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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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292話 物語の魔女

292話目投稿します。


エディノームに現れた新たな住民、欲しかった手数以上に今まさに必要な人材だ。

「久しぶりだねぇ、フィル嬢ちゃん。」

あまりにも予想外だった人の姿に思考が追いつかない。

『あ、え、えっと…マグゼ婆?…』

ギロりと睨みつけられるも一瞬。

滑った口元を抑えるが、一応、それについてはこの場で追及もなく、笑みを浮かべた表情に戻り、

「エルメリートから連絡をもらってね。遥々出向いたってわけさ。」

にしても…と挟み、

「何か面白い事でも始まるのかい?」

思いも拠らぬ、しかも絶好の、この町の住民でも彼女を知る人は殆どいないんじゃないか、という程の事であれば…きっと上手くいくし、婆なら上手くやってくれる。




遥々訪れた、ともあれば流れとして私の部屋に通すのは別段不思議な事ではない。

広場に集まっていた者たちに護衛役への伝言だけを頼んでマグゼと共に広場を後にした。

「で?、さっきのは何だい?」

部屋につく早々に少し不機嫌そうに聞かれる、がこちらとしては今以上に不機嫌になりそうな頼み事をしなければならない。

『マグゼさんが来た直前に子供たちをとある任務に行かせたんですよ。』


事の経緯から目的、そして恐らくは表の顔としてのマグゼに関わる事でもある話を伝える。

「そりゃおまえ、下手すりゃ怪我人どころじゃなくなるかもしれないよ?」

恐怖の対象に面倒を見られる。

親を亡くした子供には逃げ場はない。

マグゼの言わんとするところは分からなくはない。

『でも、マグゼが今までそうやって子供たちの面倒を見てたからこそ、今のキョウカイがあるのでしょう?、それとももう子供の相手をするのは荷が重い?』

言ってからしまった、と後悔するが遅い。

ニヤりと笑う口角は、元よりのキョウカイの面々に比べればマシとは言え、その正体を知る者には恐怖しかない。

私も以前、この老婆に気圧されて体を竦ませた事もあるのだ。

実動任務に当たる事はそうそう無いとは言え、ある意味では出来ればこの老婆のそんな姿は見たくない。

「使い方が分かってきたじゃないか。」

嬉しそうにしてるが、こちらの口元は引き攣って、乾いた笑い声しか出ない。


まぁいいだろう。と

了解を得たものの、現場に案内できそうなのは、私しかいなさそうで、子供の足に追いつかれる事はないだろうが出発は急ぐべきか。

『それっぽい雰囲気も作らないとね。』

普段から黒地の修道服を着ている老婆だ。

今はその上に旅程用の外套も羽織っているので服はそのままで問題なさそうだ。

『やっぱり帽子はつば広の帽子かな?』

小さな頃に読んだ物語。

そこに記されていた怖い怖い魔女が冠っていた帽子。

「ちょいと妄想が過ぎるねぇ…。」

ヤレヤレと老婆は溜息をついた。




エディノームから南西。

不要に立ち入る者が無いように、とある石像が無くなった後もこの地には警備の兵士を置いている。

専属だった新兵は今は別の任務に就かせているが、この手の警備は新兵の仕事というわけか、取分け若い兵士が今日も担っていた。

『ご苦労さま。』と労いを一つ。

「ハッ!」と返す返礼もまだどこか不慣れさを感じる。


今回の催し…いや、作戦は元からこの地を最終目標として予定しており、今日の担当である彼らにもそれは伝わっている。

現れた私はともかく、共に現れた老婆には少々訝しげな態度を見せるもそれは一瞬の事。

改めて老婆、マグゼにも敬礼を行う。

『今日は2人?』

「いえ、あちらの小屋にあと2名待機しております!」

示された先、町から少し離れたこの場所でも休息できるようにと建てられた掘っ立て小屋だ。確か上等とは言えないものの眠るためのベッドや簡易な調理場も設けられていて、広さも故郷の家より大きい。

個人的にここに住めと言われても不満はない程度の造りだ。

「呼びますか?」と加えられ、この後の段取りもあるのでむしろ落ち着いて話をする必要がある。

『いえ、2人も含めて皆で話しましょう。』

顔を見合わせ2人の兵士は頷き、私にも同様に了解の意を見せた。




『まぁ…ある意味はこのままの方が不気味か…』

地底の不可思議な空間。

そこは唯っ広い空間にポツンと地面から伸びた台座と、その上に飾り毛のない水盆があるだけ。

探検隊の一団が到着する頃には恐らく日も傾き、今はそれなりに明るいここもあっという間に薄暗くなる。

端から…この地下に足を踏み入れた者からすれば不思議より不気味さを強く醸し出す。

入口を警護している兵士の倒れている姿を見ようものならその印象は一層強まるはずだ。


『マグゼ、ある程度は裁量に任せるわ。』

更に、以前私に対しての発せられた殺気を含めた気配を伴えば…と考えたところで、やり過ぎな感じも無くはないが、そこは老婆次第といった所か。

「ヒヒッ、何だかんだでワシも楽しくなってきたわい。」

その笑い声はもう雰囲気に似合いすぎだ。

『えーと…くれぐれも手加減してよ?』


「チビってもワシゃ知らんぞ?」


話を持ち掛けた時は全然乗り気じゃなかったはずの老婆は、歳甲斐もなく玩具を与えられた子どものように笑う。

改めてキョウカイの面々が挙ってこの老婆に逆らえない理由を思い知った気がする。


地下にマグゼを残し、地上へと戻る。

空間の入口に差し掛かり、一度背後、老婆の様子を見ようとしたが「ヒヒッ」という笑い声に肩がビクッとなり、一瞬硬直した後、結局振り向かずに外に出る事にした。


『ははは…私は何も見てない、聞いてないぞー?』

乾いた声と、首筋を伝う汗も多分気の所為だ。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


狂言とは言え、少しの後悔と、子供たちの無事を祈る。


次回もお楽しみに!

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