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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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339話 白い鳴き砂

339話目投稿します。


船が下りた地、一歩一歩残された足跡は心地よい音を耳に遺す。

霧に包まれ視界の悪い中、船は地表に着陸する。

見える範囲で言えば、白い砂のような地面に船体の重量分だけ沈み込む形で船体は安定。

少し沈み込んだとは言え、見る限りでは白い砂という事以外に別段おかしなところは無い。

率先して船外に出たカイル。

「よっ、っと。」

降り立った足元の感触も概ね特別なところもなさそうで、カイルが足元を踏みつけ確かめると砂浜と同様、キュッキュッといった音がこちらまで聞こえてくる。

『カイル、どう?』

甲板の縁から身を乗り出して、先行して下船したカイルに声を掛ける。

「やっぱり冷えるな。」

問題なさそうであれば、と私も縁を飛び越え、白い砂の地へと降り立つ。

『はい、これ。』

ヘルトと一緒に用意した防寒用の外套を差し出し、同じく足元の感触を確かめる。

成程、この感触は以前の船旅でヴェスタリス方面、西の地域を訪れた際に経験のある感触だ。

少し沈む足の裏、伝わる感触はどことなく落ち着く気がして嫌いじゃない。

「フィル、アタシはどうする?」

『ガラは念のため残っていて。私たちで少し調べてくるよ。』

「あいよ。」




霧に包まれたこの空間は、下手に動き回ると船の場所に戻れないかもしれない危険が伴う。

幸い、気配の探知能力は問題なく働いているため、私の身に何らかの障害、危険でもない限り戻ってこれなくなることは無さそうだ。

『あまり離れないでよ?』

「何だ、怖いのか?」

隣を歩く男の脇腹を肘で小突く。

『そうじゃなくって。』

「分かってる。」

茶化すようなカイルの返事も、少なからず緊張から来るものだ。

私だってそれは同じ。

一見平穏に見えるが、先の飛行物の襲撃のように何が起こるか予想も付かない。

しかし、その緊張を容易く削ぎ落すようにこの場所は静まり返っている。

油断を消す為か、時折剣の柄の感触を確かめるカイルの様子を見て、私も都度お腹に力を籠めた。




後ろを振り返ればまだ何とか船の輪郭が捉えきれる程度の距離でぐるりと回ってみたものの、周囲に建物がある様子もなく、大した収穫を得られぬまま私たちは船に戻る事となった。


「ご苦労さまでした、フィル様、カイルさん。」

戻った船で、ガラティアの欠伸に迎えられ、連れ立って向かった操舵室。

以前と比べてしっかりとした部屋として改修された部屋は壁際に長椅子も設置されているため、簡易的な集合場所としては申し分ない。

『こっちで何か分かったことはある?』

私の問いかけは、こちらの収穫が何も無かった事を明確に、次にどうするか、方針の組み立てへと誘った。

「それ程遠くまでは行ってないんだろう?」

『戻れなくなっても怖いですから。』

「確かにね。」

ランプを再度起動しても、今までと違って波長の光がその目的地を教えてくれる状態ではなくなってしまった。

その理由は、目的地がこの場所であること、或いは取り込んだ波長の劣化という事だが、造り手の言い分では後者の線は薄いと。

理由が絞られているなら、もっと詳細に感じ取れる可能性は私か、近い波長を持つヘルトだけだ。

『ヘルト、貴女はセルスト卿の気配のようのものは感じない?』

「残念ながら…恐らく、兄の意識はないのでは?と。」

確かに何らかの思念のようなモノが捉えられるとして、今ヘルトがそれを感じないのであれば、推測としては当たっているだろう。

まぁ…あのセルスト卿の事だ、意識があつて身動きが取れないとしても、何らかの手段で行動するのは想像に容易い。


「波長からすると行き止まり。思念のような気配も感じられない。となれば打つ手に欠けているわけだけど…」

流石のノプスも名案を挙げるには材料に欠けているようだ。

推し黙る私たちの沈黙を破って、操舵室の扉が開かれた。

「何か…すっごい寒いんだけど…」

カチャリと開いた扉の隙間から顔を覗かせたのは書庫のヌシ、ロニーだ。

「一先ず休憩も兼ねてお茶にしませんか?」

行き詰まった思考は思い悩んでも解決に繋げるのは難しい。

「お手伝いしますよ〜。」

と手を上げたパーシィと共に、ヘルトは船内へと向かった。




ズズっ、と自室から持参した毛布に包まって湯気の立つお茶を口にするロニー。

発進からずっと書庫に籠もっていた彼女に状況を伝える所から話は再開された。


「ふむふむ…どちらにせよこの霧は厄介そうだねぇ。」

初見としてのロニーの意見は御尤も。

少なくともこの霧が晴れれば周囲の状況、もしかしたら細かな目的地も見えるかもしれない。

「皆の感覚からして霧に違和感はあるかい?」

私を含め首を振る者が殆どだったが、ただ一人、口を開いたのはパーシィで、彼女なりの違和感は舵を取る彼女特有の着眼点。

「同じに見えますけど、普通の霧より濃い気がしますね。私の目でもあんまり遠くまで見通せなくて…」

少し誇らしげに「視力は自信があります!」と加える様子は微笑ましく、頼もしいものだ。

ふむ、と頷いたロニーからの提案。

「まずは霧を何とかしてみようか。」

結局辿り着くのは皆同じようで、一斉に頷く。

だが、冷静にそれを止める意見。

「一旦休息…今日はお休みにしませんか?」

と、ヘルトが口を開いた。


「霧のお蔭でここは陽の光が届きません、恐らく同じ理由で夜の暗さも。」

彼女の感覚だと外、この空間の外は既に夜の時間だと言う。

温かなお茶で動かされた胃袋も、確かに空腹を訴えている。

『言われてみればお腹すいたかも。』

「あ、気の所為じゃあなかったか、いやぁ〜実はアタシも何か腹が減ったなぁ〜って。」

神妙な空気もあって言い出せなかったらしいガラティアは、お腹を擦りながら豪快に笑った。

釣られて皆も笑う。

「おや?そうかい?」

と呟くノプスも自分のお腹を擦ってはいるが、正直、技術院に務める者の感覚は宛にならない。

「あー…ヤバい…私も所長の感覚に毒されてるかも…」

頭を抱えたパーシィの様子に、ノプス以外が笑い、所長は疑問の表情を浮かべていた。




感想、要望、質問なんでも感謝します!


この場所では時間の感覚が乏しい。

それが解るなら、時間の流れすら感じ取れるのだろうか?


次回もお楽しみに!

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