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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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336話 飛べ!

336話目投稿します。


魔導船の真の姿、技術院の粋を集めて辿り着いた結晶。

「フィル〜こっちだよ。」

出発は技術院。

先日正面入口から魔導船エデルが格納されたドックとは別の場所。

外観を含めて今まで見たことのある開発室、設備とは随分と印象が異なる格納庫だ。

理由の一つ、最も大きく違いを感じるのは室内の明るさだろう。

技術院の大体の部屋はお手製の調光器が設置されてはいるが、お世辞にも明るいとは言い切れない印象だが、この格納庫は天窓、しかも球状のソレが設置されているお蔭でこの時間、朝日の光が差し込み、室内中央に位置する件の魔導船を照らし、その頼もしい船体を一層輝かせているようにも見える。

「フィル〜、カイルも、もう皆集まってるんだからー!」

乗船用に用意された移動式階段からパーシィが急かす。

「何か楽しそうだな、パーシィも。」

私と同じ様に魔導船の壮観に少し気後れしてるカイルだったが、嬉しそうに急かすパーシィに向けて笑った。

『行こう。』




甲板に集まった今回の仲間、船員。

共に乗り込んだ操舵士のパーシィ。

船の機能、設備、修繕を仕切る形の技術院所長のノプス。

物騒事が起こった時の戦闘員、戦力としてのカイルとガラティア。

互いに競い合う立場でもある2人の連携は期待度も高い。

戦闘、技術的なところにもあまり強くはないが、皆の体調管理、そして本来の目的であるセルストの行方を最も強く抱いているヘルト。

今回の旅…というのも変な言い回しかもしれないが、王国の閉ざされた事実に触れる旅だ。恐らくはそうそう部屋から出てくることはないと思うが船内書庫のヌシであるロニーも船員の一人だ。

彼女の知識は叔母レオネシアから託された史実が蓄積され、行末を示す重要な役割となるに違いない。


出来る限り多くの戦力と人材で臨みたいところではあるが、全員、ましてレオネシア本人や幼いオーレン、イヴを同行させるには今回の船出は不透明すぎる。

王都の状況も相俟ってヴィンストルの兄妹、カザッカとサティアを始め、スナントから同行してくれた衆には王都での守護、防衛を頼んだ。

王都、スナント間での情勢を考えればとんでもない愚策と言われかねない頼み事だが、彼らの目的はセルストの行方と無事を望む想いだ。

それに応えるためにも頑張らなくては。




「さて、準備はよさそうだね?それじゃ火を入れるよー!」

以前の魔導船は海に浮かんだ後、パーシィの操舵で動き始めたはずだが、私が知らない内に船の設計は大きく変わったようだ。

舵の隣に新しく増設された装置に手を添えて、指先で幾つか弾くような操作を行うノプス。

僅かな金切り音の後、船体が振動を始めた。


「フィル!」

「お姉ちゃん!」

「フィル様!」


まさに動き出そうとする船の外、格納庫の扉が開き、数名が庫内に駆け込んでくる。

『叔母様!、皆も!』

真っ先に声を上げたレオネシア、イヴ、オーレンに、ヴィンストル勢も見送りに駆けつけてくれた。

「気を付けていってらっしゃい!」

叔母にしては珍しく大きな声で、そして何かを振りかぶってこちらに投げて寄越した。

『っと!…皆も、戻るまで気を付けて!』

無事に受け取り、手の中に飛び込んできたソレを見る。

小瓶。中には美しい赤色の小さな、小粒な宝石が入っていた。

『これは?』

「必ず役に立つわ!困った時に使いなさい!」

中身については不明だ。

しかし、叔母が言うならきっと理由がある。

王族に関わる事ならロニーに聞けばいくらかは分かるはずだ。


「フィル、そろそろ準備を。」

ノプスに呼ばれ、見送りに駆けつけた皆と惜しい別れをして、拡張された操舵室に向かった。


パーシィの後ろに増設された不思議な台座。

上部には先程ノプスに指示されて触れた球体を一回り大きくした様な装置。

彼女の顔に視線を送ると、頷きが返される。

『触れて、さっきと同じ様に…』

呼応するように、船が大きく揺れた。

足裏を通して伝わる地面の感触は消え去り、振動の種類も変わる。

私が装具を使って空を飛ぶような感覚が、船全体で感じられる。

『嘘…』

視界がゆっくりと上がっていく。

近くなる天井にぶつかるかと思いきや、球状の天窓は花が蕾を開くように口を開けた。


「フィル、体はどう?」

『さっきのと比べたら全然。』

「なら由!ついでに出航…いや、発進かな?。合図、しちゃいなさいよ。」


船は海ではなく、空へと舞い上がり、ノプスがいう通り、重力から解放された船体が格納庫の天井を乗り越え、外気に触れる。

そう言えば、船旅の時は出航の掛け声をカイルに取られたっけ…。

まぁあの時は色んな意味でヒヨッコみたいなものだったけれど。


『…じゃ、行きますか。魔導船エデル、発進!!』

腕を上げて、威勢よく声を上げた。

甲板に並ぶ船員が合わせて腕を突き出す。

「おー!」とカイル

「よっしゃ!」とガラティア

「ぉ、ぉー!」とヘルト

うん、ヘルト可愛い。

「いっくよーー!」

掛け声一閃パーシィは勢いよく舵を切った。

途端、船体が大きく向きを変えて、上空へと進み始めた。




先の実験よりマシな筈と言ったノプスの言葉は嘘ではなかったようで、元々の魔導船の機能、操舵装置と同様に、常に魔力を注ぐ必要はないらしい。

使っている素材があの特殊な石材だというのは見た瞬間に分かったが、謎が多い筈のソレをしっかりと技術に組み込んでいる辺り、末恐ろしい話だ。

とはいえ、効果が切れた途端船は落ちると考えればこの場を離れるのは憚られる。


『パーシィ、あ、あまり高くは飛ばないで、ね?』

「え?何でよー、気持ちいいのに。」

不満そうなパーシィだが、

『いやいやいや、落ちちゃったらどうすんの!』

「あー、んー、何とかなるんじゃない?」

「あっはっはっは!、失敗は成功の素って言うんだから大丈夫だって。」

ああ…駄目だ。

技術屋ってのはこんな人種だ。

いつの間にか毒されていた友人に同情しつつ、船はゆっくりと王都の中心へと向かった。


『不思議な感じだ…』


浮かぶ上層は存在そのものが不思議と言えば不思議だが、暮らしているうちに気にも止めなくなった。

しかし、下層との間に空間はあるもので、今私たちはその隙間とも言える場所に向かっている。


水飛沫で立ち昇る露霧に覆われたその先へ。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


誰の目にも映っていた。誰の目にも見えなかったその場所へ


次回もお楽しみに!

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