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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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334話 問いかけの波紋

334話目投稿します。


真実は歴史の中、残された記録の裏側にある。

小さな子供がこの国の歴史を学ぶ時、名前と俗称をまず最初に覚える。

エデルティス、そして千年王国。

私やカイルのそれに違わず故郷でそう学んだ。

それ以降は俗称にあるように建国とされた王国の幼い姿から時折起こったとされる自然災害がその学びに於ける大まかな所だ。

驚きを感じる事もなく、記憶に留めるソレには不安に思う事なんて殆ど無い。

王国は常に平穏、平和である事がさも当然のように。


あまりに浮き沈みのない史学の時間はやがて各々が自由に使える時間に変わり、大抵の子供はその時間を使って楽しく過ごせる為、学びの種としても多感な年頃には好まれる傾向がある。

自分の幼少時に重ねてもそれは同様で、私は色んな本を読み耽り、カイルはいつも友人と燥いでいた、そんな記憶がある。




この場に居る者たちの殆どは私と同じ様に学んできたのが当然で、今思えばそこに疑問を感じる事すらなかった。

人の手によって記される書籍は事実だけを遺す物ではない。

その当たり前に考えが及ばない程に。

「不思議な事にね、この王国の歴史書の類は揃いも揃って一年目からの物が殆どなんだよ。」

眠そうながらも本領発揮とばかりに口を開いたのはロニーだ。

本人も自覚する程に時間があれば書物を漁るここ最近の日々は、彼女にとって己の欲、識る事の幸せを強く感じているそうだ。

「考えてもみなよ、国の歩みは歴史書として当然だけど、突然できるわけじゃないだろう?」


物理的に考えてもロニーの言う通り突然王国の町が目の前に現れる筈はない。

彼女が最初に疑問を抱いた謎、それは生立ち、成行といった建国の理由の不透明感だった。

「王族に連なる者だけが知るこの国の本当の歴史。ロニーさん、貴女にお話して良かったわ。」

『ああ…そういう事か…』

折角の南部への旅にも関わらず、船内の書庫から外に出てこなかった理由が今分かった。

いつレオネシアから話を受けたのかは不明だが、彼女は叔母が言うところの王族に連なる者だけが見れるとされた書籍と相見える機会を手に入れた。

そうする事でどんな影響が出るのか、叔母自身も全てを理解しているわけじゃない。

それでも叔母なりに思いの丈があるからこその開示。


「王国が滅びるなんて事は私も望んだりしないわ、それでも今尚王国で紡がれる歴史は人々が生きる上で必ずしも正しい物とは言い切れない。」

叔母が私のすぐ傍まで歩み寄ってくる。そして私の耳元で小さく呟いた。

「あの人が遺した意志でもあるのよ。」

寄せた顔を離しながら、私と視線を交わす。頷きながら微笑む叔母の意志。

いつも心の奥で何を考えていたのか、その全てを読み取る事が出来なかった叔父の想い。

立場だけでなく想いも継いだ姿は美しく、凛々しい。

胸が詰まる。

あの人はどれだけの物を私たちに遺したのか?

最早それは隠された宝物のようにも思える。


望めば手を差し伸べ、路を示し未来を照らす。

それはただ与えるだけじゃない。

人々の生きていく意志に対する問いかけ。


『とんでもない物、遺してくなぁ…』

叔父の想いは確かに大きい。

でもそれは真実を曝け出す事が目的ではない。

叔父が投げた一投はその波紋の先に、王国の平穏、そしてきっとラグリアへの真の忠誠に辿り着く。

何より私がこの事象の行末を確かめたい。




「さて、改めての報告にはなるが、コイツだ。」

私たちが王都に戻る事となった理由。

セルストの波長を読み取り、王都への道を示した装置。

到着してからもノプスが確かめた光の行き先。

「まぁ実際に見たほうが早いだろうね。」

再び灯されるランプ。

同様に放たれた光が…

『下?…』

王都の地下、と言えば私が知るのはキョウカイの地下空間だが、あの場所には特別な仕掛けはなかった。

当然ながら私の知っている場所ではなく、ノプスの口から出た場所は、

「恐らくセルスト卿は王都の中心、その遥か地下に居る。」

再び叔母と視線を交わし、意見を求める。

「地下…そうね…。」

王族にのみ伝わる書物の存在を知っていても、その全容を把握しているわけではないし、中には技術、或いは知識的に読み取れない部分もある。

叔母がロニーに開示した理由がそこにある。


「実際に見たわけじゃないし、私の頭の中にある知識が完璧ってわけじゃないけど…」

遥か昔に作られた王都。

その地下に眠る古の技術。

私たちには想像も及ばない歴史の遺産ともされる技術の粋が集まるその場所。

そこに辿り着く方法…上層に向かうための昇降機のようなものが何処かにあるのだろうか?

少なくとも日常的に目に入る物ではない。


自然と足元に向く視線の先。

もっと単純に考えれば…私一人、私の力で保持出来る数名なら可能…か。

「フィル、また一人で背負い込もうとしてない?」

『う…』

背後から肩に乗せられた手。

少し悪戯っぽく笑うパーシィは、私の肩に手を乗せたまま、ノプスに提案を投げた。

「所長、そろそろ奥の手の出番じゃないです?」

「まぁ…どちらにしろフィルが大変になるのは間違いないしね。」


『ど、どういう?』


不穏な言葉に戸惑いを隠せないし、2人の妙な笑みが不安、というより嫌な予感を私に感じさせた。


「大丈夫、皆で何とかする。だからフィルも力を貸して?」

それだけだよ、と操舵師は笑った。




感想、要望、質問なんでも感謝します!


現代の技術院の粋を集めて生まれた物、古の技術に挑む。


次回もお楽しみに!

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