299話 少女の芽生え
299話目投稿します。
若人の小旅行。
保護者の気持ちというのもまた感慨深い物だと知る。
王都からの来客、イヴを始め、レオネシア、オーレンとそのお付きの従者たちが居る間にやるべき事は然程多くはない。
ただ個人的な興味と、もしかすれば一つの謎に対して進展の可能性がある物。
一概に個人的な事と言い切れない部分はあるが、それがこの町に起こっている問題点と結び付くかどうかは結果次第と言った具合だ。
「今日はどこに遊びに行くの?」
荷馬車に揺られるのは、私に目的地を聞いてきたイヴ、彼女の護衛役を、と手を挙げたオーレン。
案内役としてのカザッカ、サティアの、兄妹に御者役兼今日の一団の護衛としてのカイル。
今までの旅の経験からすると自分が一番の年長者という事に気付き、少し身が引き締る。
『あの2人の故郷の様子見ってとこかな?』
そう言って私はヴィンストルの兄妹を指差す。
まだそれほど親交のない兄妹、そしてオーレンも何処か緊張している様子もある。
『紹介するね?、あちら、今から向かうヴィンストルの町に暮らしていた兄のカザッカと妹のサティアちゃん。』
2人共「よろしく」と言った返事で見知らぬ顔、オーレンに視線を向ける。
「始めまして、ボクはオーレン。オーレン=スタットロードと申します。」
揺れる荷台の中でも丁寧な会釈で自ら名乗りを挙げる。
が、運悪く悪路に揺れた事でオーレンは体勢を崩し、その体が浮く。
「わわっ!」
「あぶないっ!」
咄嗟に両手を広げて抱きとめたのはサティアだったが、結果として抱き留めたまま背後に倒れ、端から見ればオーレンがサティアを押し倒すような体勢になってしまう。
「わ、わわっ!す、すいません!」
慌てて体を起こして詫びるオーレンに対して、サティアは慌てる様子も無く「大丈夫?」と改めて確認を入れる。
コクコクと頷くしかできないオーレン。その顔は真っ赤で、熱に魘されたかのように目が回っているように見える。
そう言えば王都に居た頃も、オーレンは同世代の友人に恵まれなかったのか、イヴ以外の子と一緒に居る光景は見たことがない…貴族というのはやたらとお茶会などという催しをしているという印象はスタットロード家には無縁なのか、男の子はその限りではないのか、それとも…。
ハッと我に返るかの如く、腰を下ろしたオーレンは、時折チラチラと周りに視線を飛ばしながらも静かになった。
顔色は変わらず紅潮を浮かべたままで。
対するサティアは気にしてないように見えて、オーレンが心配なのか、周りに気付かれない程度にチラりと盗み見している様で…。
『ふむ…。』
と私は偉そうに唸る。
「フィル様、そちらは…?」
途中で止まっていた紹介、最後の一人はイヴだ。
「お子さん…ではない…ですよね?」
恐る恐るといった様子のカザッカだったが、発した後で「シマッタ」と分かりやすい表情に変わる。
『誰のかなー?』
と私も大概意地悪な性格になったものだな、と思わなくはない。
『この子はイヴ。ちょっと細かく説明するのは骨が折れるから、とりあえずは妹みたいな子と思ってもらって大丈夫よ。』
今度はサティアが立ち上がり、イヴの傍に近付く。
「始めまして、イヴちゃん。アタシ、サティア。ヨロシクね?」
手を差し出すサティアの顔を覗き込むように見上げ、差し出された手と交互に見つめ…少し視線を外したイヴ。
照れているのか、と少女の視線を追うと、その先はオーレンの姿。
ガバッと立ち上がったかと思えば私の後ろに隠れてしまった。
「あっ…」
『イヴ?』
背けた顔を私の背中に埋める。
『照れ屋さんだねぇ?』
肩越しに少女の頭を撫でる。
サティアは差し出した手の行き先を失い、私の顔を見つめる。
仕方ないな、といった顔で彼女に返すと、苦笑しつつ、元居た場所へと戻り、腰を落とした。
「やっぱりお前、怖がられてんじゃないか?」
「バカ兄は黙ってて!」
そう言ってポカりとカザッカの肩を小突いた。
『イヴ?さっきはどうしたの?』
お昼の時間になり、一度休憩がてら馬を止め用意していた昼食の準備をイヴと共にしている中、先のサティアに対する少女の行動に違和感を覚え聞いてみた。
「わかんない…」
少し困ったような、悲しいような…。
聞けば、何であんな行動を取ってしまったのか、自分でも分からないと。
『イヴ、オーレンは好き?』
唐突に問われた事に、少し驚きつつ、その顔は小さく笑っているように見える。
「…好き。えへへ」
『じゃあ、さっき、サティアに抱きついてたのは?』
「ヤダ。」
そう言って頬を膨らませる。
何と無く、サティアの握手を拒んだ時に予想はついてはいたが、改めて理解した。
『そっかぁ〜。』
何だか嬉しくなって少女の頭を撫でる。
「むー!」
いつもは撫でれば喜ぶはずの少女は、この時ばかりは不満そう。それでも撫でられる事は好きなようで無碍に拒むも出来ず、ただ頬を膨らませる。
また、それも私の目には可愛く映ってしまい、私の頬は少女のソレとまるで対極。
油断していると緩みきってしまいそうだ。
今までも、また今現在でもこの少女は謎に満ちている。
それでもレオネシアやオーレンとの暮らしは少女の中で大切な物として刻まれ、事、オーレンに対しての感情はきっと…。
『その気持ち、大事にしなきゃね?』
昼食の準備を終え、一応周囲の警戒をと見回りに出た皆が戻るのを待つ間。
相変わらず甘える気分を持つ少女は私の体を背凭れに、のんびりしている。
怖ず怖ずと私の顔色を伺う少女が問うた。
「怒らない?」
『怒らないよ?、むしろ嬉しい。』
「…そっか。」
『そうだよ、イヴ。』
そうして今一度、少女の頭を撫でる。
その頬が膨らむ事はなかった。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
改めて見る故郷の様子。
もし自分が彼らの立場なら、その感情はどんな物なのだろうか?
次回もお楽しみに!