351話 二つの叫び
351話目投稿します。
力に変わる想いの強さは雄たけびと共に。
『ラグリア…いえ、グリム。私は貴方が思っていたような人間じゃない。』
護られるだけで我慢できるような性格じゃない。
だから、私は行くよ。
『ラグリア、貴方が居る、その場所に!』
チクリと後頭部に拡がる痛み。
眼球の裏側を締め付けるような、頭の中心に向かって引っ張られるような感覚。
ノプスに襲い掛かる人形を打ち落とした時の痛み。
そこから生まれる閉じられた時間を縦横無尽に駆け巡るような感覚。
『う…ぐぅ…ぁぁあああああああ!!!』
凝縮された視界の中、赤く染まる視界の中で捉えた光景。
カイルの体を取り巻く稲光と。
ラグリアの周囲に浮かぶ光の槍。
2人の体はピクリとも動かず、その周囲に浮かぶ無機質な現象だけが意志を以て暴れまわる。
あらゆる存在に等しく与えられているはずの時間の壁を超えた先。
千年王国を治めていた時の王は、ここに居た。
眼球が潰れそうな痛みを無視して叫んだ。
『ラグリア!、まだ…まだ私を見ているか?!』
こっちを見ろ!、この世界で貴方は、貴方だけは動けるはずだ!
「あぁ、見えている。」
その体がはっきりと私の方に向いた。
依然としてカイルの体はピクリとも動かない。
紛う事無き時間の裏側、王に与えられた王だけの世界。
「こちらに来れるのはキミだと思っていたよ。」
私の体もカイル同様に動かない、動かせない。
ただ視線だけが彼の姿を、行動を追いかける。
「だがまだ早計だったね。」
つい先ほどまでカイルに向いていた興味の指針は、私の叫びを以て大きくその向きを変えた。
カツン
一歩踏み出すと同時に、ラグリアの周囲に光の槍が浮かび上がる。
カツン
二歩踏み出してその数は倍以上に数を増して。
カツン
三歩目には金色の鎖が後を引く。
「フィル。やはりキミは俺の傍に置いておく事にしよう。」
光の槍はカイルではなく、私に向かって牙を…
『―――!!』
首すら動かせない私の周囲に光の柱となって突き立った槍と、それに巻き付いた金色の鎖。
蛇のようにうねり、捻じれ、私の体を捉える。
『っく!…ハッ?』
鎖が触れた瞬間、私の体はこの世界での自由、鎖に繋がれた上での自由を得る。
『ぐ…!、この!!』
「あまり暴れるな?、でないと、もっと…もっと…」
『うっ!…ぐぅ!!』
「縛ってしまいたくなるじゃないか。」
『う、が…ぁぁああアアアアァァっ!!』
苦しい…苦しい…
腕を、足を、体を締め付ける鎖は、やがて首にも達して、締め上げる力は時に押し留められる様子など微塵もない。
だめ…だ、め…だ…
こんな、こんな事で意識を失ってなんて…いられ、ない…のに…
『カイ…る…』
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「!?…」
見失った相手の姿を探す。
いつの間に、あんなところに移動し…
「あぁ、キミか。」
無造作に薙ぎ払った男の腕から、光の槍が現れる。
避けるよりも、今はもっと大事な事が俺の目に映っている。
「少し待っててもらえると嬉しいのだがな?」
「そりゃ無理ってもんだろ、アァ?!」
槍は俺の脇腹に直撃した、でもそれがどうした?
気を失っているのか、縛り吊るされ項垂れるアイツの体はピクリとも動く様子がない。
何が起こったのか。
控えていたフィルが何かしようとしているのは分かったが、直後目の前に居たはずの男を見失ったかと思えばアイツの周囲の状況は様変わりだ…。
ヤツが何らかの方法で見えない攻撃…恐らくは魔法の類だろうが、ソレを繰り返して来ている事も、放つ事自体にさしたる準備があるわけでもないのは分かる。
俺にとっての不可視だが、フィルには別の何かが見えた。
だから突然風景が変わった。
謎に気付いたフィルの口止め…いや、戦っている俺より興味が湧いたってとこか…。
いずれにせよ、こんな光景を見せられて奮わない者なんて居ない。
雷歩
今日何回目かも数え忘れた。
不可視の攻撃に割く防御方法も含めて、俺の内側は悲鳴を上げてる。
でも今は聞く耳を持つつもりもない。
後の事は後で考えればいい。
雷穿
鞘を介して刀身に溜めた一撃を横薙ぎに放つ。
先程まで相手を狙って放ったモノは尽く無意味に消えてしまった。
少なくとも今の狙いは目に見える、斬り裂け!と込めて。
ガキン!
また掻き消される羽目になるかと思っていた不安は明らかな衝撃音でどこかに吹っ飛んだ。
でも威力が足りない。
「なら強めるだけだ。」
王サマはそれでも俺に対して完全に興味を失ったわけではなく、変わらず体を揺さぶる不可視の攻撃がソレを物語っている。
「そう容易くはない。キミの力で解けるとでも思っているのかい?」
知らねぇよ。
俺はアンタ程器用じゃない。
俺が師と仰いだ人は2人。
一人からは心と理由を、もう一人からは力と技術を、その背中から学んだ。
そしてそのどちらからも教わっていない。諦めなんて言葉は。
「ず、ぁああああっ!!」
雄叫びを以て鞘に集めた力を刀身に乗せて一気に解き放つ。
連続で放てない技でも、俺にとっては扱いやすい。
器用じゃないんでね。
内心思うが一つだけでも極めればそれで十分だ。
一撃で斬れないなら何度でも繰り返す。
同じ場所に、何度でも、この身が擦り切れて消えてしまうまで、ずっとだ。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
本当の姿は無意識の底で待っている。
次回もお楽しみに!