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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
310/412

303話 調査終了

303話目投稿します。


夜が明ける前に、再び遺跡に挑む。

その記憶が薄れぬうちに…。

『カイル、カザッカも、ちょっといいかな?』

早めの夕食と焚き火を囲んでの語らいも一段落、私と呼び止めた二人を除く三人は日中の疲れからすでに眠そうな様子。

私たちも疲れはあるものの、まだ限界を迎える程ではない。

「夜の内に、ってとこか?」

『あら、分かってるじゃない。』

「もう長いからな。あとお前、割と単純な性格だし?」

ケラケラと笑うカイルに対して口を尖らせる。

「あの、フィル様、どういう?」

立ち上がり膝の砂を払いながらカイルが代わりに答える。

「そっちの三人が寝てる間に再開するって事さ。」

私も同様に立ち上がり、釣られるように腰を上げようとするカザッカを制する。

『カザッカは皆のとこに居てほしいの。多分何も無いと思うけど。』

朝になっても戻らないなら、三人を連れて町へ戻るように、と。

調査なら自分も、と当たり前の意見を返されるが、この先は私自身も何があるか分からない。

無事に町に戻る為の対応力、道に迷わない知識があるのは残る中でカザッカしか居ない。

少し言い訳がましくもある話だが、それでもこちらの頼みを受け入れてくれた。


「お二人共、ご無事で…」

『うん。ありがとう。貴方も、皆をお願いね。』




『アンタの見立てではカザッカはどうなの?』

「んー?、あまり偉そうな事言うとどやされそうだけど…イイモノ持ってると思うぜ。」

数年後研鑽を重ねた後に立ち合いしたい、と。

『今は自分の方が強いって?』

「今はな。」

こちらからの話題とは言え、普段から力を誇示する事もそんなに無いカイルの口から、はっきりと今はまだ自分の方が実力は上だと言う。

あくまでも立ち合いという点に於いては、だ。

その力を見せつける事で勝ち、或いは負けて、そんな単純な事だけで全てが解決できるとしたら、果たしてそれは楽なモノなのだろうか?


以前、鬼と呼ばれた武漢、そして今行方知れずのセルストとも似たような話をした事がある。

それが全てではない、と反論し、一人は互いに相容れぬと身を散らし、今そのもう一人、セルストの無事を祈り、彼の行方を辿るような事をしている。

それは彼と再び語らい、互いの道が交差する所を探すためなのか、それともこの道こそが彼の考える世界の形なのか…。


結局、こちらの身を案じるからこそ同行しているカイル、それを頼りにしている私も少なからず彼が言うところの力に頼っているのではないか?


「また面倒な事考えてるだろ?」

『ん…』

見透かすように額を小突かれ、拗ねるように口を尖らせる私に、ヤレヤレといった顔を見せるカイル。

「俺が思うにさ、あのセルスト卿?もそこまで深い考えはないんじゃねぇかな?」

私のようにあれやこれやと悩むからこそ、考え方の違いに不和を覚えるのだ、と。

『…』

「まぁ、お前はまた、馬鹿って言うんだろうけどさ。」

よく分かってるじゃないか。

でも彼の言う事、言いたい事も分からなくはない、か。




「で、どっから調べるんだ?」

再び降り立つ遺跡の最奥。

その壁面の一箇所。

カザッカに情けない姿を晒しつつも何とか見つけたセルストの痕跡。

まずは彼らがこの一画で何を見つけ、何をしたのか?

『何かありそう?』

自らも目の前の壁に触れながら、カイルにも調べさせる。

身長差から高い位置は彼に任せる。

「んー…言われてみれば誰かが触れたような跡にも見えるけど…」

ふーむ、と一頻り調べた後で少し身を引く。

私はと言えば、膝を付ける形、四つん這いになって地面に近い場所をじっくりと調べてはいるが、カイル同様に目星い物も見つからずしばしの後にカイル同様身を引いて唸りを上げる。


「ここに何かあるのは確かなのか?」

数時間前、それこそ二度と御免だとは思うが、遺跡に遺された記憶を辿った映像は一瞬。

この一画に集まっていたのは見えても、何をしていたかまでは確認できてはいない。

もう一度…アレをやらなければいけない、か?…。

『うーん…』

正直、あの嘔吐感は溜まったものじゃない。

しかしこのまま手掛かりもないままでいる事も時間の無駄だ。

いっその事…

『ま、まぁ…アンタになら…』

信用はしているとは言え、カザッカに先程のような情けない姿を見せるより、相手がカイルなら幾分恥も少ないか…。


『はぁ…仕方ない…かぁ…』

大きく項垂れ首を振る。

ギロりとカイルを睨み、

『いい?、この後、アンタは何も見ない。忘れる。分かった?』

「は?、何の事だよ?」

『分 か っ た !?』

もう一度繰り返す。念を押して。

「お、おう。」

もう一度カイルを睨みつける物の、結局は諦めて再びあの嘔吐感を繰り返す事に諦め、大きく溜息を吐いた。


今一度、地面に…いやもしも壁に何等かの仕掛けがあるなら。

壁に掌を添えて、目を閉じる。

『ん…』


以前、船旅をした時、初めての船上で、揺れから来る嘔吐感はあったものの、もよおす程ではなかった。

カイルも出発からしばらくは浮かない顔をしていたが、あっという間に慣れ呑気に釣りまでしていた程だ。

ああいった感覚とはまた異なるのか、またはこれも慣れる事が出来るのか。


予想は功を奏し、深みに潜り見えた光景は数人の人影がまさに今私が触れている壁の前に集まっている様子。

しかし、諦め、意を決して臨んだ行動は、結果としては納得がいく、腑に落ちる事実には繋がらなかった。


なぜなら、遺跡に何等かの仕掛けがあるものとばかり思っていたが、この場に集まった者たち、セルストを含め、突如足元に視線を落とし、身構え、一瞬の光が放たれた後は、その姿は遺跡の記憶から消去されていたのだ。


『…ぅ…』


「お、おい。」

『だ、いじょ、ぶ…』

慣れとは喜ぶべきか、先よりも短い時間で終わったからか、皆無ではないが、口を抑えて耐える程に苛まれる事はなかった。

が。




肩を抱えられ、遺跡から這い出てきた私とカイルに、カザッカが駆け寄る。

恐らくは心配で入口周りにずっと意識を集中していたのだろう。

「一先ず報告は後だ。」

項垂れる視界の隅で、カイルとカザッカが私の体を支えてくれるのが見えた。

焚き火の傍に連れられ、腰を下ろしたところで先と同様に水筒を差し出される。

『ありがとう。』

少しずつ嚥下して、吐き気を中和する。


遺跡の調査は失敗というわけではないが、明確な成果、セルストの発見には至らず、結果として謎を残す形となってしまった。


光に包まれたセルストたちは何処に消えてしまったのか?

まだ揺れているような頭ではその判断すら儘ならなかった、

感想、要望、質問なんでも感謝します!


意気消沈するのは皆同様なれど、可能性を一つずつ当たるしか満たされることはない。


次回もお楽しみに!

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