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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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343話 空を薙ぎ払う

343話目投稿します。


昂った戦闘要員の勢いは止められない。

止めるつもりなどさらさらない。

『う…』

ズキンと脈打つ痛みで意識が浮かび上がる。

どれくらいの時間、落ちていたのか?

『ハッ!』

と我に返り、横たわっていた体を起こす。

傍らにはホッと胸を撫でおろすカイルの姿、反対側、少し離れたところにヘルトの背中、その向こう側、私と同じように意識を失っているのはノプスだろう。

彼女を挟む形で寄り添うパーシィの姿も見える。

ヘルトの背中越しに仄かに漏れる光は治癒術を施しているのが分かる。

それ程までに重症…?

『ノッ、プ!』

目に見える状況が明確になると同時に彼女の名前を呼んだが、上手く言葉に出来ない。

喉が詰まるような痛みが走ったからだ。

それでも動く体で四つん這いのまま、彼女の傍に近付いた。

「…大丈夫です。」

治癒術の集中力を散らさないよう、私に気付いたヘルトが小さく呟いた。

つんのめる様に倒れかけた体を何とか保ち、ヘルノの横顔を見つめる。

額には少し汗が滲み、大丈夫と言いつつも手が抜けない事ぐらい誰にでも分かる。

向かい側のパーシィは、目に涙を乗せて見守っている。


『パーシィ、貴女は大丈夫?』

「フィ、ル…私の、私のせいで…」

堪らず抱きつく彼女をしっかりと受け止める。

『そんな事ない、パーシィが居なかったら皆やられてたよ?。所長は大丈夫、大丈夫だから。』

自然と伸びた手は彼女を撫で、己の言葉を染み込ませる様に私も頷いた。




「おい、フィル。あちらさんはまだやる気満々みたいだぞ?」

少し離れたところで上空を警戒していたガラティアから声を掛けられた。

言われて見上げた円筒状の空。

ほんの少しだけ数を減らした人形が、今にも落ちて、降りて来そうな程に犇めいている。


船は操舵士の機転で再び着陸した。

私の動きが制限から解き放たれた事と同義だ。

幾分落ち着いた様子の3人に船内への退避を言い渡し、甲板に残った私たち3人、どれだけの数が相手だとしても…


『負ける気がしないわ。』




「なぁ?、さっきのどうやったんだ?」

カイルが愛刀の柄を握り、刀身の様子を確かめながら聞いてきた。

ノプスを助けた瞬間の事。

頭が飛び散るかと思う程の痛みで意識が飛んだ。

『言いたくない…というか出来ればやりたくない。』

反対側、もう一人、会話に加わり、

「オマエ見てると本当に飽きないわ。」

改めて体を解すように柔軟しながらガラティアが笑いながら付け加える。

『もう闘技会は出ないからね?』

この力は偶発的とはいえ、普通の人に使っていい類じゃない。

「「そりゃ残念」」

馬鹿共め…


「んじゃま。」

「やりますか。」

『2人共、背中に気を付けなさいよ?』

冗談半分、そして間違いじゃない意味も含めて。




完全な近距離で暴れるガラティア、カイルは得物がある分、少し広く対応できる。

この2人だけでも十二分にこの円筒の空を綺麗にできそうだ。

でもそれは私が許さない。

この人形が、この場所、空間を守るための物なのは分かった。

踏み入って良い場所ではないのだろう、私たちは侵入者だ。

だとしても、仲間を、大切な人たちを傷つけるのなら、容赦はしない。

するつもりはない。

だから、2人だけに任せたりしない。


操舵室に収めたままの刃は回収した。

手元には私の全戦力が戻っている。

『もう倒れたりしない。』

礼儀正しく突進してくる人形は2人に任せ、空を埋めている人形の群れに視線を移す。

『…行け…』

自分でも少し大袈裟に感じる程、腕を横に薙ぎ払う。

呼応して舞い上がる刃、その数はもう今までのような5本程度では治まらない。


以前から使役しているこの刃。

最初にこの手に治まった時は、その力の注ぎ方、扱いも加減が難しく苦労した。

北の名匠ガルドの手に依って生み出された5本の刃は、その素材の扱いにくさ、手間をかけて作ったところで扱える者の少なさで、武器として割りに合う代物とは言えない。

だが、それこそが私にとっての唯一の、誰にも真似できない力となった。

同等の腕を持つ東の名匠ヴェルンの手によって新たに生み出された装具、そこから生まれた新しい力もまた、私にとっての唯一と言える武装。

そして、これを基点に私を取り巻く環境に大きな影響を与え、世界を拡げてくれた。


決して気軽に扱える代物ではないのは身に沁みている。

数が増えれば無意識に私の内側に傷を与え、無理すればさっきのように意識だって吹っ飛ぶ。

でも私はもう知ってしまったよ。

どれだけ無茶をすれば自分の制御を超えて意識が飛んでしまうのか。

『痛い目すれば誰だって学ぶ。』


出発の前にヴェルンの手で密かに私の革袋に押し込まれていたソレは、武器として言えばガルドの刃に劣るところはあるだろう。

名匠同士の勝負の基準は私にはわからないが、それでもヴェルンが用意してくれたモノは今この時に於いては頗る良い仕事をしてくれる事となった。


加工の途中、小さく砕けた欠片も少し形を整えるだけで私にとっては大きな武器になる。

放った途端に砕けるとしても、だ。


ゴババババァァァン!とくぐもった音が空に響く。

「うっひゃ…」

「こえぇこえぇ…」

額に手を当てて見上げる2人が驚嘆の声で呟く。

「カイル〜、そろそろ怒らせないようにしといた方が良さそうだぞー?」

「あ、あぁ…そだな…」

拭う汗は戦闘による疲れからではなさそうだ。


『何か言った?』

「「何も!」」


感想、要望、質問なんでも感謝します!


邪魔者は薙ぎ払う。

残された壁はあと一つ。


次回もお楽しみに!

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