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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
336/412

329話 尊い後続

329話目投稿します。


目的地への道は、帰路と重なる。

「フィル、もう体は大丈夫なの?」

甲板から見る一面陸地というのもまた奇妙な感覚ではある。

声をかけてきたのは叔母であるレオネシアだ。

先日、オーレン、イヴと共にエディノームに訪れたまま、大した持て成しも出来ないままに大事が二度と三度と起こり、姪としても、町の代表としても申し訳なくて困り物だ。

『はい。心配をかけてしまいました…』

いいのよ、と私の肩に添えられた手。

寒くなってきた季節の風も相俟って少々冷たく感じるが、その芯からくる温かさは私の心に安らぎを与えてくれる。

「貴女も自分の事で大変なのに…」

叔母も先日の催しの会場で見守ってくれていたわけだが、終わって間もなく「無茶をして!」と叱られ、抱きしめられたのは記憶に新しい。

『大変なのは叔母様も一緒ですよ?、大丈夫です。私にも支えてくれる、頼れる皆が居るので!』

「…そうね、じゃ、私も貴女を頼りにさせてもらうわ。」

口元を手で押さえ、クスりと笑う。


「私もそれ程船旅の経験があるわけではないのだけれど…何というか不思議なものね。」

叔母の言うことも御尤もで、以前実際に乗船して製造現場から港湾部に移動するという短い距離だったけれど、町中を走る船の姿に驚きと戸惑いを感じたものだ。

町中に比べれば砂地が多いこの地域の走行はまだ見映えがありそうな物だがやはり馬車とは違う、比べて大きさも、乗り込める人の数も驚くなという方が無理な話だ。

『はっきりは聞いてないんですが、まだ隠してる秘密があるらしいですよ?この船。』

「ふふ…少し楽しみね?」

『技術院のやることで、驚かない、ワクワクしない事の方が少ないですよ。時々…いや、割と沢山心配にもなりますけど。』

違いない、と相槌を。

視線を遠く、地平線に向けて小さく呟く。

「ついでとは言え、こうやって王都に戻るのも不思議な気分ね。」


「お?、こりゃいい所にいたね、お二人さん。」

嬉しそうに声を掛けてきたのは技術院所長のノプスだ。

先日のスナントでの一件で話をした時に比べ随分と元気になっているようだ。

これが普段のこの人の姿に近いが、今日は幾分昂っているようにも見える。

やはり自分が携わった発明が動いているから、ということだろうか?

「所長さん、ゆっくり話すのはいつ以来だったかしら?」

差し出された右手を取り、軽く顔を寄せる。淀みなく交わされる挨拶を実際の目の当たりにすると2人共しっかりと王国の上層位を持つ人種なのだな、と思う。

「レオネシア様もお元気そうで何よりですよ。姪っこさんも大変そうですが。」

2人の視線が私に向く。

『ま、まぁ…それなりに?』

何を言えばいいのか悩ましい。


『所長、いい加減、船の秘密っての教えてくださいよ。パーシィも教えてくれないし…。』

不満気な顔を前面に出して開発指揮者に抗議してみるものの、

「ん〜…そうだねぇ?、教えるのは構わないんだが、後悔するかもよ?」

意味深に返しながら、これまた意味深に指差した行き先は私の手元に。

どうやらこの腕輪、ヴェルンが造ってくれた装具に何かしらの関係がある事を示した。

『聞く前から嫌な予感がしてきました…』

項垂れた私は、2人にとって恰好の笑い物となってしまう。


「まぁ、こっちも無理させるつもりはないさ。」

「大事な姪ですから、程々にお願いしますわ。」

了解です!、と身振りはどこぞの軍隊のような敬礼で返す。

どうやらこの場の私はどれだけ足掻いたところで話の種にしかならないようだ。




2人との歓談を終え、再び甲板を回ると、船首側に和やかな光景を見つけた。

オーレン、イヴとカイルの姿だ。

男2人は木剣を手に、傍らにしゃがみ込んだイヴがそれを眺め、応援している。

『2人は特訓?』

「あっ!、おねぇちゃん!」

隣に腰を下ろして、私たちの騎士たちの様子を伺う。

「オーレン!がんばって!」

どうやら軽めの立ち合いの形式を取っているようだ。

先日の闘技会を目の当たりにしてオーレンの気が逸ったといったところだろうか?

『頑張れ!オーレン!』

「そこは俺に声掛けるとこじゃねぇのかよ!」

聞こえたらしい。


軽めの応酬。

こうしてみるとカイルを尊敬して日々の鍛錬を重ねていた割に、オーレンの動きはカイルとは対照的だ。

カイル自身は自慢の武器こそ違えど戦い方そのものは私の父に近い、所謂腕力を前面に出した物。

対してオーレンは身軽さを押し出した手数で挑むような戦法だ。

数年後、彼の体が成長してどうなるかは分からないが、今時点でカイルのように腕力で挑むのは分が悪い。

幼いながらもすでに今の自分に見合った戦い方が出来る。その思考こそがすでに年相応とは言えない。

頼もしい事に、オーレンはカイルに勝つつもりだ。

『今はまだ、早いかな?』

流石に雷歩を使うような事は無いと思うが、それでも今のオーレンでは勝つのは難しい。

「…っく、せめて!一本だけでも!」

打ち負かせるとは勿論思ってない、一泡吹かせてやる、という気概は伝わってくる。

まだ幼くとも、オーレンも負けず嫌いな男の子、という事だ。

頑張れ。

「頑張れ!…頑張れ!!、オーレン!」

隣に座るイヴが握り拳を上下に振って応援している。

ああ…何というか…これは母親のような…うん。尊い光景だ。


さぁ、オーレン。

キミだけを見てる、キミだけを応援してる声が聞こえるでしょ?

『誰かに支えられる事、それは必ず貴方の力になるんだよ?』


偶然でも、運でも、応えてくれる。

きっと。


「っと!」

油断か、もしくは少しの手加減か、一瞬見せた隙を見逃さず、背後を取り、更には踏み込み跳んだ瞬間、船体が揺らぎ、カイルが本格的に体勢を崩した。

「はぁぁぁあああ!!」

目一杯振り抜いた木剣。

流石のカイルも、木剣で受けきれず、二の腕で防御する形となった。

真剣であれば間違いなく一本どころか傷を負わせる事となっただろう。

「やったぁ!!」

跳び上がったイヴは、そのまま跳ねながらオーレンに駆け寄る。

「…は、はは、やった、やったぁ!!」

喜びの余り、力が抜けたのか、大の字に転がるオーレン。

彼の周りで飛び跳ねるイヴの喜びようたるや。


『悔しい?』

「取られちまったな…でもま、いいんじゃねぇか?」

『うん。そうだね。』

しっかり鍛えている。成長している。

そう思っても、2人はまだまだ幼い。

この尊い光景を守っていきたいと切に願う。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


帰還した王都、どことなく感じる違和感は、私たちの目的地とされているからなのだろうか?


次回もお楽しみに!

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