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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
355/412

348話 王の片鱗

348話目投稿します。


重さ、あらゆる重さは王の圧。

一人、懐かしい記憶を辿りながら彷徨う地下空間。

人の気配がなさ過ぎる人工的なこの場所、私の足音だけを響かせて空間に溶けて消える。

『…殆ど変わらない。』


昔見た未来の姿。

そんな奇妙な言い回しでも何故かしっくり来る光景。

細かく見れば私の記憶より使い古された感じが薄い様々な装置の数々。

あそこに居た人達はすこぶる食事や片付けといった事に不得意な人たちばかりだった。

まぁ…前者に関しては私も威張れたところではないが。

現状そう散らかってるようにも見えないところからすれば、今この施設が誰かの手に依って稼働しているわけではなさそうだ。

指先で表面をなぞり確かめるが、埃が積もっているわけでもない。

私が言うのも変な感想だが、清掃は行き届いている。

今は静まり返っているこの場所も誰かしらの手が入っている。しかもそれ程間を開けずに、だ。

どれ程の時間、ここに潜伏出来るかは置いといて、そうする事で誰かしらと出会えるのは間違いない。


やがて辿り着いた空間の中心。

『…ん?』

そこに鎮座している円筒状の装置。

それ程しっかりと観察したわけではないが、遠目に見ても私の記憶に残る映像より小さい…いや、造り込まれていない、といったところか…。

これについては時間の流れから考えれば妥当。私が目にして触れた時ですら完成していたような雰囲気ではなかった。


逆に、完成しているなら一方的に託すだけといった手段は取っていないとも考えられる。

ラグリア…いや、グリムと名乗った男が最終的に望んでいる、望んでいた目的。

私ならそれが出来るとされたからこその目的。


そこに何故セルストの行方不明の末に辿り着く事になったのか…一番話をしたい人に会えないまま、謎だけが一人歩きしていた。


『それも終わり…かな?』


カツン


響く足音は、中心の円筒の影から。


カツン


男物にしては踵の高い靴。


カツン


綺麗な金髪は薄闇の中でも光を発しているかのように。


カツン


整った顔立ちは少年のようでありながらも長く飾られた絵画の様で。


カツン


「オマエならここに来ると思っていた。」


『残念だけど私だけじゃないよ。』

少し視線を外した先は壁際の休憩所。

それも一瞬で、如何にも興味無さそうな視線はすぐに戻り、真っ直ぐな目が私の視線と交わる。

『…』

「…フッ…」

肩を竦める様な素振りを加える。

『私だけだったらここには来れてない。皆が居たからここで貴方に会えた。』

歩み寄ろうとした私の足が、何かに掴まれているように動かない。

「体は理性より勘が働くものだな。」

何を言っているのか?

何事かを呟きながら、私の方へと近付く足音。


カツン


その音に、肩が震えた。


カツン


気の所為ではない、何かが、私の中で鐘を鳴らす。


カツン


「俺の部屋で一緒に見た男を覚えているか?」


ここに辿り着くための指針となったランプ。

元を辿ればその出所は私が異界、未来から持ち帰った同様の形をした装置。


私とラグリアに対して遺した標。


「あれを見た俺は今更ながら絶望したんだよ。」

自分の未来は永劫に変わる事のない輪の内側にしか居ない。

「不思議なものだ。時の流れで俺の考えは変わったのか、オマエが俺を変えたのか…」


カツン


体が動かない理由。


カツン


これは…恐怖だ。


カツン


『ラグ…リ、ア!』

喉が詰まっているように声が出ない。

「オマエが眩しかった。」

近付かれる程に圧は強く。

「傍に置きたかった。」

まるで首を絞められているような。

『ラグ…っ!』

足先から地面の感覚が消えた。

「オマエとならこの世界を留めておけると。」

息が…


『グリム!!』

精一杯、ありったけの力と魔力を放って、叫んだ。

「…」

動きが一瞬だけ止まった。

『…ゴメン、貴方の事は嫌いじゃない。』

あらゆる拘束は驚くほどに消え去り。


『でも貴方とは居られない。』


それは以前から分かっていた事だ。

住む世界が違う。

身分も、時間も、心も。


『…』

時が止まったかのように呆然と立つラグリア。

彼の力は未だに謎だ。

でもこの瞬間、その楔は解けた。

スゥーと息を吸い込み、腹部に力を込める。

『ーーー!!』

名前を呼んだ。




感想、要望、質問なんでも感謝します!


ここから先は男の戦い。欲するモノ、護るモノがあるならその力はどこまでだって高みを目指せる


次回もお楽しみに!

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