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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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294話 ほーこくしょ

294話目投稿します。


和やかに行われるはずだった計画は、一人の男に疑問を抱かせる糧となってしまった。

『ほーこくしょ。可愛い。』

崩れた文字で書類の一番上に書かれた文字。

ここ最近、というよりはこの町の建造計画に代表、指導者、指揮官として就いてから私も随分と書き仕事が増え、自然と文字を記すのも上達したものだが、今目にしている一枚に描かれている文字はまだ覚束ない、所々よれたような文体だ。

それでもこれを書き上げた者の賢明さはしっかりと伝わるとてもよい書類だ。

「俺の字の方が多分汚いぞ?」

私の座る椅子から先、来客対応用のテーブルに添えられている長椅子からカイルが声を上げる。

「自分もあまり物書きは得意ではないですね。」

その対面に座るカザッカからも同様の言葉が発せられる。

『アンタたちに書類仕事を任せるのは遠慮しておくわ。』

視線を男たちから3人目の訪問者に移して、

『何か頼み事があったらサティアちゃんにお願いしようかな?』

「えっ?、えっと…」

振られた内容に驚きと、焦りを浮かべ、目を逸らして赤羅様に恥ずかしそうな表情。

「あ、あの…アタシもあまり…」

怖ず怖ずと呟いた台詞は、先の男たちと同様の報告だった。

『あ…はは…ゴメン。』


3人に集まってもらったのは、先日あれやこれで策を練った子供たちの親交を目的とした計画、その報告を兼ねての集いだ。

計画の開始直後に現れた人物のおかげで、結果は大成功と言える結果にはなったものの、当人の対する子供たちの印象はかなりの可能性で一つの感情に固まってしまったものの、本人は気にする事もなく、むしろ半分喜んでいそうな様子すらある。

まぁ、本人が嫌がっていないなら問題あるまい。


「にしても、あの老婆は一体どういった御方なんです?」

話題を切り替えるようにカザッカから出た質問。

「ありゃ、王都の教会の婆さんだろ?…一応司祭なんだっけ?」

「司祭さま…ですか?…アタシが見た時、魔じ…」

おっと、と口を抑えるサティア。

『あぁー…まぁ、魔女だよね。』

苦笑しつつサティア本人的には失言と思われたソレを肯定する。


カイルもそれほど親交が在るわけでもないが、エル姐との兼ね合いもあって王都の教会に訪れた事も何度かあるらしい。

『エル姐、エルメリートはそれなりに知ってるよね?』

挙げられた名に、カザッカとサティアが頷く。

ヴィンストルの町の救援に向かった際、御者に扮していたエル姐ことエルメリートは、入口に陣取っていた第四部隊に包囲された私たちの一本鎗として、部隊長を瞬殺するという絶技を見せた。

互いに会話を交わす時間はそれほどなかっただろうし、サティアに於いては話す機会があったとしても、遺跡に避難して一夜を明かした時ぐらいだろうか?

「あの方も凄い方でした。あの遺跡の夜、不安に駆られる俺たちに、多くは語らずとも大丈夫だ、と支えになってくれました。」

そんな事があったのか、と初耳ではあるが、そもそも表のエル姐は舌に衣を着せぬ豪快な性格といった方がしっくり来る性格だ。

一応は彼女も教会の修道士として暮らしているのだから、人助け、心の支えといった事には長けているのも当然だ。

あくまで表の彼女という意味で言えば、だが。

『彼女にしろ、マグゼ…魔女婆にしろ王都の教会だけじゃなくて孤児院の仕事もしているからね。年齢限らず人に寄り添う事には長けているのよ。』

「教会…ですか。」

やはり、カザッカからすればエル姐の姿は修道士という言葉では納得が行くものではない。

「エル姐はさ、俺たちがちっさい頃はノザンリィ、王国の北領だった町の教会に駐在してたんだけどさ、それより以前は各地に巡礼してたって言ってたぜ?」

いい具合にカイルが付け足してくれた。

『巡礼というよりは巡回って言ったほうがいいかもね。』

一人旅も多かったエル姐が、凡そ戦いと程遠い仕事の中で身に付くはずもない身の熟しを持っているのもソレがあったからこそ、と。

「へぇ~、教会…修道士のお仕事も色々あるんですね。世界中を旅できるなら楽しそうです!」

巡礼という言葉に興味を示したのはサティアだ。

幾分逸れる話題に心の中で胸を撫で下ろす。

いずれにせよ、エル姐が戻ったら口裏を合わせておく必要はありそうだ。

『ヴィンストルの子供のお世話をしてたなら、サティアも教会…ううん、多分近いうちに孤児院という形で施設を作るけど、手伝ってくれる?』

「ええ、勿論ですよ!」

『施設の頭はマグゼだけど。』

「うっ。」

嬉しそうな顔から一転、サティアの動きが凍った。




それぞれ王都側、ヴィンストル側の子供たちにはそれぞれが暮らしていた地域と反対側が見えるように進行させた。

そして出発前に念を押して私が伝えた事。

気付いた事、見つけた物を報告するように、と。

最終目的地では、演者である警備兵に子供たちが到着する前にさも()()()()()()()()体を成してほしい、と伝えておいた。

無論、子供たちの護衛としての3人には事前に…というよりは結局、密かに伝令を飛ばした形にはなったのだが、伝えておき、彼ら護衛役は”負傷した兵士の救助”と謎の襲撃者に警戒する体を演じて貰った。

そして、一番重要となるところ「安全であるはずの洞窟の中を調べてきてほしい」と子供たちを誘導し、互いにいがみ合って居た両陣に託す形を取った。


個人的には特にカイルの演技についてはあまり期待してなかったものの、子供たちからすれば警備兵が倒れていた様子は非常事態を感じさせるには十分だったようで、両陣を団結させる事に成功し、恐る恐るでも洞窟に足を踏み入れた子供たちを見送る事となった年長者。

勿論、襲撃も狂言、洞窟の奥には言わずもがな、()()()()()()が控えていて、念のため気配を消したカイルがこっそりと後を追う事にはなっていたようだが、どうやらカザッカも同行するという判断に至ったそうだ。

恐らく、エル姐について疑問を感じたのもその同行する事で感じた点も引っかかっているのではないかと思う。

少なくとも、王都の、王国の教会に勤めている2人の存在はカザッカにとっての謎の人物という印象を消す事は難しい。


『…きっと実力は十分ある…でも彼はまだ若い…』

カザッカもサティアも、両親を失っているというのは聞いた。

その境遇、親が居ないという境遇はある意味において有意ではある。

戦士の町と呼ばれたヴィンストル出身であれば、その実力も実に有為である事も同義だ。


キョウカイの事を教えるのは簡単だ。

エル姐の密かな計らいで、マグゼをもこの町に引っ張り出してくる程に人材不足も深刻ではある。

でも、だからといって、優秀な人材だからと誰彼構わずひけらかす事ではない。


『ちょっと迂闊だったかな…マグゼ婆ちゃんに叱られそう。』

3人が去った後の自室で、座り心地のよい椅子の背凭れに体を預け大きく息を吐いた。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


町への新たな訪問者。

私にとっても大切な人たちには、真新しい町が好奇の目に映る。


次回もお楽しみに!

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