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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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326話 人の研鑽

326話目投稿します。


町の総力を以て、挑戦は続く。

グリオスを始めとする騎兵隊との立ち合いは、流石に刃物を使う分、随分加減された感は否めないところではあったものの、最後に立ったグリオスの容赦なさといえば酷いものだった。

歓声を上がる客席から、彼の印象、人気といった点が心配ではあるがそれも私次第な所は十分にある。


疲れていても、きつくても、辛くても、人を先導して歩む立場は少なからず人々の理想を胸に抱いて、道なき路を切り開いていく心の強さが必要なのだろう。

でもきっとそれだけじゃない。


『そっか…いつまでも沈んでたり、くよくよしたり、駄目だね、私は。』

彼らは、彼らが伝えたかった事。

それは決して人々の希望で塗り固められた偶像染みた物じゃない。

最強でも、無敵でも、完璧でもない、一人の、一つの命としての私の姿。


エディノームの町作りを経て、私が出来た事なんてたかが知れている。

皆の力を頼りにしているつもりでも、私自身が何とかしなきゃいけないと無意識に固められていた想いは、心の奥深くで暗い感情を積もらせていた。




「フィル様、私の、私たちの全力を以て、貴女に勝ちます。」

僧兵隊、騎兵隊に続いて私と相対するはマリー率いる魔術士たち。

後ろに控える中に、エルフ族の戦士たちの姿も見える。

種族特有の魔力素養から最終的に彼女の魔術士部隊に統合される形に落ち着いたのだろう。

軍師としての彼女の多忙さを心配はすれど、その能力は私にとって、エディノームの軍部にとってもかけがえのない役割だ。

その精魂尽きるまで、隣に居て欲しい。


彼女は言った。

「全力を以て」と。

舞台と客席を隔てる線、衝撃や直接的な被害を防ぐ軽度の結界の存在は私も感知していたが、彼女が全力と言ったからには事前に準備されたモノはそれだけじゃないだろう。


私も彼女らも類に違わず体力に自信があるわけではないだろう。あくまでも一部を除いて、ではあるだろうが。

それを踏まえれば、この部隊との立ち合いは短い時間で終わるだろう。

私の勝ち筋があるなら、それはきっと彼女らが周到に準備したモノを凌ぎ切る事だ。

『マリー、皆も。全力っての楽しみにしてる。』


魔術士隊、集団で行使するその火力は戦場に於いて圧倒的な威力と範囲を支配し、王国を含むこの土地に於いて絶対的な抑止力を知らしめている。

私が生まれてこの方、後に南部紛争とされたセルスト卿の一件を除けば他国の侵略を寄せ付けない。

それが良いことかどうかまで今の私が考える事ではないが、少なくとも私が知る限り平和を築いてきた力の一端だ。

つまり今私の目の前に居る集団は国防を担う一翼。

彼らにも勿論その自覚と誇りがあり、私のような小娘に負けたとあれば、屈辱にも程があるだろう。




陣形を組んで高まる魔力。

マリーの主導で仕込まれた結界の魔法陣が発動の時を待っている。

「フィル様、貴女は確かに強くて、知識を得る事にも貪欲。その背中が多くの人に期待を抱かせる。」

愛用の杖、如何にもな見た目から程遠い、まるで音楽隊の指揮者が振るような杖は飾り気より効率を求める彼女の姿にも似合っている。

「でも私たちは貴女の弱さも知っているつもりです。だからこそ、その弱さを支える為の力になりたいのです。」

杖の切っ先に魔力が集まり、舞台の周囲から同じ気配、同じ光が発せられる。


『…フー…』

魔力の気配を捉えるのはそれ程難しいと思ったことは無い。

小さい頃は操る事がとことん苦手ではあったけど、事、探知という点に於いては私の特殊な力は大いに役立つ。


肉体や武器を扱うよりこの方が余程楽だ。


スーっと音を立てず私の体は浮かび上がり、呼応するかのように背後に五本の刃が拡がる。

「美しいと見るか、悪しき力と見るか、人夫々ではあるな。」

「あんだけ強い体があるのに勿体ねぇもんだけどな。」

「フィル様…頑張ってください…」

客席、舞台から降りた者たちが私を見た感想は各々に異なる。

ある程度、戦いの場を共にした者と、非戦闘員どの印象の違いはどの程度だろうか?

怖がられていなければいいのだけれど。


「…綺麗ですね。これが貴女の翼。しかし私たちの策を見て同じようにいられるでしようか?」

含み笑いを浮かべた口から発せられた言葉と、同時に振られた杖。

切っ先が私を捉え、放たれる。

魔力の光が鞭のように撓りながら私に襲いかかる。

無論、容易く捕まるつもりはない。

が、

「逃げられませんよ。」

飛行速度が遅い。

踏まえた上でこちらも意識を注ぐが、逃げ切れなさそうだ。

これもまた結界による効果。


接触。解析。…


光の縄に拘束された私の体が地に落ちる。

『…くっ!これ!』

身動きが取れないまま、マリーを睨む。

その表情は言葉とは裏腹に必死の形相で、彼女がこの攻撃にどれだけの力を込めているのかを表している。

「貴女の魔力が、人間離れしているのは知っています…けどそれは…人が抗えない、辿り着けない場所では決してない!」


分析。


私の背後に追従していた刃がカランと音を立てて地に落ちた。

いつもなら魔力を帯びて僅かに光っているソレすら見えない。

意識はあるのに、明確に何かを切り取られたかのような感覚。

「後は…貴方次第ですよ…?」


やがて私を捕らえた光の縄は色を失い、その形状を失い、霧散して消えた。

身体的な傷を与えずに彼女らの魔力の全てを代償に、私に行使した攻撃。


「マリーさん、ありがとう。近い内にお礼はするよ。」

いつの間にか舞台に上がっていたのはカイル。

他にも舞台上で力尽きた魔術士隊の面々を介抱し、退場の手助けをしている。


私はと言えば、大して動きもなかったマリーとの戦いは呼吸を整える時間を得たものの。

『…凄いこと考えたんだね、マリー。』

体から魔力という要素がまったくと言って良い程に感じられなくなってしまった。


「さて…準備はいいか?」

舞台袖の立て看板に記入された数字は、125に更新され、今舞台に立つものがとりあえずの最後の相手という事になる。


『本気?…』


「オマエと真面目に喧嘩するのっていつ以来かな?」


『……覚えてないよ。何度やったかもわからない。』


「だよな?、俺もだ。」

感想、要望、質問なんでも感謝します!


最後に立ったのは良く知っている、知られているそんな相手。


次回もお楽しみに!

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