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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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347話 劣化しない記憶と記録

347話目投稿します。


未来で見た景色は、過去があるからこその景色。

扉を潜った先に広がった通路は、進むにつれて枝分かれする形で王都の地下に広がる地下空間の存在を露わにする。

「王都の地下にこんな場所があるなんてね…しかし…」

思っていたより整っている、という。

王族にしか侵入を許さないはずのこの場所は、確かに彼女のいう通り人の動きがないと考えれば妙に綺麗で、まるで誰かが管理をしているかのようだ。

それは彼女も同様の意見に辿り着いている。

多分、その人物、あるいは組織や機関、団体に思い当たる人が私たちの中にいるとすればノプスだけだろう。

つまりそれは私の知る限りを踏まえても一つしかありえないとも言える。

『シャピル家…所長がいれば多分その名前に辿り着くんじゃないかな…』

防衛設備の技巧の元がそうであったように、壁だけ作って手を引くなんて事はまずありえないだろう。

王族のみが立ち入れると言われているが、ここまで大きな規模の地下空間を王族だけで整えられるなんて事もまたありえないだろう。


そしてもう一つ言える事。

私がこの景色に見覚えがあるという事。

昔、見た未来の世界の景色と同じ、その空気感もまた、私が駆け抜けた時と同じ。


少し早くなる鼓動と供に頭の中に呼び起こされる映像の記憶。

『…こっちだよ。』

目的地があるとすれば多分、あの場所。

私があの世界で最後に案内された広大な空間。

そこで世話になり、世話をして、別れた多くの人たち、今の私を続けさせるために人としての生を投げた姉妹。

違う未来の姿を望み、私とラグリアにそれを託した瓜二つの男。


迷う事もなく、理由の説明もなしに進む私に、何も言わずについてくる3人。

足跡と僅かに耳に聞こえる呼吸音だけでも、皆が敢えて口にしていない事は分かる。

説明する時間がないわけではない、難しいわけでもない。

それでも私を包む空気は、それを拒んだ。

足を進める程に早まる鼓動が、私の喉を詰まらせている。




少しの時間を費やして辿り着いた空間、

地下通路と同じく、やはりこの空間も私の記憶のソレと一致している。

ドクン、と自覚出来るほどに胸の高鳴りが体を震わせる。

まさか再びこの光景を見るなんて、誰が予想できるというのか?


『…変わらないもんだね。』




円状の広大な空間は先ほど魔導船で降りてきた空間と同程度の広さ。

その外周には、そう、上層部の外周を囲んでいる紋様と類似の金属製の板が続いていて、その表面もソレと酷似。

中央には巨大なガラス張りの円筒、空間の中央に設置されているため、この場所からは詳細は分からない。

見上げた視線の先、球体を模した天井、高い位置には外周から6本の通路と、その中心、底部中央の円筒の真上、やはり、球体の中に浮かぶ装置。


壁面に設けられたいくつかの部屋は、ここで使用される道具や資材が収められた倉庫や、ここを利用する者たちが体を休めるための休憩所。

『こっち。』

3人を先導して私が覚えていたその一室の扉を開く。

扉を開いた室内は記憶と違わず、簡易ではあるものの横になれるベッドと、同じく簡素ではあるが食事を取れる程度の机と椅子。


温もりを確かめるように近付いて手を伸ばすが、私の知る…自分が使った時の温もりは残っているわけもなく、ただ冷たい人の気配を感じるような事もない。

『少し休みましょう。』

それだけ言い残し、私は再び部屋の外に出る。


この扉を潜って、この広い空間を見上げた景色はきっとどれだけ古い記憶になったとしても忘れる事も、薄くなる事もないだろう。

この世界、この時とは違う時代に飛ばされて過ごした日々は、それほど長い時間ではなかった。

それにしたってこの場所で刻まれた感情はあまりにも大きくて大切な記憶の一つだ。




「前に話してくれた事、憶えてるか?」

『うん、ここがその場所…』

空気は同じでも、刻んだ時の流れが違うこの場所。

どこか今とは異なる未来の先で、ここに立った私の、涙を流して震えていた私の手を取って、想いを託した人が居た。


「俺の勘ってそれほど当たった事ねぇって思ってるんだけどさ。」

カイルの口からはあまり聞きたくはなかった話題。

「お前が会ったって人、陛下に関わる人物じゃないか?」

『理由は?』

「何となくだけど、俺は王都に戻って…上層に上がった時からずっと一つの気配を捉え続けてるんだ。」


はっきりしない奇妙な上層の雰囲気。

城を含めて、上層で暮らす人々に蔓延するある種の感情が重なりあってその空気を作っていたのかと思っていた。

私やヘルトとは別口で城を訪れたカイル。

不法侵入者としてか、或いはまた別の理由かで、正体を捉えきれなかった者に襲われ傷を負った彼。

体の方は回復しても、彼の中で消えない靄は、この場所に来て改めて捉えた気配で少し確信へと歩みを進めた。


『アンタを襲ったのがラグリア陛下って?』

「はっきりしないんだけどさ、少なくとも俺はここと上層に同じ空気を感じてる。」

『…少し、一人にしてほしい。』

「危なくねぇのか?」

『アンタを襲ったのが…ラグリアだとしたら、私には危険はないわ。』


私の返答にいまいち納得ができない様子のカイルだったが、ここに来る前にパーシィと話した内容を思い出して、一つだけ思い当たるところがないわけじゃない。

それを説明するには、まず解決しておきたい事が、私にはある。


「何かあったら必ず呼べ、一人で行かせる条件だ。」


『分かった。』


この場所で一人にさせるのは彼からすればあまりにも危険。

そう考えて私に課した条件。


できればその条件を踏む事もなく終わってくれるに越した事はないが…


『まぁ…難しいんだろうな…』


やれやれ、と感じるところもあるが私は中心部へと足を踏み出した。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


それが本当なら私はどうする?


次回もお楽しみに!

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