表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
353/412

346話 蘇り波打つ

346話目投稿します。


迷路を辿り、水路を辿り、仄暗い闇の中を駆け抜けた記憶。

「さっきの話は何だったんだ?」

隣を歩くガラティアが小声で聞いてくる。

一瞬固まりかけた体、ぎこちなくギギギと言わんばかりに向けた視線には、彼女が自分の耳を突いている様子が見えた。

あぁ…完全に忘れてた。

彼女に漏れず西側の出自を持つ人の多くは聴覚に優れた者が多かった。

「カイルには秘密にしといてやるからさ、アタシも混ぜろよ。」

茶化すような素振りに膨らむ頬、子供のように鼻息を荒げてポカポカと叩くと、それはそれで嬉しそうにするガラティア。

「まあ冗談はさておき、何でも頼れよ?」

『…うん。』




「少し暗いね。」

光源は殆ど無いが洞窟のように狭い通路というわけでもない空間、幸いにも暗くなる前に一帯の様子はある程度把握できているお蔭か各々に戸惑いや焦りといった表情は無い。

『…これでどうかな?』

刃を一つ取り出し中に投げる。

落ちることなく頭上に留まったソレが自動的にじんわりとした光を浮かべた。

『必要ならまだ出せるよー』

「いや、そこまで多くはいらない。」

「安売り商品じゃねぇんだから…」

「…」

2人の返答と、カイルの訝し気な視線が痛い。

確かにソワソワして落ち着かない私の様子は、我ながら様子がおかしいのは目に見えて明らかだ。




私が飛ばした光源を頼りに進む道、先頭を歩くのはロニーだが、彼女はどこに向かっているのか、どこを目指しているのか、私にも、他の2人にも分かっていないがまったくもって迷う様子もない。

『ロニー、進む方向は分かるの?』

「あー…うん、そうか。確かに分かりにくいだろうね。」


水筒を手に、水を地面に溢すロニー。

私たちの視線を集めた水の塊は、すーっと音も立てず、ある一定の方向へと流れていく。

「流れてる?」

「ここまではっきりとした傾斜になってきたのは、つい先ほどだね。目的地もそう遠くないと思うよ。」


再び歩みを進めるロニーを追って、私たちは容易く地面を伝う水を追い越す。

やがて道なりは明確な通路のように姿を変えて、一本の線を暗闇に示していく。




「着いたみたいだね。」

足を止めたロニーの向こう、まるで迷路のようにも思えてきた一本道の先、恐らくは円筒状の壁、防壁の一画。

中心にはノプスが制御を施したのと似たような装飾が施された扉。

扉には有り難い事に説明が記載されているようで、

「流石に簡単には入れそうにないね。多分これはノプス所長の手でも無理かも。」

『何が書かれてるの?』

扉の前に浮かび上がる文言、その記述どころか使われている文字すら私には分からない。

ロニー本人も、正確ではないけれど、と付け加えた上での答えだ。


「多分、この先は秘匿とされていた書物同様、王族或いはその血族でないと難しそうだ。」

そう口にする割に、ロニーには焦るような様子は全くない。

その理由は私の持ち物にあった。


「それだよ。」

叔母から託された小瓶。

取り出したその中に揺れる小さな赤い宝石。

「ソレが何か、まだ分からないかい?」

蓋を開けて、慎重に取り出した一粒。

両の手の平で落とさないように、じっくり観察する赤色…。

『あ…』

頭を過ったその答え。

防壁、守る為の壁、それに使われる媒体。

エディノームを外部の脅威から守るために私が差し出したモノ。

『血の結晶…』

「うん。早速だけど、ソレ使ってみてくれるかい?」

頷き、ロニーの横を抜けて、扉の前に。

言われなくとも分かる。扉の中央に埋め込まれている同色の球体に向かって、叔母に託された宝石を押し当てる。

抵抗もなく吸い込まれた宝石。

少しの時間を開けて、球体の中心、その内部から広がる波紋は、球体の輪郭を超えて、扉一面に広がった。


また大きな音と振動を齎すと思っていた扉は、予想外に音を立てずに不思議な方向、球体が消失して盤面を8つに分けて各々の方向へと姿を消した。


「すげぇな…」

扉のあった場所を潜りながら、内側の壁をコンコンと小突きながらガラティアが呟いた。


今私たちは防壁の内側に足を踏み入れた。

扉で塞がれていたという意味においては、間違いなく侵入者。

そして恐らくは、今まで紐解かれていなかった歴史の中でも、稀な侵入者だ。


前にこの扉が開かれたのは一体いつ、どれだけ昔の事なのだろうか?

この扉に辿り着くために、上層が上層と呼べなくなるならば、それを知っている者は皆無に等しい。


私の中ではっきりと答えを出せない、出す事を躊躇する対象。

そして残念な事に、私の中で予感がしている。

この先、その姿を私たちの前に表すのは…きっと間違いない。

『こういう予感って嫌だって思えば思う程に当たっちゃうんだよね…』

ポンと肩に置かれた手、その持ち主の顔を見る。

まだ少し、目を合わせるのに戸惑う。

「…大丈夫だ。」

『うん…』




扉に辿り着く前の一本道。

それに近いような気がする通路。

一体どこまで続くのか?


いや、私は知ってる。


この地下空間、こことは別の時間で、この場所を訪れた事がある。


初めて訪れた時は、そう、今と同様にひっそりと、侵入に気付かれないように。


その時と同じ空気感、薄暗い中でも思い出せる景色。

少し喉に上がってくる息苦しさは、唐突に記憶を渦を波立たせるのだった。


『本当に…同じ世界だったんだね。』




感想、要望、質問なんでも感謝します!


あの世界、あの場所、あの空気と同じなら、きっと待つ人は…


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ