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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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341話 世界を隔てる防壁

341話目投稿します。


心を映す鏡のような白い大地。

白は何色にでも染まり、誰の目にも等しく与える。

「母なる大樹から学ぶと良い。」


世話になった人の言葉。

憶えている。

あの時、私を癒してくれた無条件の優しさ。

例え何人でも、どれだけの悪事を働いた者だとしても、きっとあの場所では安らぎを得る。

そんな優しい存在に、私もなれるだろうか?

『流石にこの体を木にするのは難しいかもだけど…』

意識を研ぎ澄ませ、思考を削る。

ただ一つ、あの大樹だけを浮かべるように、真似るように。

大地に根を張り、遠く、遠くまでこの力で包み込むように。

『そう…優しい世界…』




時間がかかると言ったロニーの言葉は正しく、私の魔力の拡がりと共に少しずつ船上から見える範囲が拡がっていく。

船首側からカイルが、後方はガラティアが周囲の警戒を、視力に自信があるというパーシィは物見台から船の全方位に目を光らせる。


やがて私の意識の範囲は壁を捉える。

と共に何か…境界線のような阻まれるような、閉じた感覚は先程ロニーの説明にあった円筒状の空間から感じられるものだろう。

根を伸ばす範囲が定まったなら、あとは隙間を埋めていけば…。


『そっか…ここはそういう場所なんだね。』




感覚的には隙間なくこの空間の地面に私の魔力が行き渡っている。

維持するのは中々骨が折れるが、ここに少しだけ熱量を加えていく。

頭の中に浮かぶ光景でいえば、青く塗り固められた湖のような円に赤色の絵の具を差し込むような、そんな感じ。


「ん…少し温かくなってきた、か?」

割かし近くで周囲を見ているカイルの声が薄膜を通したような音で聞こえてくる。

気が抜けると最初からやり直しになりかねない。

返事は後回し。


意識の中、色の変化でいえば、紫を経て、緑、黄、橙から赤味を帯びた色合いに。


そう。

あの大樹の周辺もこんな温かさだった。

肌に伝わる温度、私が好きな優しさを感じさせる温もりは、温度の上昇と共に微かな風を産む。

あぁ…目を開く余裕がないのが残念だ。


「凄い…」

「綺麗…」

「…らしいな。」

「ありがとう…フィル。」

「共に来れて良かった…」


「…そうだよな。」


夢に見る。

優しい世界を。

心地よい風が吹く、春を呼ぶ花畑、見上げる夏の太陽、秋の切ない紅葉、深々と降り積もる冬の雪。

輝け、目も開けられない程に。


幻想の季節を渡り、世界は…心を映すこの場所は晴れていく。




白い砂。

心を映す、白い大地は輝きを消し、代わりに霧の晴れた広い空間、その全貌を私たちに見せる。

「高いな…」

手を額に翳してガラティアは見上げる。

私たちがこの船で降りてきた円筒の空を。

「思ってたより狭かったな…ぶつからなくて良かったよ。」

想定していた距離感を修正する事に暇がないパーシィ。

「不思議な砂だ。」

腰に下げた自前の小物入れ。

取り出した小瓶に手の平で攫った砂を集めるロニー。

「やはりか…」

確保された視界に映る円筒の、その壁面に描かれた紋様に何かの確信を得たノプス。

「忘れませんよ、貴女様が魅せてくれた景色。」

是非聞かせてほしい。

目を開いて瞼に焼き付ける事が出来なかった私に。


「相変わらずで安心する。」

ポンポンと頭を撫でる不躾な男。

身体的には年下であろうカイルに子供扱いのように振る舞われては、頬が膨らむの当然だろう?

不満を口に出そうとするが、思った以上に消耗してしまったようだ。




『思ったより何も無いね。』

霧を晴らすという目的を無事に終えて一息。

話の時間ともなれば無条件に出されるヘルトのお茶が疲れた体に丁度いい。

「そうでもないさ。」

採取した小瓶を指先で揺らし、好奇心を惹かれる逸品だ、と嬉しそうなロニー。

「まぁ、ソレは良しとして、何もないように見えるのは特殊な防壁があるからだ。」

ロニーの小瓶はソレとして、突き立てた親指を背中越しに示した先は円筒の壁面。

その紋様を次の標的とするノプス。

「答えの予想は付くが、一応、力で何とかなるもんじゃないんだろ?」

胸の前で拳をパンっと弾いたガラティア。

出番が足りないとでも言いたげだ。

私としてそんな出番は無いに越したことはないんだけれど。

「アレは多分現状だと私しか開けれない。」

そして、と。

「防壁だからね、抜けようとする者がいれば恐らく…」

「昨日のアレですか?」

トントンと剣の柄を揺らすカイル、一方の手でガラティアの肩を叩き、さも出番だぞと言わんばかり。

「おっ?」とガラティアが目を輝かせたのは言うまでもない。


「パーシィ、私が言うのも妙な事だが、あまり揺らさないでくれよ?」

再び空を駆ける船は、ノプスが防壁と呼んだ壁の一点を目指して進む。

ノプスが自分にしかできないといった理由。

それはシャピルの名を持つ、いや過去にその名に触れていたからこその知識だ。

「情けない話だけど、私はあまり武芸には疎いんだ。2人共しっかり守ってくれよ?」

確かにノプスの印象からすると、武芸に於いても何らかの能力がありそうなモノだが、多分それはあくまで一般的な話だろう。

守護を頼んだ2人共の事、昨日の襲撃を考えれば範疇を優に超えている。


船体を限りなく壁面に近付けたところでノプスの希望、期待通りに船は止まる。

触れられる距離でなくとも、ノプスが何らかの作業を開始するには十分な距離のようだ。


示された目標地点。

その壁面、識る者が見ればこの防壁を造る中心点だと言う。


翳した手に反応して、壁に描かれた紋様が動きを見せる。

赤く光を発する線、そして、船から少しの距離を開けた壁面から、何か…いや、昨日と同じようなモノがズズッと音を上げて、まさに言葉通り生える。


壁から切り離された物体は、迷いもなく船へと突進してくる。

昨日との違いは明白で、一体一体が人より少し大きい人形(ヒトガタ)

その手に様々な武器、こちらもその身と同じ素材だろうが、昨日よりも明確に敵意を打ち付けるには十二分な武装と言えるだろう。

『ヘルト、貴女もお願い。こっちは気にしなくていい!』

「承知しました。宜しくお願いします。」

カイルとガラティアの2人だけで何とか出来る数じゃない。

この勢いで増えるならノプスの作業が終わる頃には船は跡形もなくなってしまうだろう。


『皆!こんなところで終わる気なんてないでしょう?』


皆其々、笑みを浮かべる。

今まで危機なんていくらでもあった。

こんなの大した事ないよ。


『いくよ!』

高めた魔力は触れた球体に飲まれ、船体の側面は壁面に灯る光以上の輝きを解き放った。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


命を賭けるなんて馬鹿馬鹿しい。

そんな物は望んでいなかったんだ。


次回もお楽しみに!

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