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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
327/412

320話 麗しの宣言

320話目投稿します。


再びこの町に集う熱量は大きな輝きの元、麗しい誓いを刻む

「さて、僭越ながら私から説明させてもらうよ、いいかな?」

何事も、というわけでもなかったが戦場から抽出した波長の確認を取った後、装置が示した大凡の方角を踏まえた上で私たち一行はエディノームに帰還する事となり、到着から一夜経て改めて町の主要人物を集めた会議の場。

これからの私たちが進む目的、目標も含めて技術的な説明の必要を兼ねて音頭はノプスが執る事となった。


もはや野盗の経緯を軽く塗り替える程に働いてくれている伝令役ムゲジの仕事も相俟って、スナントに残っていた兄妹の姿も見られる。

『アイツ…見た目以上に優秀だな。』

今度折を見て美味い酒でも奢ってやろう、と内心に留めておく。




「…私たちも入れて戴いて宜しいですか?」


会議室の扉が開く事で頭を挫かれたノプスの話ではあったが、室内に姿を見せた者たちの顔を見て嬉しさが込み上げてくるのは私だけでは無いだろう。

『マリーさん!、グリオス様も。ご無事で何よりです。』

私に釣られ数名が駆け寄り、ついつい抱きついてしまった私は周りから驚きの視線を集める事となってしまう。

「長い事離れてしまってごめんなさい。只今グリオス様共々帰還しましたわ。」

「我らが留守の間、また色々あったようだな?聞くべき事も一晩で足りるのか?」

後ろに立つ無頼漢も豪快な笑い声を交えて喜びの声を上げた。


「出番を間違ったか?」


旧東領の面々との再会に沸いた会議室に時を見逃したと言わんばかりに訪れる別の一団。

先頭に立つ褐色肌の女性は、室内に居る一人の男を捉えるや否や目も呉れない速さで歩み寄った。

「っとと!」

突き出された拳を受け止めるカイルだったが、一瞬、彼の髪と背後のカーテンが揺れたのは見なかったことにした方がいいだろう。

『ガラ!』

「フィル、今回はアタシも一緒に行くからな?」

まだ事の説明すら始まっていないのに宣言されてしまっては私としては諦める他は無さそうだ。

息巻く彼女の背後からいつもと変わらない優しい口調で掛けられた声。

「フィル様。西側の復興目処が立ちましたので急ぎ帰還しました。お暇頂き感謝しております。」

ガラティアと共に西側地域に出向いていたリアンもまた彼女同様にこの町へと舞い戻った。

変わらない様子に私の胸も安堵に満たされる。

『リアンさん、貴方も無事で良かった。』

とは言ったものの、彼の裏の顔を知っている身としてはさして心配もなかったのだが、いつも通りの様子はそれだけでも安心する。




「何やかんやですっごい集団だな…」

粗方の挨拶を終えた会議室の中、隣に立ったカイルがボソッと呟く。

『私もちょっと驚いてるとこ。』


この町に携わる多くの人たちの中でもその主だった者たちが今まさに一同に介し、更に本来であれば王都に居るはずの有名人まで会議の中心に立っている。

少々ざわつく室内の様子は、その多くが再会と互いの無事を喜ぶ、そんな空気が漂う時間を生んだ。

その光景を眺めながら、思う。

ここに居る各々の力を束ねれば、どんな苦難すら物ともせず打ち消してしまえそうな程に心強い…私の仲間だ。

この集団が不利な状況になるとしたら、その相手はどんな力を宿しているのか?

最早それ程の相手は世界の理さえ歪ませるような、それこそ神様などと言われるような存在しか浮かばない。




「さて、大分横道に逸れてしまったが、改めて話をしようか。」

参加者が増えてしまった事で少し手狭になった会議室の真ん中のテーブルに置かれた装置。

注目が集まるランプ様のその頂点に位置する部分にノプスの手が触れる。

中央の魔石が一度、強く蒼色の光を灯した後に、ランプの周囲に現れたいくつかの光の玉、数にして十に満たない内のいくつかは会議室の壁に当たって霧散したが、残って漂う玉は少しの時間を置いて、一つは私の元へ、別の玉が隣に立つカイルに、そして一度彷徨うように漂った玉が私から少し離れた場所に居たヘルトの周囲を漂ったが、迷いを思わせる動きを経て霧散した玉と同様に壁に当たりこれもまた霧散して消えた。


カイルの側を漂った玉に比べ、私に近付いた玉は消えるまでに少しの間があった。

『これは?』

ふむふむ、と首を縦に頷いたノプス。

「あの戦場に残された力場の波長を辿ったんだよ。」

その言葉に最初に反応したのはガラティアだった。

「フィルとカイルは分かるけどさ、ヘルトに近付いたのは何でだ?」


無機質な装置、人の意識を介さないモノというのはある意味に於いては残酷だ。

「私の中にセルスト=ヴィルゲイムの魂の片鱗を感じたのでしょう。」

諦めではなく、己の立場と意志を含めたヘルトフィア=ヴィルゲイムの言葉。

多くの、しかも主だった者たちが介するこの場で明かされるヘルトの出自、セルストとの繋がりは、一部の者にとって少なからず波紋を生む。

「この身に宿る血が誰かの恨みを買うのであれば、私は喜んで討たれましょう。」


深く息を吐いたのはグリオス。

「連なる者を全て滅ぼしていてはやがて己もそうなる。知らなかったとは言えアレにも家族の情があったのだな。」

この男が言い切ってしまってはこの場の他の者の多くが口出しできる空気にはならない。

ただ一人を除けば。


「ヘルトさん。貴女がフィルの友人であり、かけがえのない支えになってくれているのは私も承知しています。」

そう。

唯一苦言を出せるとすれば、実際にセルストの手によって亡き者とされたアイン=スタットロードの身内。

この場で言えば、私ともう一人、レオネシア=スタットロードのみ。

「私も貴女を直に問い詰め、攻めたところで無意味な事は承知しているつもり…でも一つだけ、ここで教えて欲しい。」

椅子から腰を上げて、視界の真正面にヘルトを収めてこの場の者たちが息を呑む程の威圧感を発し、

「ヘルトフィア=ヴィルゲイム。貴女に実の兄を討つ覚悟はあって?」

と問う。

受けたヘルトもその圧に引く事もなく、

「この先、兄が力に溺れ、愚行に及ぶならまずは私が手を真紅に染めましょう。」

従者相応の身振り作法でレオネシアに頭を下げる。


彼女らが戦場でその身を剣とする事は殆ど無い。嗜み程度の武芸、魔力を持っていたとしても非戦闘員に含まれる事に違いない2人のやり取りは、まるで美しい剣技の応酬のようにも感じた。


この瞬間を切り取って画家に見せればさぞ美しい作品ができただろう。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


一つに束ねた眩い光は、空へ舞い、私たちが向かうべき地を示す。


次回もお楽しみに!

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