324話 催しの主演
324話目投稿します。
一日ぶりの外出は何故だか新鮮な空気を感じさせる。
私としては不毛に過ぎてしまった一日の間。
目に触れないところでも、町の皆はしっかりと、各々の生活に抜かりなく、知らぬ事、知られたくない事ではあるが、私の状況とは裏腹に平和な日、あるいは余暇を過ごせたらしい。
中でもスナントに駆け付けてくれたノプスを始めとする技術院の面々は、エデルの整備も順調、念入り、余裕を以て時間が取れ、余った時間で普段とは比べられないくらいの睡眠を取れたなんてのも後で聞いた話だ。
『今日、皆はどうしてる?』
2人のおかげで落ち着いた心と体。
たった一日だというのに、部屋の外は妙に新鮮味を感じる。
王都から南に位置するこの町にも、涼しい季節を経て季節の移り変わりを感じさせる風が吹いている。
「この地域も気温は下がりますが、雪景色になる事は殆どないでしょう。過ごしやすい土地だとは思いますが、季節の景色としては風情に欠けるかもしれませんね。」
右隣を歩くヘルトは、空を見上げ、風を捉えるように手を広げる。
「雪が見れないのは俺たちにはちょっと物寂しいってところかなぁ?」
なぁ、と同意を求めるカイル。
私とヘルトより少し前を歩く彼は肩越しに顔だけこちらに向ける。
『そうだね。』
以前、行方不明だった私がこの世界に戻って来た時、目を開いた視界は故郷の銀景色で、その体を温めてくれていたのはその無骨な腕だった。
何故か唐突にその時の事を思い出し、私は顔の赤らみを自覚するも、カイルはまったく意にも介する様子もない。
何となく悔しいのは何故か?
『今日は改めて、次の目的地に向かう前の会議だったっけ。』
「まぁそれもあるけど…」
「ちょっと時間ができたので、皆さんが軽い催しを考えてくれたそうです。」
『そう…なんだ。』
内容はついてからのお楽しみ、といった様子の2人。
確かに向かう先は会議室のある建物ではなく、先日見世物のように行われた私とシロが試合った場所。
いつの間にやら一層作り込まれた会場は、多くの客席まで設置されまさに闘技場と言っても過言ではない。
いつもより通行人の姿が少ないと感じていた理由。
件の闘技場、半円型に建てられた野外の会場には町の殆どの住人が集い、正面の舞台上にはガラティアが仁王立ちで待ち構えていた。
演舞でも始まるのだろうか?
会場に到着した私の姿を捉えたガラティアが大きな声で皆に報せる。
「よう!少しは元気になったか?フィル!」
集った人たちの視線が一気に私に集まり、少々照れ臭くも感じるが、何らかの催しとやらは、私の到着を待ち望んでいたらしい。
両脇に別れたカイルとヘルトに促されるように、ガラティアの待つ舞台へと向かう。
『何が始まるの?』
私たちが入って来た会場の外周、そこに残ったままのカイルにガラティアの指先が狙いを付ける。
「アイツとヤルのは楽しみではあるんだがな、今はもっと楽しそうなヤツが居るんだ。」
皆が準備してくれていたという催し
「面倒臭いのは性に会わないのは知ってるだろ?、相手してくれよ。フィル。」
言いながら、首を回し肩慣らし、手首を振って、小さく跳ねて足首を解すガラティア。
『な、何考えてるんだ、ガラ!』
パンッ!と拳を合わせ、一方をこちらに突き出す。
その真剣な眼差しは、単なる余興、一時の思いつきといった類で行われている事ではないと語る。
下すつもりは毛頭ない拳。
表情は強者との試合に挑むまさに武道家の顔。
けれど、その拳が僅かに震えているのを私は見逃さなかった。
考えてみればガラティアとはつい先日、彼女が率いる武道家集団、僧兵隊との稽古で圧倒的な力を見せつけて打ち砕いたはずだ。
あの時の私は魔力を使った戦いで彼女を寄せ付けなかった。
彼女自身も間違いなくあの後から実力も、経験も上げているのは間違いないが、それにしても今の私に挑む意味は…。
一度、彼女から視線を外して、周りを見る。
ガラティアだけじゃない、マリーやグリオス、カザッカやサティアを始めとするヴィンストルの町の住人、代表のスコルプが武器を手にしているのは私も初めて見るかもしれない。
エルフ族の戦士たち、町の防衛に当たる兵士隊や魔術士隊員たちも、こと戦や争い事に携わる立場の者で、今この時、自らの武器を持っていない者は居ない。
私が会場に入った場所、そこに残ったカイルも、父からの借り物である斧は無くとも、己の愛刀はしっかりと腰に携えている。
そんな彼と目が合う。
きっと、この催しというのは昨日の私の様子を見たカイルとヘルトからの情報を発端としたに違いないだろう。
頷きと、突き出した拳で返す真意は、彼なりの気遣い。
『…ガラ、私多分、あの時より強いよ?』
「ああ、楽しみだ。」
『…』
私には彼女と違って格闘術の経験なんてない。
構えも、技も無い。
出来る事なんて、この腕に力を込めて突き出すだけ。
「お前だけじゃないさ、戦って、戦って、傷ついて、苦しんで。」
『本当なら誰も傷ついて欲しくなんてないんだよ。』
ビュッ!と、目も留まらぬ速さで私の視界を奪う彼女の拳
「だからさ、お前一人で出来る事なんて痴れてるって教えてやるよ。」
感想、要望、質問なんでも感謝します!
本当に夢のような光景になるのか?
次回もお楽しみに!