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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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319話 鎮魂の月明り

319話目投稿します。


ひょんなことから再び舞い戻る戦場。

鎮魂を謳うならそれは静かな夜ほどに遠くまで届くだろう。

「あの~…これホントにこんなんでいいんです?」

とある荒野の地にノプスから齎されたランプにしか見えない道具を設置するカイルだが、彼からすればただの照明道具にしか見えないソレの使用方法に疑問の声を上げる。

「うん。大丈夫なはずさぁ。」

頭上、陸を走る魔導船エデルの甲板から製作者であるノプスが声を張る。

「少し様子見しよう。戻って大丈夫だよ、カイルくん。」

「了解っす!」




スナントでの一件から数日後、あの町での話し合いの結果、ヴィンストルの住人が間に立つ形で指導者不在のスナントは一時的ではあるが私たちエディノームとの停戦を取る形となった。

リグ=シャピルの愚行とされたスナントの町全域に広げられた人心掌握、魔力支配から解放され人並みの意思を取り戻した町の雰囲気は未だ暗いところがあるものの、ヴィンストルの、スナントの住人たちが渇望しているセルストの無事な姿。

今後の両間の行く末はその後の話と言う事で纏まった。


「リグ以外の上層部は…多分もう居ないだろうね。」


そう呟いたノプス。

その言葉が示すのは、彼がかの力を以て排除した、という事だろう。

それが分かった上で彼女は私にシャピル家に気を付けろと言った。

セルストとは違う意味で行方知れずという事だが、逆に少なからずリグ…アディスを知っているからこそ、そう簡単にアディスにどうにかされるような連中ではないと言う事だ。

わざわざ念を押す程の者がいる…その中でもノプスとアディスは家督争いの上位であったにも関わらずの言葉はそれだけ重い。

シャピル家とは私の想像を超える程の実力者が犇めいていた。

ただ名を残す事を目的としていたにしては、家柄そのものが今では不気味でしかない。


とはいえ今直面しているのはセルストの行方を探すという事に尽きる。




ノプスが用意した探索の役に立つと出された装置、先程カイルの手によって設置されたランプ型の道具がソレだ。

製作者の説明に依れば、この装置そのものは本来であれば探索というよりは監視に使われるとして発明されたモノで、特定の波長を核である魔石に刻むことで例えば…まぁ強ち間違ってはいないのだが、もう少し早く準備出来ていれば色々と事前に対応できたかもしれない。

つまり、セルストの気配、ノプスは波長、或いは魔力の痕跡を読み取らせ、その者が何処で何をしているのかを確かめるといった物らしい。

その為にこの地、私とセルストが対峙した戦場に訪れたのが事の運びだ。


同時に砂地が拡がる南部での魔導船の試運転も兼ねているわけだが、改修された魔導船は以前陸地を走っていた頃に比べ、車軸も地域や走行環境で切り替えられるという優れモノと化していた。

「それだけじゃないぞ?」

再び乗り込んだ船の甲板に懐かしさを抱いたものだが、更に得意気なノプスは、

「今ならこの魔導船の最大の特徴を見せることもできる」と。


「でもまぁ、まずは砂地にしっかり適応出来るかどうか、ですよね?」

舵を切るパーシィが確かめるように今となっては上司となるノプスに確認を入れる。

「この船はあくまで試作品。最終的には量産して王都の防衛に役立ってくれると良いね。」

嬉しそうに語るこの船が目指す最終的な形。

確かに場所に左右されず、多くの人を乗せて走る事ができれば、作り手としては大いに満足行く結果だろう。

私からすれば、船の形をしたものが陸地を走っているだけでも圧巻ではあるが、その視点の違いが一般人と技術屋、其々の立場の違いなのだろう。

最大の特徴とやらも気掛かりで、興味を引くところではあるものの、それを目にするのはまだ先の話なのだろうか?

「ふふ…すっごいよ?絶対びっくりするから。」

パーシィの口振りからするに、まだ秘密なようだ。




ランプに波長を刻むにはそれなりの時間が必要らしく、今日はこの地で船を停泊?と言えるのかは怪しいところだが、ともかく一日を過ごす事となる。


改めてこの船に乗り込んだ今回の面子が甲板に集う。


船を操る操舵士のパーシィ。

船の改修を担った技術院の代表であり、試運転に同行したノプス。

エディノームから乗船した初航海時の水夫であったカイル。

一連の作戦に参加し、スナントから合流したのが私を始め、ヘルト、伝令役として想像以上の役割を果たしてくれたムゲジ。

更にはこの船の今の目的の手助けをしたい、と同行を買って出たのは、スナントで私と言葉を交わした兵隊長と直近の部下を含めた計3名。


サティアとカザッカの兄妹は、スナントに残り、未だに回復が見られない意識不明者たちの看護と、スナントと連携を取るために現地に残ってくれた。

あの2人からすれば、こちらに同行したい思いはあっただろうが、自分たちの気持ちより、人助けを優先してくれた事になる。


エディノームからさほど離れていない先の戦場。

この地で過ごす一夜は、その理由も、使われる道具も相俟って驚く程にゆっくり、ゆっくりと流れていく。


船を照らす月明かりが、魔石の蒼をより一層輝かせるように静かに謳っていた。




感想、要望、質問なんでも感謝します!


蒼が示す先に待つその地に何が待っているのだろう?


次回もお楽しみに!

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