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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
357/412

350話 

350話目投稿します。


王様の真実を語るには私たち国民は余りにも事実を知らなさすぎる。

「愉しむ?、そりゃこっちも同じだぜ、王様。」

雷歩。

ラグリアの足音とは対極に、物音立てずに己の間合いへと捉えて放つ一閃。

見えない壁に阻まれ、驚く様子は捨て置き、即座に距離を取る。


2つ目の謎を究明する為の一振り。


先日、町ぐるみで私を打ち負かした闘技会でのカイルとの対峙。

今のカイルとラグリアの対峙と似たような状況と予想していたが、どうやらハズレ。

少なくとも私が彼の攻撃を防いだ際は同じ見えない壁でも金属音に近い衝撃音が耳に聞こえたはずだ。

が、今の一撃で響いたのは真綿を叩いたようなくぐもった音だった。

私が操る魔力防壁とはまた違ったモノなのか、もしくはまだ私が扱いきれていないだけの話でこうした技術も存在する、といったところか…確かに弾くではなく吸収する、といった手段も防御という面で有効だな、とこの状況でも養分を求める私の頭はどうかしていると思わなくはない。


弾く、とすれば私の時と同様に尽きるまで繰り返す精魂の我慢比べに持込めばいい話だが、ラグリアを相手にどこまでそれが出来るのか、カイルの体力と根性次第な点は否めない。まぁ…彼らしい戦い方だというのは彼を知る者なら誰もが納得いくところだろう。


「カイルくん。良いことを教えてあげよう。」

気紛れの話題、それは何を狙っての事か?

私たちがまだ生まれていない時の話。

一人の男とこうして戦った事がある、と。

冒険者として売れた名に胡座をかくわけでもなく、汎ゆる壁という壁に対峙した男は、ふとした切っ掛けでラグリアとの立会いに機会を得た。

「キミは彼に似ているな。」

誰の事なのか、私もカイルも思い浮かぶ顔はきっと同じ。

「残念ながら私を打ち負かす事は不可だ。その強さは認めるべきとしてね。」

件の男もラグリアに勝つ事は出来なかった。

それはカイルにとって、どんな感情を与えるのか?

「じゃあ、俺が勝てばまた一つ、確証が得られるって事だな。」

「…」

キョトンとしたラグリアの表情は、よく知る顔にも見えたが、それも一瞬。

実にカイルらしい返答に、内心笑ったのは言うまでもない。




『…?』

打って変わって状況は少しの変化を見せる。

先程まで打つ手もなく、なすが儘に傷を負っていたカイル。

繰り返されている攻撃そのものは止むことは無さそうだが、先程よりもその程度が軽くなっているように見える。

都度、カイルの周囲に小さな稲光が浮かび、規模を弱めた傷が加えられていく。


私が無意識に防御行動を取るのと同じような事を行っている。

そう見て取れた。

時折弾ける稲光は強制的に体を動かしている証とも言えるが、体に降りかかる痛みに対して受動的に反応している為に回避には至らない。

『肉を斬らせて…ってこの状況で…』


合間で彼自身も攻撃の手を緩める様子はない。

雷歩で接近して一撃放ち距離を取る。

繰り返す行動の中に打破する為の考えは浮かんでいるのだろうか?

何か、何でもいい、彼の一助になりうる手は無いか?




カイルに対峙する男、千年王国エデルティアの王ラグリア=エデルティス。

見た目は私たちとそう変わらない容姿、体躯でありながら彼が統治してかなり長い時を刻んでいる。

多くの観衆の目に晒されながらも変わらぬ見た目と安定した国民の暮らしは、彼を強く崇める土台を盤石として、一部ではまさしく神の御使いとまで言われる始末。

それもあってか、王国には明確な信仰すら無いといった事だが、今の状況としてはさしたる話ではない。


節々の会話からも、見た目に反して昔の記憶は間違いなく彼の中に在る正確な物で、王国の歴史もそれを物語っている。


不老…ほぼ不老とされているエルフ族ですら、生きる歳月の中で体は成長する。

しかし見た目だけは普通の人と同じはずの彼は、いつ見ても、変わる様子は全くと言っていい程に無い。


以前、私がこことは違う時の中で出会った彼と瓜二つの、グリムと名乗った男。

容姿も背丈も同じではあったが、一つだけ、今見えているソレと同じく眩い程の金髪は長く伸びていて、美しさに拍車を掛けていた。


彼からの伝言を2人で見たあの時、ラグリアはどんな気持ちだったのだろう?

驚きだとすれば、目の前に現れた自分と瓜二つの姿、その口が語った言葉。

あの時グリムが語ったのはどんな話だっただろう?


私の存在が世界を厄災から救う。


共にそれを聞いて、グリムから私を護るように、と託されたラグリアは何故か今、それとは真逆の行為に及んでいる。


先にも伝えたようにきっと私は彼の隣には居られない。

以前、王城に軟禁された時も同じ事を伝えた。

あの時、別の言葉を伝えていたら、今の状況はきっと変わっていただろう、そして目の前で血と汗を垂らす傷だらけのカイルの姿を見る事もなかった。

それでも私は彼の隣に居続ける事を拒んだのだ、今さら彼に懇願する資格などない。


ならせめて、その意志を揺らさず、彼の全てを紐解いて、私が…私たちが背負う。


『カイル、ゴメン。見てるだけなんて出来ないよ。』

今私が見るべき相手、見据える視界がほんの少しだけ、僅かな隙間を捉えた。



感想、要望、質問なんでも感謝します!


狭間に射しこむ一刀が切り開く道筋は…


次回もお楽しみに!

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