく永久を生きていくための停滞した時。


「そんな事はさせねぇって…俺は言ったぞ。」


驚き。

それは私だけじゃない、ラグリアも同様に。


その声。

誰のかって?、そんなの一人しか居ない。


「そんなの全然楽しくないだろ?王サマ。」


色を失った世界。

今目の前に拡がる景色は、間違いなく現実のモノで、例えではない。

でも、喩えなら私も、声の主も、似たような景色に覚えがあった。

同様に、時が止まった感覚も、彼は…経験した事がある。


そうだ…彼が動かない時に囚われた時、どれだけ辛かったか、絶対に忘れない。

ラグリアは今まで、アレに近い想いを抱いてたのだとしたら、それこそ私は彼を放ってはおけない。


『…いつもアンタは無茶ばっかりだ。』

「よく知ってるだろ?」

『うん。』

その身は未だに灰色。

それでも確かに声を発して、動いている。


この世界の支配者とも言えるラグリアは私たちの様子を、どんな気持ちで見ているのだろうか?


『ラグリア、貴方がまだ驚ける、知り得なかった事はあるんだよ。一人では辿り着けないこの先に。』





感想、要望、質問なんでも感謝します!


いつだって一緒だった。

だから強く居られる。


次回もお楽しみに!

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