29話 儀礼護衛
29話目投稿します。
ついに始まる社交の宴、宴に集うは安息かはたまた波乱か?
そして新たな出会いが物語を紡ぐ
今度、任意の時間に投稿できるのを試してみたいですね。
揺れる馬車の中はワクワクしながら窓の外を伺うイヴ、その相手を買って出たオーレン、ゆったりと座した叔父のアイン、叔母のレオネシア、そして私。
カイルは護衛に付くという立場上、別の馬を駆り、一行を先導している。
いよいよ領主会談当日となった今日、私たちスタットロード家の一行は豪奢な馬車に揺られ、王城へ向かっている。
それほど遠くもないのになぜ馬車なのか?と叔父に聞いたところ、この手の催しの際には、少々のお披露目要素があるため開催直前に参加者同士は互いの目に入らないような配慮がなされるらしい。
城の中心部を目指すような形で四方に設けられた入り口から控室が隣接し、私たちはしばらくの間、その部屋に待機させられる。
部屋を任された執事から、簡単に宴の段取りが説明された。
まず始めに、この場で言うところの一般客、といってもいわゆる貴族階級の者たちが会場に入る。
その後は開催される年ごとにいずれの領主から会場に入るかが異なるらしいのだが、今年は私たちが最後の入場になる事が告げられた。
「あらあら…今年はうちが最後なのね。」
何故か私の様子を伺う叔母。嫌な予感しかしないんだけど…
領主勢の入場が終わった後、王と近しい方々が姿を見せ、王自らの言葉で社交の宴が始まるそうだ。
宴そのものは、まずダンスの時間が数曲設けられ、いわゆる出会いや縁を求める人たちが盛り上がるところで、人によっては早々に相手を見定め宴を後にする事も屡々あるそうだ。
稀にではあるが、私のようにこういった場に興味がなく付き合い上で参列したといった者たちも姿を消していくようで、私もできればそうしたいところではあるが、領主の随伴である以上はそうもいかない。
聞きながら思い返してみれば、この領主会談という催しはむしろコチラ側の方が重要に感じる。
事実、叔父の話によれば領主間で行われる会議など些末な内容が殆どで、大雑把に言ってしまえば一年の挨拶と報告、後は他領に出向く事があれば事前に伝えておく、など社交の時間に比べれ大した苦労もないそうだ。
「まぁ、でも今後、私が、というわけではないが、恐らく他領に関わる事もなくはないだろうし、今年は念入りに挨拶しておかないといけないね。」
そう、今年になるかはともかくとして、少なくとも東領にはいくことになる。
始めはシロとの口約束だったものが、今やカイルの契約に挿げ替わってしまった。
「続けてよろしいですか?」
伺うように執事が口を開く、叔父は「すまない。続けてくれ」と短く応える。
「その後、しばしの歓談の時間となりますが特に明確な終わりの通達などはございません。」
これは何となく想像がつく。
ノザンリィの町でお祭りが行われる時でも、夜通し飲み耽る連中もいるくらいだから、こういった社交場でも凡そ同じ雰囲気なのだろうな。と
「ここ数年の流れと同様であれば、ですが、歓談の後、王がお一方をお選びになり一曲お嗜みされるかと思われます…どういった方をお選びされるかは私には分かりかねますが…」
とどのつまり、王に選ばれた者がダンスを踊り、明確とは言わないものの、その後に王が社交場を後にすることが宴の終わりの合図だそうだ。
一通りの説明を終えた執事は、宴の段取りを確認すると言い残し、部屋から一度姿を消した。
ゆったりと紅茶を口を嗜む叔父、叔母と対照的に、オーレンとイヴは興奮した様子で、特にイヴは私の腰に飛びつき「楽しみだね!おねえちゃん!。」と。
『そうだね。』と頭を撫でると、
「レオママがね?、おいしいお食事がいーっぱいあるんだって言ってたの。イヴ楽しみー。」
あどけなく、けれどこの環境に順応しているイヴはある意味尊敬だ。
くんくん、と鼻を鳴らし「いい匂いするー」と付け足すイヴに、元気に育ってるなぁ…とついつい笑ってしまう自分がいる。
「オーレン、貴方もしっかりイヴちゃんをエスコートするのよ?、紳士として、ね。」
傍らのオーレンの頭を撫でながら、叔母が言う。
「はい!」とこちらも元気が良…むしろエスコートと言った言葉に緊張しているようにも見えるが。
『カイル。』
部屋の外で待機しているカイルの様子を伺う。
事の直前ともなると、流石に緊張を隠せないようで、表情は少し硬い。
「ふぅ…流石に緊張しちまうな?。お前は大丈夫か?。」
『んー…何とか?』
私の姿を見たカイルは、少しだけ緊張の糸が解れたのか、その体も解すように関節を伸縮させる。
『な、何よ?』
ぷらぷらと手首を回しながら、カイルがまじまじとこちらを見つめてくるのでついつい出た言葉。
「いやー…なんつーか、やっぱり可愛いなって。」
『っぐ…今言うか、それ…』
「すまん。」
行き場のない私の両手は、私としては短く感じる服の裾を握りしめる。
結局、レオネシアが私に用意したドレスは、先日着せられたのと少しだけ手を加えられたようで、以前のものより裾は短く、首から胸元にかけて薄手の生地があるにはあるが、少し離れてしまえば肩から晒しているようにも見えるだろう。
せめてもの情けと言わんばかりにヴェールを羽織ってはいるものの、これも薄手で肩から手の先まで透けるような生地…この服だけでどれくらいの価値があるのか私には予想もつかない。
『…こんなの着せられて、いやまぁ…光栄ではあるんだけどね…?』
「わかるさ。服とか俺だって同じ…多分普通に暮らしてたとして、その…例えば誰かと結婚するときとかでもさ、こんなに豪華な服とか着ることないぜ?」
『確かに。』
互いに「ふふっ」と笑い、互いに向き合う。
私はカイルの胸に右手を添え呟く。
『…お願いね。』
「慣れ不慣れはここまで来ちゃったらもう関係ねぇ。任せろ。」
私の右手にカイルの右手が重ねられる。
「任せろ。」ってカイルは私に良く言ってくれる気がする。
私は、カイルを頼りにしてる。頼りにできてる?
…ちゃんと出来てるのだとしたら、そう感じてくれているなら、嬉しい。
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重ねた手は共に進む想いの現れなのです。
次回もお楽しみに!