338話 大地の底
338話目投稿します。
謎の物体を撃退、再び進み始める船上でノプスが感じ取ったモノの正体は…
「終わったか?」
「とりあえずは。多分な。」
甲板の船首側で構えていたガラティアとカイルが、息を吐いて肩を下す。
ついぞ今しがた、カイルの一閃によって消失した謎の飛行物。
正体も解らないままではあったが、あのまま船を攻撃されては堪ったものじゃない。
『2人共怪我はない?』
状況が落ち着いている間に2人の下に駆け寄り無事を確かめる。
「何だったんだ?ありゃ。」
一閃の下、固まった謎の物体を撃退したカイルだったが、流石に手応えまで確かめる余裕はなかったようだ。
「やたら硬かった、って事ぐらいしか分かんなかったよ。」
そう言って私に手を差し出すガラティア。
その手の中に納められた物質。
『石?…これ…』
「散った一部だな。」
甲板に飛び交ってた物体から欠けた一部は改めて確認するとそこかしこに散らばっていた。
大きな怪我も無さそうな2人の確認を終え、欠片を受け取った私は操舵室へと踵を返した。
室内に戻る直前、何やら考え込む様子のノプスの姿が視界に入った。
その手にはガラティアから手渡された欠片と同じ物があった。
「…面倒な物だね。」
苦虫を噛むような表情と共に彼女も操舵室に戻った。
後を追って入り、持ち場へと戻る。
私が魔力を注ぐ球体は、その中心に赤色の光を収めゆらゆらと揺れている。
ノプスの説明によれば、この光が残っている間は船が落下することはないという事だが、実際に触れる側としては気掛かりが付き纏う。
様子が少し変だったノプス。
何かを考えている様子はそのままで、視線は手元、感触を指先で確かめるように弄ぶ欠片。
『ノプス所長、何か知ってるの?それ。』
視線は変えないまま、私の問いかけに答えたノプス。
その表情は数日前、2人で話した時と同じに見えた。
私の問いかけに自然とパーシィとヘルトの視線も掴まれる。
「フィルには前に話したね。この物質は間違いなく私の過去に関わりあるモノが産み出したモノだ。」
ノプスの過去。
南部の影の名家とも言えるシャピル家。
名が痴れている割りに、南部の権力争いに於いては決して最前線に出るような事はないという特殊な家柄。
家督争いという名前で集められた様々な実力を有した人材は、各々が持つ力を発揮して我こそはと、その名を欲して争う。
先の家督を継いだのは、ノプスの実弟であるアディス。
シャピル家での名をリグと名乗った男は、結局のところ己の持つ力を暴走させるような形で世を去った。
その後に彼女から聞いたシャピル家の話。
今彼女が改めて出した過去という言葉、それはすでに居ないアディスの事ではなく、家督を争ったという他の選別者が関わっているのだろう。
スナントを脱した事で終わったかと思っていたシャピル家からの圧。
私が思っていたよりもずっと、古い家柄の歴史は深かった、という事か…。
しかし、それがどうして王国の、しかも秘匿とされているところに現れたのか?
王国の歴史と、シャピル家には何か強い関わりがあるのだろうか?
霧に包まれたこの空間では、先行きも成行きも気配を潜める。
背筋をゾクりと震わせるのは、水飛沫と霧が発する温度だけではない。
「フフフ…」
ノプスが発した笑い声は、普段の彼女の楽しそうなソレとは違い、この温度以上に背筋を震わせる恐ろしさがある。
シャピル家の居た頃の彼女は、私たちが知るよりも恐ろしい人物だったのだろうか?
「いいさ、あの頃みたいに私の、私たちの邪魔をするなら…」
手の中に収めていた欠片を強く握り潰す。
決して柔らかくはない欠片が、更に小さく崩れた。
「必ず潰す!」
ノプスの強い意志を合図に再び前進を始める船。
下へ、下へ、ただ只管、王都の中心のその下層へ、色濃く視界を奪う霧の中。
舵の傍、波長が示した光の方へ。
「感有り!」
ヘルトの声によって、一瞬にして緊張が走る。
「これは…パーシィさん、速度を落として、ゆっくりで。」
互いに目配せして付け加える。
「恐らく…地表のようなモノがあります。」
ヘルトの言う通り、私の感覚にも少し先に何か…大きく広がる空間、その気配を感じる。
「お二人さん!、何か見えるかい?」
甲板の2人に声を掛けるノプス。
言われるまでもなく、船首側、その先へと注視する2人の姿は、操舵室からも良く見える。
やがて、2人共、こちらに向かって大きく手を振る。
素振りから察するに、止まれ、と行ったところか。
しっかりと2人の様子を見ていたパーシィは言うまでもなく、船の進行を止めた。
ゆっくり、ゆっくりと合図に合わせて船の細かく操作する。
本当にいつの間にか、凄い事を身に付けたものだな、とパーシィに感心してしまう。
繰り返し繰り返し、そしてついに2人が大きく開いた手の平で合図を送った。
船体が少し揺れて、何かに触れたような感触。
同時に、自分の足が地についたような、そんな感覚を覚え、私は目の前の球体から手を離した。
「目的地かどうかは置いといて、とりあえず何かに着地はしたようだね。」
自分とパーシィは船の確認をしておく、という事で、私はヘルトと頷きあって、操舵室を後にする。
操舵室から出た途端、やはり気温が低い空間は、先程と違う形で背筋を震わせる。
肩を摩りながらガラティアとカイルが落ち着かない姿を見せる船首側、すでに船の外の様子が気になるようで、船体の縁から身を乗り出すように周囲の様子を伺っている。
『少し冷えるね。』
「外套を用意しましょうか。」
『そうだね。皆の分も用意しないと。』
少しの不安と、好奇心に背中を押される前に、しっかりと準備。
私とヘルトは、皆の外套を用意すべく、船首ではなく船室への扉を開いた。
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白い世界、その場所はどれだけ長い歳月を経て出来上がった空間なのだろうか?
次回もお楽しみに!