30話 来臨せし
30話目投稿します。
領主と王が集い始まる社交。
領主の少しばかりの悪戯はフィル、そしてカイルに何を与えるのか?
扉越しに会場の音が聞こえる。
一つ
「西方、パルティア=ヴェストロード様、ご来臨です!」
西方領主、パルティア=ヴェストロード。
古くは大海を統べた海神の加護と恩寵を受けたというセイレーン族、その族長であり、大陸西方に広がる海、ヴェスタ海を望む地域の長だ。
大きく上がる歓声は男性の声が圧倒的に多く、絶世とされるその美貌は彼等の目を奪い、妖艶な瞳は女性陣の羨望の眼差しの的にもなる。
二つ
「東方、グリオス=オストロード様、ご来臨です!」
東方領主、グリオス=オストロード。
東に聳える険しい山々を切り開き千年王国の礎を固めたドワーフ族を主とする民の長は、その血を色濃く継ぎながらも身の丈は常人より大きい。
義を重んじ厳格ながらも豪胆な言動は、女性にとっては敬愛を、男性にとっては尊敬をその身に宿す。
三つ
「南方、セルスト=ヴィルゲイム様、ご来臨です!」
南方領主、セルスト=ヴィルゲイム。
百数年前に数あった南方地域の諸国を圧倒的な武力を持って併合し王国との同盟関係を経た後、正式に王国に名を連ねる形となったのが両国の先代同士の時代。
現領主も所謂、王国「革新派」の筆頭とも言え、その言動や改革は武力を誇示する所が大きい。
一方では恐怖される事もあるが、また逆にそういった思想を是とする者たちからは圧倒的な指示を得ている。
それ故に会場からの歓声も高らかに上がる。
四つ
「北方、アイン=スタットロード様、ご来臨です!」
北方領主、アイン=スタットロード。
古きより王国の知識として代々王家に仕えてきた一族は、血の繋がりも濃く、王家の威光や国の在り方を体現するように担ってきた。
現領主は保守派の筆頭でありながら学術研究所の総代も兼ね、新たな知識を求めるその姿、民衆に対しても学問を始めとした取組に共感する者は多く、後を絶たない。
故に改革派筆頭の南方領主との兼ね合いは芳しくないという一面はあるものの、王国の一旦を担うという点でその諍いは表面上は浮き彫りになってはいない。
開かれた扉を進むアインの後に付き伏目がちにゆっくりと歩みを進める。
正直歩き慣れない靴は油断してると転びかねないので私に余裕はないのだ。
このような公の場で叔父に恥をかかせるわけにはいかない。
「お歴々の皆様方よ、遅くなってしまい申し訳なく思う。四領主を代表して感謝の意を申し上げる。」
恭しく頭を下げると、これも一連の台本通りで他の領主も恭しく頭を下げた。
「ではしばしの間、歓談の時間を過ごされよ。」
そう言いながらスッと身を引いた。
(ちょっ)
自然、叔父の後ろに控えていた私は場の中心に立つ形になるのだが…
「おぉぉぉおお!」
「なんと可憐な」
「お名前は何とおっしゃるのかしら?」
「卿の御息女か?」
「是非お近づきにならねば!」
「ワタクシも是非に!」
まてまて…これは駄目だ。
空気、いや、妙な熱気ががジリジリと私に近づくのを感じる。
下手に動くと大事になる。あの叔父めぇぇえ!
と頭の中で目まぐるしく回る考えを一先ず留め…
(うーん……どうしよ、これ…)
挨拶?…私が口を開くような場所でも立場でもないしなぁ…
(とりあえず…)
裾を摘み、小さく頭を下げ、作り笑い。
「おぉぉぉおお!」
「なんと可憐な」
「お名前は何とおっしゃるのかしら?」
「卿の御息女か?」
「是非お近づきにならねば!」
「ワタクシも是非に!」
繰り返される同じ台詞に、あ、失敗だ…と思った。
途端、堰きを切るように人が押し寄せる。
『ひっ!』
引きつった笑みを浮かべつつ後ずさる私と押し寄せる人の間に割って入る影。
『カイル!』
「失礼、こちらはスタットロード卿の姪に中たる令嬢、名はフィル=スタット、何分こういった場に慣れておらぬ故、しばし落ち着くまでのお時間を戴きたい!」
『………』
カイル?、カイルだよね?
彼の丁寧かつ的確な紹介と嘆願に、押し寄せた一同は気圧され互いに顔を見合わせ散々になった。
『カ、カイル…その…ありがとう。』
そっと耳打ちして足早に去ろうとしたのだが…
五つ
「千年王国国王、ラグリア=エデルティス18世陛下のご来臨です!」
会場の全てが頭を垂れ、その人を待つ。
エデルティスの名を継ぐ18代目国王。
容姿は端麗、齢25にして千年王国を統べる王。
純真さを感じる瞳はこの場の全てを包み、心地よい甘さは永劫の安堵を生み出す。
「みな、此度は良くぞ集まってくれた。」
両の手を広げ、
「歴々の顔ぶれも変わらずの息災、余も嬉しく思う。」
右の手を握り、胸に当てる。
「まだ至らぬ王であるが、みなに大いなる繁栄を与える事に尽力し、また汝等の変わらぬ忠に感謝しよう。」
左腕を頭上に掲げ、
「今宵は存分に楽しむが良い!」
指をパチリと鳴らす。
それを合図に会場に流れる旋律はダンスの時間を告げる。
脇に退避するタイミングを逃した私に、ここぞとばかりに狙いをつけた数人の貴族が互いを牽制しつつも様子を伺っているのが見て取れる。
(何とかしてこの場を離れたいんだけどなぁ…)
その手段を考えている私の視界に見慣れた手が差し出された。
「宜しければ一曲。」
『ぅ…はい。』
慣れ親しんだ顔についつい『うん』と答えそうになる所を何とか抑え、了承の返事と共に小さく会釈した。
謎の令嬢とその護衛。
会場に繕われたその印象を覆すように私とカイルのダンスが始まり、息のあったソレはより一層、会場の興味を惹いた。
それは階上の青年の目にも止まり、口元には笑みが零れていた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
展開は王道、しかしながら抗うのがその姿であると。
次回もお楽しみに!




