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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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300話 最奥の邂逅

300話目投稿します。


遺跡に触れた先の邂逅。

以前、言葉を交わしたのはいつだったか?

「思っていたより辛いものです。」

ヴィンストルの町。

先日の襲撃の夜からこっち生活もままならず、私たちのエディノームの町に避難せざるを得なかった兄妹の故郷。

もしも自分が彼らの立場、ノザンリィが滅亡なんて光景を見たらきっと立ち尽くして動けなくなってしまいそうだ。


町の奥に進む程、残された建物は減り、最初から何もなかったかのような拓けた土地のようにも見紛う。


『カイル、皆を纏めて残った建物を調べて。』

そう言って私は町の奥、堂々と鎮座している遺跡に目を向ける。

私の視線を追いかけ捉えたモノで指示の意味を理解したカイルが一言確認の問いを発した。

「…大丈夫なんだな?」

『必ず。』

短く呟き踵を返す。




幸いな事に遺跡の入口はあの夜を明けて住人が避難した時のまま入口も閉ざされる事もなく開け放たれている。

現代表者であるスコルプの話に拠ればセルスト卿は数名を伴って内部に入った後、姿を隠したという。

そしてあの夜避難先となった内部に於いても彼の姿は伴った数名含めて痕跡すら見つからなかった。


長い石段を下り、拡がる地下空洞。

エディノーム近郊の湖底洞窟と違い、灯りなどあるはずも無い遺跡の内部。

それでも足を取られたりしないのは、建材である石が仄かに発光しているからだ。

程なく視界に入る結界の壁は私に対しての効力はなく、現状知る限りだと私以外の侵入を阻害する壁。

海底洞窟で対面した時にはなかった手段を以てあの夜はその性質を利用したが、今思えばあの黒い塊の侵入を防げたかどうかは知りようもない…。

『いや、もしかしたら…』

と一人の少女の姿を思い浮かべ、彼女ならもしかすれば私と同様に通り抜けれるのかも知れない。

思いはしたものの、実践するにはその後に起こる被害の方が怖い。

それに、もし少女がこの結界を抜けれたとしてそれが何の役に立つ?

人と触れ合って今まさにある感情の芽生えを見せた少女を、危険な目に合わせる原因をどうして生み出せるというのか?

少女の存在は未だに謎な部分が多い。それでも私を含めた彼女の周囲は、普通の少女としての生を歩んでほしい、望んでほしいと思う者たちばかりだ。


『あの子は私が必ず…』


と呟いたものの、常に傍に居られていない自分の不甲斐なさが身に染みる。




結界の奥、遺跡の最深部にあたる箇所には今まで目にしたのと同様の台座が待ちわびたとでも言わんばかりにその構えを見せている。


「待ちわびた。」

『うわっ!?』

もう随分と久しい感覚だったけれど、今回は特別。

仄暗い光が視界から消えたと思った直後、背後から突然耳元に声をかけられたような、そんな感覚には流石に驚きの声があがってしまう。

「あの子も無事に目覚めたようね。」

足元、視界の下の方で輝く光。

その中でも…うん、カイルの光は分かる。

『貴女も…ありがとう、って言うべきかな?』

頭を振り「私は結局何も出来なかったよ。」と少し申し訳無さそうに呟く。


「ともあれ、貴女の顔を久しぶりに見れて嬉しいわ…もう百年程経ったのかしら?」

一瞬久しく姿を見せなかった私に対する嫌味かと思ったものの、彼女にそんな様子は全く無く、まして冗談でも無さそうだ。

『そ、そんなには経ってないよ?…むしろそんな長い時間生きてられる人なんて…』

「あら?、そんな事は無いと思うけれど。」

突然口走った内容は私からすれば突拍子も無い言葉ではあるが…こんな場所、他者と関わる事も出来ず、世界の輪郭はぼやけていて、陽の光すら見えない。

ここでは時間の感覚すら希薄なのだろうか?


「貴女と会うのはこれで何度目だったかしら?」

この場所に訪れるのが遺跡を介してという事であればこれが五度目の邂逅になるだろうか?

彼女も始めて会った時に比べれば随分と流暢に話すようになった。

それもこれも遺跡に触れる度、私の意識や感覚が鮮明になっていく事に倣っているのか。

『この遺跡は何なのか、私には未だに分からないのだけど…。』

黒く染まった世界の…空、と言うのもまた疑問に感じるところではあるが、眼下で揺れる星のような光は現実に生きている者たちの命の光。カイルの存在がはっきりと分かる時点でその予想は間違っていないはず。

景色の輪郭を残して黒い光景はここ最近の事や抱えている事も含めてあまりいい気分ではないな、と思う。

「貴女にしか反応しない遺跡。その意味を

考えた事はあるかしら?」

それを知る為に旅に出た…筈だった。

まだ一歩たりとも近付けてない自分の力の謎。

否応無しに目の前で起こる数々の事象が私の旅の目的を変質させていく。

「億劫に感じる事はないの?」

『私に出来る事。多分旅立った時より多い…それで誰かを助けられるなら。』

犠牲…ではない。

けれど先送りで良いと思っているのは確かな事で、ただ時間だけが少しずつ歩みを進めている。そんな感じ。


「貴女が感じる事、思った事は大凡間違いじゃない。その先にある未来もまた、貴女が創り出す物。」

気に掛かるような言い回しを残し、この世界同様に謎の存在である女性は踵を返し、私の傍から離れていく。

そのまま消えるかと思ったが、これもまた今までと少し異なる。


視線の先で歩みを止めた彼女は振り向き、浮かんだままに見えるその身を、腰を落とす。

今まで気付かなかったその場所に、少し大きめの椅子があるようだ。

相変わらず黒一色の空間であるものの、目を凝らして見た彼女の姿、その周囲にどこか見覚えのある一室、部屋と言うのも語弊がありそうだが…そう、例えるなら玉座。

王都でラグリアが腰掛けていた豪奢な椅子を彷彿とさせるが、彼女の装いを付け加えるともっと荘厳で、神秘的な…いや…。


『貴女は…』


「また会いましょう。貴女の未来の先で。」


彼女の笑みと共に黒い世界が色を変えていく。

いや、これは私の意識がこの世界から弾かれるような、断ち切るような、そんな感覚。

薄れる視界と意識に目を閉じて、体が沈むような落ちていく、そんな感覚に身を委ねた。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


か細い糸のようでも道を示してくれた女性。

されど、その問いかけは、今の自分にとっては分岐点を浮き彫りにさせた。


次回もお楽しみに!

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