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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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314話 自我の目覚め

314話目投稿します。


眠りから目覚めた人外の力はいつの日か全ての悪行に帰着するとしても…

視界が、世界が赤い。

時折体を揺らす振動の原因は、目の前、少し離れたところで揺ら揺ら揺れている男の背中から伸びた虫の足、もしくは植物の蔓のようにも見える細く鋭い棘。

私の体に攻撃を仕掛け、この身を抉ってを繰り返している。

何が嬉しいのか、私の身を抉る度、歓喜の笑みを浮かべ棘の数もますます増えている様子だ。

そんな中でも何れ程身を抉り取られたところで私には大して効果はない。

この男を許すことはできないという感情の昂りは私の世界を朱く染め、同時に私の中の何かが強く現れ、傷口を立処に修復し、痛みも精々小突かれた程度にしか感じない。


「フィル…様?…」


背中に掛けられた言葉。

私の名前を、少しの恐れを含んで呼ぶ声のヌシ、この教会に私と共に訪れた2人の内の片方、ヘルト…そう、ヘルトだ。

『…怖がらせてゴメン。』

彼女と言葉を交わす間も、男の、リグの攻撃は収まるどころか、勢いを増していく。

私をすり抜けてヘルトや、未だに避難が終わらない信者に向かって伸びる棘。

『でも、大丈夫。もう大丈夫だから。』

数え切れない棘が一瞬で消し飛ぶ。

振り向き、男に視線を向ける。

一瞬、何が起こったのか理解出来ていない。正にそんな表情。


以前対峙した圧倒的な力を持っていた男は、自らの研鑽で培った力を試す為に手段を選ばなかった。

ソレに対して私の感情が昂らなかった訳じゃない。

あの行為だって他者を犠牲にしているのは同じで、今でもそれを認めるつもりはない。

『貴方はあの人とも違う。』

欲を満たす意味では同じ。

でも、この男は欲を満たすのに必用な力を得る為に他者の命を奪っている。

「ふ、ふふふ…」

笑いながら再び、先程よりも更に増えた棘を振り上げ、私には防ぎきれないだろう、と高を括って放つ。

仁王立ちの私を避けるように拡がり、力を求めて無抵抗な者たちに襲いかかる無数の棘。

先程、何が起こったのか、本当に見えていなかったようだ。


『…』


左の肩口に回した右手を、勢いよく水平に薙ぎ払う。


教会の中、数え切れない程の棘が余さず消し飛んでいく様子を、リグば呆然と眺めるも一瞬、やめるつもりもない暴虐を、撃ち落としていく光の筋。

私の眼球が熱を放ち、全身が燃えるように滾る。

だが熱さなど全く以て感じない。

私の中に眠っていた力は、昂りに呼応して体に底しれぬ力を生み出す。


『残念だったね。』


繰り返される中でリグにも起こっている現象が見えてきたらしい。


「お、おのれぇええ!!」


怒りを露わにしていても、それなりに冷静さを失わず、馬鹿の一つ覚えに苛つく企みを加えて束ねた棘を今度は真っ直ぐに私に向かって放つ。

残念だと私は言ったはずだ。


『いいよ?貴方の魔力が尽きるまで付き合ってあげるよ。』


直撃すれば風穴どころではない、人の体など後を残さないであろう程に束ねられた棘。

私に当たるどころか、放たれた直後に無数の光の線に抉り取られていく。

己がその手で、その棘で他者の身を、魔力を、命を抉り取ったのと同様に、徐々に、徐々に、リグの体に向かっていく光の一閃はやがて放った棘と同じように、一つの眩い柱になり、ついにはその体を飲み込む。


「ぐ、がぁぁあああ!!」




収まる光の中から、手痛い反撃を身に受けたリグの体が浮かび上がる。

大仰な素振りを飾っていた濃紺のローブは血の赤に染まり、不快な黒色に変わる。

いずれにせよ、私の視界には赤いか黒いかしか分からないのだが。


「…貴様のような小娘が調子に乗る。」


「…私が目指した理想の邪魔をする。」


「…赦せるものか、赦してはならぬ。」


「…私の望む世カイに、き、キ、」キさ「マは…わわ…フヨウ」だダダ、「ダダだ!!」


『思ったより早かったな。』


色んな意味で事は予想通りに、ある意味では私の思惑通りに進んでいる。

無論、犠牲者が出てしまったのはこの先私に後悔の念を残すだろう。


だが、今の私は、ヘルトの策に乗った私の思惑は、この男…最早自我を保っているのか怪しいところだが、その手で起こした現象を実際の目で確かめ、根源を断ち切る…根絶やしにする。


リグの背中から生えている黒い棘は制御を失い、自らの身を抉り、血を流し、それすら呑み込み、更に膨張を繰り返し、やがて大きな黒い塊へと姿を変えた。




あの時私の危機を寸でで救ったカイルは居ない。

だが今の私は目の前に再び現れた黒い塊に対して恐怖も感じていない。

ただ、私以外、まだ教会の中に残る意識不明の信者と、必死に救助を行っていたヘルトとサティアの2人はそうもいかない。

経壇の上で静観しているような、力を溜めているような球体から一度視線を外し、後ろを振り返る。

残った者たちの位置を捉え、意識を割く。


座標


展開


起動


完了


ブンッと空気が振動し、捕捉した位置にその数だけ結界が顕現する。




『さぁリグ、貴方の欲望とやら、見せてみるといいわ。』


低い笑い声のような音を立てて、塊が姿を変える。

やはり予想通り、あの夜、ヴィンストルで対峙したヤツと同類。

違いがあるとすれば、あの夜の姿は根を張った木のように見えたものが、リグを媒介としているからか、ローブを纏った元の姿に近いような所か。


人の姿とは明らかに異なる巨大な腕が私に向かって振り下ろされる。


『あの夜とは違う。』


受け止めることすら出来なかった攻撃を、左の手首だけで留める。

私の腕は、いや腕だけじゃない、全身、特に四肢の肌から赤黒いモノが生えている。


『ああ…一つだけお礼を言わないとね。貴方への怒りがこの力を呼び覚ましてくれた。』


お蔭でこの場に残った命を守れる。


『でももういいよ。少なくともあの夜起こった事、その首謀者も分かった。あとは…』


受け止めていた腕を薙ぐ。


『…お前を消すだけだ。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


命の価値を知らないモノは、この世界にはいらない。


次回もお楽しみに!

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