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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
359/412

352話 灰世界の片隅で

352話目投稿します。


誰しも、誰かに救いを求めていいんだよ。

グリムが一度だけ見せた激情。

今になって思い出せば、彼とラグリアは瓜二つどころの話ではない。

同じ熱をもった同一人物で間違いはない。

ただ、やはりあの世界は時間、時代が違うだけじゃない。私の居ない世界、正しく異世界だった。

この先の未来で同じ世界に辿り着かないとしたら、出会った人たち、時の狭間とも言える世界に身を賭した人たちの魂は何処に向かうのだろう?


そうだ。

ラグリアの操る鎖に縛られて気を失ってしまったんだった。

僅かに感覚がある体は相変わらず捉えられた時のままの肌触りが残っている。

カイルは無事だろうか?

それとも未だに止まった時間の中で意識を失ったまま止まっているのか?


『カイル…』

届くとは思っていない。

けれど今、近くに居るはずの彼の温もりを感じたいと思った。

「よう、元気かよ?」

予想に反して返ってきた応えに意識は一気に覚醒し、瞼を開かせた。

『カ…』

目に映る視界に入る温かい人。

覆いかぶさるような彼の体から温かい…熱いモノが私に降りかかる。


私が気を失っている間に何があった?


世界が色を取り戻し動き出した中で、温かさを超えて滾った彼の体は徐々に熱を失っていく。

『そんな!…駄目、駄目だよ!!』

腹部を貫いている光の槍。

それを放った男は彼の背後で肩を上下に息を切らしている。

先程までと打って変わって余裕の表情は消え去り、怒りと戸惑い、狼狽えと焦りがごちゃ混ぜになったような酷い状態。

それは少なからずカイルがラグリアに迫り、追い詰め、加減が出来ない程に近付いた証。

「手ぇ、出すなって…言ったじゃんか…よ。」

『馬鹿、喋るな!』

表面的な傷はない。

彼からの湧き出る赤色は吐血によるものだ。

抱き締めて背中に回した腕に、有りっ丈の魔力を込める。

治癒術が得意ではなくとも、今私が一番に考えている事、強く願う意志の力がソレに少しでも近付くなら、何を擲ってもいい。

大人しく従うカイルの様子は余りにもいつも通り過ぎて、今はそれがとてつもなく私の心を揺さぶり視界を狭めてしまう。


彼の向こう、姿勢を整え不気味に揺れる男の姿を捉えるには、今この瞬間は余力に欠けていた。


『カイル…目を閉じちゃ駄目!』

ピクリとも動かない彼の体はまるで先日まで話をする事も出来なかった彼の姿と重なり過ぎている。

『あ…あ、ぁあぁあああ!!』

応えない彼の背を強く抱きしめたまま、私は泣いた。

大声を上げて、冷たい石のように固まった彼を抱いて、温もりを得ようと探る手は虚空。


そして視界は再び、あの灰色に見えた世界と同調する。


「…恐ろしく感じるものだね。」


そう言って再びこちらに踏み出す絶望に限りなく近いその姿を。


世界はまたしても色を無くし、現実味を塗り潰して、その勢いを以て何者の侵入をも拒む。


「キミもまた、私を…俺を、ボクを孤独にさせるのか?」


構っている余裕なんて…無い。

そのはずの気持ちを揺さぶる言葉と、ラグリアの表情。


本当に、今はカイルの心配だけに身を費やしたいはずの想いに刺さる、彼の視線と、私の視線が交差する。


『何で…そんなにも…』


視界がブレる。

瞬きなど出来ようはずがない。

それなのに、視線を掴んで離さないラグリアの姿が、幼子のように泣きじゃくる、そんな風に視えてしまった。


『寂しそうなの…』




彼は常に余裕があって、何事にも揺るがず、今はそこに恐怖を加える程の力を持ったそんな一人の存在。

長い時の中で、多くを迎え、多くを送り、他者と交わりながらも、自分だけは違うモノだと、それでも尚、歩き続けてきた幼子。

遍く好意を以ても、それは必ず時と言う名の理に依って平等に消し去られる。

そんな事がどれだけ繰り返され、繰り返していくのか?

永久に終わりのない世界。


それがラグリアの世界。


『そうか…そうだよね…』


動け、私の体。

大丈夫、視えている、分かっている。

いつだって同じだ。

私に出来る事、それだけが…


『新しい世界を、作るという事。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


望む世界はこんなにも簡単で、こんなにも儚く…


次回もお楽しみに!

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