293話 絶好の一人きり
293話目投稿します。
算段に少しの後悔と、幼心への期待を抱く
『ふぅ…』
段取りはまぁ、何とか出来、後は演者次第と言ったところ。
私ができる事はもう無いだろう。
このまま町に戻っても問題はないだろうがそれはそれで不安が残る。
とはいえ このまま 演者と一緒にいるわけにもいかずひとまず 待機する場所として 私が選んだのは空の上。
先日、サティアと過ごした空中散歩。
あの日と同様に天気に恵まれた今日。
まだ日が落ちるには早い 空の空気は澄み切っていて 遠くまで よく見える。
当たり前ではあるが、町からそう離れていないこの場所、北の空に目を向けるとどうしても目に入る王都の姿。
あと数日もすればエル姐に伴われて招致した者たちが町に到着するだろう。
そうなればまた町を出る用事が増えるという事で、今日行っている事案で良い結果を出したいという事にも繋がる。
『しかし…』
あの瞬間、町に姿を見せたマグゼはまさに絶好の適任者である事に間違いはない。
確かに間違いはないのだが、湖底の洞窟に構えるあの姿を見た後では、後悔がない、とは言い切れない。
『まぁ…命を取られるわけじゃないし…』
透明な地面に腰を落として胡座をかくように上空での待機。
今更ながら、空の上というのは一人になれる場所としては申し分ない事に気付いた。
無論、天気が良い日、暑くない季節というのが前提ではあるが、所謂間の季節であれば、肌を擽る風もまた心地よいモノに違いない。
王都からイヴと恐らくは共に訪れるレオネシアとオーレン。
叔母とオーレンは王都とは違う環境でしばしの休暇となれば僥倖と言える。
私が3人を、厳密にはイヴをと言ったほうが正しいが、呼び寄せた理由は今尚カイルが所持しているモノを見て、触れてもらうこと。
そこからヴィンストルを襲った出来事を探る。
あくまであの日、私とカイルが対峙した存在は、故郷を始めとして、キュリオシティで見たモノ、そして今も私の中、この身のどこかに居るはずのリリーと出会った時の出来事、ヴィンストルで彼女が報せてくれた危機。
以前、王都で目にしたイヴの不可思議な行動、恐らく東の火山でベリズと相対した少女の行動もそれと同様、同類の事象と考えている。
そして、恐らくはスナントで何者かの手、もしくは策として行われた何等かの行為。
今は行方不明となっているセルストの統率、または支配から離れたスナントの状況。
体の向きだけをそのまま南に向けて、陽炎を浮かべているまだ訪れた事のない町。
『スナント…』
ヴィンストルに訪れる事となったそもそもの理由は、セルストが遺跡に入ってからの大地震、それによる崩壊で救助を手伝ってほしいという事だったはずが、見計らったかのような…いや、恐らくは件の黒幕の奸計である事に間違いはない襲撃。
無事に往なした後、一夜を遺跡の中で過ごした住人の目にも指導者たる姿は見つけられなかった。
カイルも一度だけではあるがセルストとの面識はある。
私の目にも彼の姿は見受けられなかった。
当然、襲撃より前でもセルストが遺跡から脱出した様子を見た者は居ないし、それを見逃すような状況でもなかった。
遺跡に閉じ込められたはずの姿は言葉通り、姿を消したのだ。
だとすればセルストの行方不明自体は、謎の手段、行為を以て町そのものを襲った出来事とはまた別なのではないか?という可能性もありうる。
行ったのが黒幕本人の手による物かは分からないが、少なくともあの黒い塊を生み出した目的にはセルストの排除も含まれていたはずで、町を壊滅に追い込んだ事こそが次いでの行為。
むしろそう考える方が一連の騒動の状況に辻褄が合う。
『いずれにせよ、あそこに行かなきゃ始まらない…ってところかな…』
近い内にスナントに赴く必要は絶対だ。
そう思いつつも、再びエディノーム、今、その外周を回っているであろう子供たちの事に意識を戻す。
彼らがこの後に体験する事は、少なからず恐怖を覚える内容になる。
危険な目に合わせたくはない。
そしてヴィンストルの子供たちは一夜の恐怖をすでに経験している。
私が手を借りて作った結界は今も尚町の安全にある程度の効果を発揮しているとはいえ、ヴィンストルと同じ事がエディノームに向けられたとしたらどうなるか?
どれ程の範囲で同じ事が出来るのかは不明だが、あれが町に起こらないかと言われれば否定は出来ない。
マグゼとの打ち合わせではヴィンストルでの出来事まで伝えることは出来ていない。
老婆が子供たちに与えるであろう恐怖心は、この先に起こり得る可能性に対しての恐怖の免疫となるだろうか?
せめてそんな状況になったとき、身を震わせるだけにならない事が出来ればと思う。
青から橙色に移りゆく空の色は、少しだけあの夜の赤く染まった空を彷彿とさせる。
そうではない。
違う色だと分かってはいても、少し肩が震える。
『駄目だね…私がこんなじゃ、思いやられるわ。』
頬をつねる。
少しずつ陰る陽光は夕陽へと。
予定通りならもう少しで子供たち、探検隊の面々は湖底の洞窟へと辿り着く。
暗がり始めた地上を見下ろす景色は、何故かこの瞬間、とある記憶の光景を思い出させた。
大地の稜線と、命の形として目に入る幾重の光。
あの場所でとある少女と話をしたのはいつだっただろうか?
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再び集い始める顔馴染みの面々。
其々が目にした世界の光景を知る。
次回もお楽しみに!