337話 霧を切り裂く雷鳴
337話目投稿します。
空を舞う航海は順調にも見える。
『…水飛沫ってより、まるで霧ね。』
隣に立つノプスが「ふむ」と考えるような素振りを取る。
「座標としては目的地に向かっていますけど…見えないのはちょっと怖いですね。」
肩越しに操舵席を覗き込むと、先のランプと同様の装置思しき物が見える。
『それってあのランプ?』
「機能は一緒。ただ、あの装置と違って、えーっと…方向が常に分かる?みたいな。」
『成程。』
「羅針盤な。」
「そう、それ。」
船旅の経験が一度とはいえあって、その時も舵をとっていたがあの時は羅針盤なんてものはあっただろうか?
割と成行とか勘、地形を確かめながら航海してた印象の方が強い。
改めて運が良かったのだな、とも思う。
「2人共、しっかり周囲の警戒を頼むよ!」
ノプスの声に、私の視界にも甲板の2人、ガラティアとカイルが腕を上げて応えるのが見えた。
「念の為…」
ノプスが手元の操作盤を弄ると、私の前の台座が少し動き、いくつかの穴のような物が現れる。
「フィル、その穴におまえさんの武器を一つずつ入れておくんだ。」
頷いて腰元から取り出した刃、穴は6つ。
『一つずつだよね?』
言われた通りに刃を挿し込んだ。
「静かですね。」
視界が悪いため、船の巡航速度は恐ろしいくらいに遅い。
上層部の下に位置するこの空間、じっくり見ることは今になって思い返してもそれ程の回数はない。
昇降機を使った時も大体の場合は外側の景色に目が向く。
別段何某かのモノがあるような印象はないが、それはあくまで目に見える範囲での話で、今私たちは普段目に見えない、水飛沫が舞っていたと思っていた場所、実際には霧で覆われた場所に突入している。
「何か見えるかい?」
哨戒の2人からは何も無い。
「ひっ!」
突然パーシィが悲鳴を上げた。
「な、なな、何か今!」
指差された先を見るが、何も見えない。
「何か見えたかい?」
私とヘルトに問いかけるノプス。彼女も私たち同様に何かが見えたわけではなさそう。
見間違えかな?と本人が首を傾げたその時。
シュン!
と音を立てて視界を横切った何か。
『な、何?』
外に飛び出そうとする足を何とか踏みとどませる。
今回、船が動いている間、私はおいそれと動くわけにはいかないのだ。
哨戒の2人に頑張ってもらうしかない。
気の所為ではなく、次第に増えていく謎の飛行物。
流石に皆の目にも捕捉されたソレ。
時折船体にぶつかり、弾かれては繰り返すその姿は明らかに船に対しての攻撃を行っているのだが、敵意のようなものはまるで感じない。
『これじゃまるで…』
先程、ノプスの指示で挿し込んだ私の武器と同じじゃないか。
意志を込めれないわけじゃない。
でも私のソレは相手にとって警戒の外側から狙い澄ます事でも威力を高める。
その為に気配を込めるのを抑えている。
謎の飛行物。まさにそれを体現しているような動き…誰かの意志が働いているのだろうか?
やがてはっきりと見えるぐらいの数で船の周囲を取り囲むソレは、船を中心として球体の形を構築した。
恐らく外側からだともう船の形は見えないだろう。
「所長!どうすんだ!?」
甲板からガラティアが叫ぶ。
「ノプス様、お任せ頂けますか?」
傍らに控えていたヘルトがすすっと前に出て、パーシィを挟んで反対側の操作盤に着いた。
「行けるかい?」
「操作法は一通り。」
「いい答えだ。」
何らかの許可を得たヘルト。
その指先が凄い速さで操作盤の上を奔る。
足元に6度の振動。
「フィル様、少し強めにお願いします。」
何のことか?と周囲を探り、視線は自分の手元。
視線だけで添えられた球体を示すと、彼女から頷きの返事。
言われるままに魔力を高めて球体に。
捕捉。
球体の少し下、刃を挿し込んだ穴の蓋に光が灯る。
集束。
少しだけ体から魔力が吸い取られるような感覚を経て、船が揺れる。
射出。
赤色の光が船体下部から6本、船を取り囲む球体の内側に放たれた。
少しの間を於いて、その壁を貫いた光が、各々薙ぎ払うように揺らめき始める。
『…っ、』
「フィル様!?」
『だ、大丈夫、続けて!』
赤色光線に焼かれた飛行物は、黒く染まって落下していく。
自分の体に大きな負荷を感じながらも、腕に、手に、力が籠る。
船体を浮かべる以上の負担がこの身を襲い、それでも止めるわけには行かない。
再び視界を覆う霧の中、水気に反射した光線が至る所で赤く煌めき消えていく。
「ヘルト、もういい!、様子が…」
球体がその動きに変化を加え、残った物が一点に集束する。
今なら…
自然と開いた口が、頼れる名を叫んだ。
『カイル!!』
「そんな気がした!」
覗き窓の向こう、腰を落として構える姿。
先日の闘技会で私に相対した時と同じ構え。
携えた柄の先から、薄紫の光が鞘の隙間から姿を見せた。
「っハァッ!!」
気合一声、横薙ぎに払われた腕と、少し遅れて視界を奪う眩い光が、船の前方で固まった飛行物に向かって牙を剥いた。
空気と霧を切り裂いて、薄紫の横一文字がぶつかり、衝撃を産む。
ビリビリと肌に感じる揺れは、この身を震わせ霧の空間に雷鳴を轟かせた。
残身から自由の身になったカイルがこちらに向かって親指を立てる。
『…ホントに何とかするんだから…』
頼りになるんだ。
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不意に現れた謎の脅威。
霧に包まれたこの空は未だに謎を隠したまま。
次回もお楽しみに!