327話 交差する想い
327話目投稿します。
最後の相手は互いに良く知った仲。
隠し事も企み事も考えてる事だって目を見れば解る。
「オマエと遊んでも楽しくないからヤダ!」
『…うぇっ、っく』
「すぐ泣くしさ!」
「オマエ絶対に変だかんな!」
『…アンタなんて大っキライ!』
「うっせぇ!、二度と顔なんて見たくねぇから!!」
『ホント、アンタ性格悪いよ?』
「…うるせぇ、指図すんな!」
『バカみたい!』
「言いたいことあるなら言えよ!」
『アンタに何が分かるって言うのよ!』
「バカだから教えてくれねぇとわかんねぇだろうがよ!」
『恥ずかしくないの?、喧嘩したいんでしょ?』
「あぁ、こうでもしないと届かなくなっちまった。悔しいし、恥ずかしいな。」
『じゃあ始めよっか。』
体の傷は完治している。
見た目がどれだけボロボロになったとしても今の私なら立処に治る。
体力は…万全じゃないけど、お膳立ての時間稼ぎは私から大きな力を削ぎ落とす事を代償に、十二分に動ける程度の回復を得た。
そしてきっと目の前に立つ男が本気を出すというなら小細工は無い。
私の父から学び、師から受け継いだ力を込めて放たれる技。
その一撃で私を沈めようとするだろう。
流石に魔力を絶たれ、肉体の強さだけとなればまだ扱いきれていない力でどこまで対抗できるのか読み取る事も難しい。
相手は馴染みのある親しい者、幼い頃から幾度となく繰り返してきた喧嘩。
それが立ち合いという形を取っても互いの考えはよく知っている。
不利な点と言えば、私自身に技術的なところが皆無な事。
お遊び程度に付き合った鍛錬で何かが身に付いているとは到底思えない。
対して、私でなくとも、命懸けでなくとも彼は研鑽の中で多くの者と対峙した経験がある。
「まぁ言わなくても分かるだろ?」
『小細工出来るような頭が無いのも知ってる。』
「ちげぇねぇわ…んじゃあまぁ。」
腰を落とし、柄に手を添える。
父からの預かり物である巨斧は舞台の下。
腰に添えた彼の愛刀。
切れ味も、指先の馴染みも、彼の為だけに鍛えられた間違いなく名刀と言わしめる一振り。
考えてみれば、彼が実際の戦いの中で愛刀を抜く所を見るのは今回で二度目。
容易く振られる事のない一品は日々彼との鍛錬、手入れを経てその信頼に応える時を今か今かと待っている。
『…格好いいじゃない。』
腰を落として剣に手を添えるその姿は、私の目、感覚には、対話しているようにも見えた。
ニヤりと口角が上がる。
「あんがと、よっ!」
横薙ぎに振られた一閃。
彼の立ち位置からは剣そのものは当然届く距離ではない。
が、咄嗟に交差させて防いだ腕に走る衝撃。
ガッ!、という音を上げて、私の肌に重たい、丸太で殴られたような痛みが走る。
腕の隙間から伺う相手は、振り切った残身のまま、薄く輝く刀身がその光を失うまで硬直した。
「挨拶だ。」と煽るように呟いて、再び剣を鞘に戻した。
「今度は踏み込むぞ。」
足元に視線を下ろすと元の位置から押されたような痕が残り、挨拶がてら放たれた衝撃の威力を見せつける。
『…結構なお点前で。』
傷は塞がっても痛いのが消えるわけじゃない。
今の一撃も挨拶と言うには重い一撃だった。
次は本気か、全力か、何度繰り返されるのかもわからないが、額に汗が浮かぶのは自覚できる。
「ハァ…ハァ…こ、この…意地っ張りめ…」
『フー…フー…さっきより、弱くなってんだけど?…そっちこそ、いい加減、諦めなさいよ…』
「ぬかせよ!」
未だに手加減しているのか、それともこれがカイルの全力なのか、腕は痛いし、治癒能力が無ければ間違いなく折れるどころかもげている。
『…カイル、こんなの続けたって意味ない。』
呼吸を整える。
私を負かす為の境界線を超える圧倒的な理由に欠けている。
負けたい
カイルに辿り着くまで、全ての相手を退けてやる、と心の奥で息巻いていたはず。
その感情はどこに消えた?
負けてあげたい
でもフリは出来ない。
そんなのは一瞬でバレる。
どれだけ同じ時間を過ごしたと思ってる?
勝ってほしい
アンタが負けるとこなんて見たくない。
他の人は勿論、私にだって。
誰よりも強いって見せてよ!
『答えて!、ずっと傍に居てくれるの?』
返事はない。
代わりにその体を覆う闘気が膨張していく。
目に見えない圧が、私だけでなく会場全体に衝撃を放つ。
やがて耐えきれなくなった舞台、石畳で固められた地面が隆起し、カイルの足元が僅かに沈む。
聞こえるよ。
カイルが己の中で気を練り上げる為の叫び声、咆哮、昂り。
足先から根を張り、今この瞬間、カイルの闘気をも介して流れ込む互いの意識。
『まだまだ行けるでしょ』
「贅沢すぎるだろ?」
『贅沢じゃないよ。アンタが相手だもの。』
「褒めてないだろ、それ。」
『よく分かってるじゃない。』
「あぁ…そっか…これがオマエの感覚なんだな。」
『…嬉しい。』
「何が嬉しいんだか?」
『バカには言わなきゃわからないんだっけ?』
「やっぱり褒めてないな?」
『ふふふ…』
膨張した闘気が静かに収束していく。
『大丈夫。アンタなら大丈夫。』
「任せろ。」
瞬間、地を蹴り、詰められる間合い。
私の感覚を超えて、意識の外側から薙ぎ払われる腕と、その手に握られた愛刀の柄。
その先、鞘から覗く目も眩むほどに輝く刀身が、私の体を断った。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
奥底で塗り固められた鎖は溶けて消える。
そして、晴れやかな空の下、遠く遠く澄み切った空に舞い上がる。
次回もお楽しみに!