345話 好意行為
345話目投稿します。
下世話は噂話、同じ内容でも親友に話せば下世話も相談に変わる。
彼が気付いてないはずはない。
それでも何も聞いてこないのが私がよく知ってる彼の性格だ。
「はぁ…フィル、何かあった?」
『う…』
幸いな事に今のところ操舵室にはパーシィと私だけで、彼女にはカイルについてのやり取りをした事もある。
当時に比べて見違える程に打ち解けてくれた彼女にならもっと深い話も出来る。
その頃より一層私たちの事を知っているのだから今の私の妙な様子など手に取るようにバレているのも中々にして恥ずかしい事だ。
「あ〜…あの噂ってあながち冗談でも無かったのかぁ〜」
事は以前王都に蔓延したとある噂話。
王が懇意にしている少女、彼女の中で噂の真相が明らかになった。
「こう言っちゃなんだけど、前貴女が王都に戻ってるっていうのに顔を見せに来てくれなかったのに違和感はあったのよね〜」
なるほどねぇ〜、と困ったような笑みが背中越しでも見て取れる。
「最近のカイルくんとはどうなのよ?」
聞き方が下世話な気がするが文句言えた立場ではないのも分かる。
『…何も…』
「嘘でしょ、恋人じゃないの?」
流石に振り返る彼女に、頼むから前見て、と返したが…
『こ、恋人って…』
「あー…こりゃ重症だわ。」
はい、スミマセン…
下世話…というわけでもないが、確かに私にとってのそう言った話は、自分事にも関わらずどことなく別世界の話のような気持ちが常に付き纏う。そんな気がしてならない。
大切な人、という意味で言えばカイルだけじゃない。
故郷で育ってきた知人、友人、家族も。
旅に出て知り合った人、仲間、誰も等しく私にとっては大切な人だ。
『確かにアイツは昔から傍にいて、安心する…でもそれって恋人ってのとは違うんじゃないの?』
「こいつは重症どころじゃないぞ…」
パーシィが半分以上聞こえる声でブツブツと唸り始めた。
何やらオススメの本があるだの、王都の演劇を見せるだのなんだの…あまり聞かない方がいいのかもしれない。
『うぅ…』
沢山の仲間、知人に好かれてる…とは思う。
でもそれって一人の人としてじゃないのか?、そりゃまぁ私だっていずれは両親の様に…いやいや、あれ?、うー…何なんだ!
「フィル、一つ…いや、返答にも依るけど、経験はあるの?」
『へっっ!??』
自分でも驚く程の高音が出た。
聞き間違いでもなく、時間が巻き戻るわけでも、止まるわけでもなく…
『え…っと…はい。』
へなへなと腰が落ちる。
がっくりと頭を垂れて、それでも何とか片手は球体から離さない。
何なんだこの時間!というか、この会話!!
こんな話は出来れば落ち着いた場所、時間で語りたかったのだが…。
「で、カイルくんとは?」
『……っ回…』
「で、陛下とは実際に何かあったの?」
『……ぅ…』
「…聞いた私も悪いけど、今は辞めたほうが良さそうね。」
察してくれるならもっと早く察してほしかったのだが…
「一つ約束して。この一件が落ち着いたら、真っ先に2人で話をしよう?」
『うん…。』
思いも寄らない話題というのは突然に始まり、まぁ…その手の知識を得るには良い事なのか…と…あれ?
『もしかして、私って女としての意識なさすぎ?』
「…だから言ったじゃない、重症だって。」
『お、おぉう…』
操舵室の奇妙な空気はともかくとして、船は周囲の様子を待ちながら徐々に降りてくる上層部の影に飲まれていく。
円筒状の空間は蓋を閉じられた形ではあるものの、押し潰されるといった様子はない。
空間そのものが地下に降りているといった感じが喩えやすい。
「どうしようか?」
『速度合わせて降下。多分それ程は下がらないよ…私が知る限りは、だけどね。』
「見た事あるみたいに言うね。」
『うん…』
見てきたから。
少し私を不安にさせる光景。
未来から届けられた報せ。
その世界と違う形を望んでいた願いは、果たして正しい道を進めているのだろうか?
沢山の想いが集って、私を元の世界に帰還させてくれた異世界での出会いに報いる事が出来ているのだろうか?
先程まで船を降ろしていた大地は、私たちが空に気を取られているうちに、どこかに…恐らくは更に深い地下だと思うが、見えなくなってしまった。
せっかく霧を吹き飛ばして確保した視界は、今度は空からの光を蓋で遮られ円筒の壁の各所に散りばめられた小さな光源では足りず、薄暗い。
慎重に高度を下げていく船は、端から見れば深淵の底に落ちる沈没船さながらにも見えるのかもしれない。
しかしそれも杞憂。
防壁からの光も降りるにつれて弱くなる視界の中、船はこの空間の最奥へと着陸した。
「…着いたみたい。」
『パーシィはいつでも立てる準備。完了後は船室で休んでて大丈夫だから。』
「了解だよ。フィルたちも気を付けてね。」
頷きを残して、私は操舵室を後に。
探索を待ちわびていたカイルと、ガラティアに合流。
腰に携えた愛用の小物入れには叔母から授かった小瓶。
革ベルトに収まった私の眷属を携え、船の縁に手を乗せた。
『まぁ…行きますか。』
「あいよ。」
「ワクワクすんなぁ!」
少し遅れてもう一人。
「キミらだけで大丈夫なのかい?」
いつの間にか?いやむしろ私たち以上にしっかり準備を終えていたロニーが好奇心を抑えきれないといった表情で横に並んだ。
『…ふふ、それじゃ行こっか。』
掛け声一斉に、私たちは船の縁を飛び越え、暗い大地へと足を踏み入れた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
話題を拡げている時間は今じゃない。
暗闇の先で待つ人がいるのだから。
次回もお楽しみに!