32話 成就の疲労感
32話目投稿します。
王にダンス相手として抜擢されたフィル。
名誉な事が意味する先にあるモノは何か?
まもなく宴の最後のダンスが終わる。
会場の視線を、ダンスの相手と自分に集め、今はただその身を任せている。
(…何か、ボーっとするな…)
数か月前まで北の地でごく平凡な暮らしをしていたはずの私が、今、この国の王とダンスを嗜んでいる。
これが何かの物語で、私がもし夢みる少女のような性格なら、願ってもない幸運なのだろうと思う。
自分の出自、時期、あらゆる事象、様々な可能性の糸が一つに束ねられた。
私にとってはそんな感覚でさえ、全てが何者かに仕組まれているようなものだと感じてしまう。
少なくとも身近に感じる限りでは叔父の企みがそこに在るのは明白だとは思うしそこだけは確信がある。
(ならば。)
と、その企みが何を狙っているかは正確には分からないが、今のこの状況を利用することを考えるべきなのか…
(例えば…そうだな…)
今後の事を考えてみる。
あまり気にしなかった。というより気にしなくて良かったと言えばいいのか。
少なくとも、私たちが王都に旅をした時、人が管理している場所に於いて足止めを喰らう事はなかった。
それはつまり、領主の権限があったからだ。
万が一…いや恐らく、例えば領主が居ない旅だった場合、関所のような場所を通る際には何某かの手続き染みたものは必要だと思う。水門を通る時が良い例だ。
とすれば…
「もう少しこちらに興味を持ってくれると嬉しいのだが?」
ハッとなり相手の顔を見る。
しまった。考えすぎた。
『ご、ごめ…いえ、申し訳ありません、陛下。』
普段の言葉遣いが出そうになるのを何とか止め、謝罪を入れる。
すると、驚いた事に、王は少し悪戯をするような笑みで付け加える。
「すまない。冗談だ。ただ…そうだな。考え事をするその顔もまた、美しいよ。」
分かりやすい誉め言葉を言われ、顔が赤くなるのを感じる。
この御方は、何だろう?…悪い人ではない。まぁ王様なのだからそれは当たり前なのだが…
そうは思っても、立場上その全てが万人にとって正しい事、良き事となるわけではないはずだ。
果たして王は私にとっての良い人になるのか…
(あ、そういう事か。)
王の足を踏むような事もなく、無事に終わるダンス。
ドレスの裾をつまみ、慇懃に頭を垂れる。
「フィル=スタット。とても良い舞踏だった。皆にも良い演目を見せられ余も満足している。」
手を広げ周囲に促すと、一斉に拍手が上がった。
『お褒め頂き、光栄です。陛下』
再度頭を下げ、返す。
「褒美を与えたいのだが、何か望みはあるかな?」
これが多分、叔父の狙いの一端。
そして私の望みを叶えるならば…
『陛下。とても名誉な事ですが、この身に余ります。』
顔を上げる。
『…けれど、陛下のご厚意を無碍にすることもまた失礼なのは承知しております…故に、私の望みは…』
繋ぐ事。
『僅かな時間でも構いません。今後も陛下と語らい合う時間を頂く事を望みます。』
少し驚いたような顔をして「ほう」と呟く。
「分かった。それは余にとっても楽しみな時間が出来るな。」
どれほどの時間が取れるか、という懸念も付け足した上で、王は私の望みを叶えてくれるようだ。
『ありがとうございます。陛下、改めましてご厚意に感謝を。』
私の返答を確認した王は、改め周囲に向き直り。
「では、余はこれを以てこの場を後にするが、皆存分に楽しむとよい。」
会場に集った人々が一斉に頭を下げ、慣例としての宴は終焉を迎える。
王がお付きの従者と共に会場を去り、社交の場は後夜祭宛らの少し落ち着いた喧騒に包まれた。
『…ふぅ…』
と安堵の息を吐き、皆が居る場所へ戻ろうとするが…
(あ、れ…)
全身の力が抜けるような感覚で、膝が折れそうになる。
「っと。」
いつの間にか背後に居たカイルが私を支えてくれた。
『…カイル。』
「大丈夫か?」
『あまり大丈夫じゃなさそう。』
ここはもう無理せずに返すが、一仕事終えたような感覚は悪くない。
「無理すんな。」
『えへへ…ありがと。』
疲れた体でも無理くり笑う私に、カイルも苦笑交じりではあるが笑みで返してくれた。
手を引かれ、先ほど休憩していた長椅子に戻り、どさっと身体を預ける。
どういった形になるかはともかくとして、王との面識を得、尚且つ今後もその機会を約束された。
叔父は「カイル君以上の成果かもしれない」と喜ぶ。
叔母やオーレン、イヴの嬉しそうな顔が視界の中で動き回っているが…
(何か…頭がぼーっとする…な…)
「―――?」耳元でカイルの声が聞こえる気がするのだが…
(?…カイル、聞こえないよ。)
そして私の意識はゆっくりと暗がりへ落ちた。
幼い頃から聞き覚えのある唄…そう、ノザンリィで小さい頃よく聞かされた子守歌が聞こえる。
(あぁ…懐かしいな…よく母が歌ってくれた…)
心地よさと、肌に触れる寝具の温もりにわずかばかり体を動かし微睡む。
意識は眠りの中にありつつも、耳に聞こえてくる歌、そしてその奏でる声も安心する。
どことなく手を動かすと、指先に触れる感覚、誰かの手を感じ、そっと握る。
ピクっと反応したその手は、ゆっくりと私の手を握り返す。
手に感じる温もりに、笑みを浮かべる。
少しずつ覚醒する視界に入るのは、見知らぬ部屋。
眠る私のために光源を消した部屋は、青白い月明りに支配されている。
触れる手の先に居る人影、昔から見慣れた姿だ。
「よっ、大丈夫か?」
『うん。』
目が覚めた後、しばらくの間、カイルの手の感触を確かめたのだった。
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慣れぬ事柄に襲い掛かる疲労感とここ数日の疲れが相まって、気付けばいずこかの寝台。
次回もお楽しみに!




