317話 予想外の紛れ者
317話目投稿します。
救援要請で駆け付けた一行は、エディノームを経由した王都からの訪問者
「…成程、我々は思っていた以上に危機に瀕していた、と。」
話し合いの中、この町で起こっていた事を出来るだけ細かく説明をするものの、首謀者本人はもう存在しておらず、推測が混ざるのは仕方ない話だ。
『多分貴方がたも普通の状態ではなかったはず。』
牢屋に押し込められた一連の話した際も、実際にそうしたはずの彼らの方が驚き、あり得ないとまで口にしたほどだ。
そもそもにして長い間、この地を離れ王都で生活していたリグ=シャピルがセルストの反乱によって王都からスナントに戻り、何故かアディスという偽名まで使って信仰の体を齎したわけだが、以前からシャピル家の存在は知っていたはず。
彼がこの教会に拠を構える以前から魔力支配に侵されていたと考えれば彼らの意識や認識に差異が起こっていたのもわからなくはない。
「あの御方は確かに南部出身としては異質でした。姉弟共々にして普通とは異なる価値観をお持ちでした。」
姉弟…とはまた初耳だが、彼にも当然家族、少なくとも両親は居たはず。
『姉がいたのですか?』
「ええ。王都に住まわれていたのであればフィル様もお会いしたことがあるかもしれませんね。」
王都でのシャピル家邸宅の場所は知っていたが、直接訪れたことはない。
当然、その家族と思しき者との面識も無いとは思うが…。
「あねさ〜〜ん!!」
町の正面入口、私たちが捕らえられた門の方から妙に耳障りな声色で私を呼ぶ声。
夜が明けてすぐに伝令を頼んでおいたムゲジの姿が視界に入ったものの、エディノームから蜻蛉返りしたにしては早すぎる。
けれど、その理由と思しきモノの上から手を振っているムゲジ。
その乗り物に対して、納得と溜息、そして喜びも含んだ奇妙な感情が胸に灯る。
「こ、これは…何という…」
『まぁ、驚くよね普通。』
改修を経て見た目が大きく変わったとしても、その姿はとても馴染みのあるモノ。
「船が陸を走るとは…」
『魔導船エデル。そんなに時間が経った訳じゃないのにな…』
あの船に再び乗る事になるまで、色んな事があったものだ。
あの船を操作するのはパーシィ。
改修も含めて彼女の思いの丈、提案が多く盛り込まれているに違いない。
私でなくてもきっと触れるのが楽しみだと感じるに違いない。
船上から声を掛けられたのか、呑気に手を振るムゲジが姿を消す。
その先、マストの上には帆を収納しているカイルが見える。
エディノームを経由した際に合流したのだろう。
彼からすれば目覚めて間もない点を踏まえると、その手付きは慣れたものだ。
流石にガラティアやリアンはまだ戻っていないだろうし、ロニーも…いや彼女の性格を考えれば相変わらず船内の書庫に引き籠もっている可能性は十分にある。
そして何より、エデルが皆を乗せて姿を現したのは勿論だけど、もっと驚いたのはまさかの人物の姿が見えたからだ。
『まさか貴女が出向くとは…』
「いやぁ、まぁ改修した魔導船を見ておきたいというのもあるんだけどね。野暮用もあったからさ。」
一応は王都の郊外にでかけるというのにも関わらず、服装は至って普段通り、白衣もその下の服も薄汚れているのは特に改めて旅支度をしたというわけではない事が良く分かる。
技術院所長ノプス。
私が知る限りは、確かにあの施設に於いて最も多くの仕事をその身で容易く熟している人ではあるが、実際の現場に赴く事は殆どなかったはずだ。
良い意味でいえば、自分が純粋な技術屋で在る事、その手で造り上げた物に対する絶対的な品質は不備不具合など出るはずもない程の腕を持っている。
悪い意味で言えば、現場での実証実験の類いは人任せとも言える。
もっと解りやすく言えば、この人が技術院の敷地から出る事など年に数回しかないくらい引き籠りの性分をしているのだ。
にも関わらず、近場ではなく王都、技術院から遠く離れた地でその姿を見せた。
恐らくは魔導船の実働状況よりもその口から漏れた野暮用の方が重要なのだろう。
「貴女様は、もしかしてノルプシス=シャピル様ではありませんか?」
私と一緒に魔導船に乗り込んだスナント兵隊長が私の横から身を乗り出してノプスに声を掛けた。
『シャピル?、ってまさか…それに。』
「私も驚いたよ。南部出身ってのは聞いてたんだけどさ。」
ポンっと私の肩に手を置いて背後から声を掛けたのは、この船の操舵士でこの魔導船で初の船旅を共にしたパーシィだ。
「や、久しぶりだね、フィル。半年ぶりくらい?」
『いや…この前会いに行ったじゃないの。』
「そうだっけ?」などと笑う彼女だが、本気で言ってるとしたら随分と技術院の空気に毒されているのではないか?と心配にもなる。
が、
そんなことより、今になって知ったノプスの出自についてだ。
「ははは、前に少し話した事もあったかな?、私は南部出身でね。彼のいう通り本名は知っての通りなのさ…まぁ詳しい話はひとまず置いといて、パーシィ、ひとまず船の調整を済ませてしまおう。」
「了解です。」
軽く言葉を残し、連立って船室へと向かうノプス。
その表情はパっと見は普段通りではあるが、どことなく悲し気な雰囲気を感じた。
「また無理したみたいだな?」
2人の背中を見送る私にカイルが声をかけてくる。
『そんなでもないよ。』
放っておいてもこの幼馴染は私を心配する。
「出番がなくなるのはちょっと寂しいもんだぜ?」
あてつけっぽく文句を言う彼に、こちらは苦笑で返した。
『出番あったじゃない。皆を連れてきてくれた。それにいつまでもアンタの力に頼り切っちゃうばかりは、何か嫌だ。』
少し子供じみた強がりにも思えたが、この男に対して見得を張ってもたかが痴れている。
彼もまた苦笑を浮かべ、私の頭を撫でた。
『私の方が年上だぞ、一応。』
少し頬を膨らませてみるが、その手を払いのける事はしない。
「何の言い訳だよ。」
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飄々とした印象とは裏腹の馴染みの人物が語る過去は?
次回もお楽しみに!