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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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291話 エディノーム探検隊

291話目投稿します。


少年心を揺り動かすのは、好奇心を擽る任務と重要に聞こえる責任感。

カァーン!…カァーン!


もう随分と長い期間、この手の音を町で耳にしている。

当然の事で、大地震の災害復興、避難民の住居確保、それが無かったとしてもこの町は完成というには程遠い。

町の完成が何をして、何を以てそう言えるのか?と聞かれたら返答には困るものの、私個人としてはひとまず一時的でも住民の寝床、其々の帰るべき家が在ること。

これが第一目標で、それ自体もまだまだ先の話だ。


『こんにちは、スコルプさん。』

本日の予定が記されているであろう書類を脇に抱え、同郷の者たちとやり取りしている男、ヴィンストルの代表、スコルプはこちらに気付き、

「順調…と言いたいところですか少し困り事もありまして…」

と曇った表情を見せる。

『資材ですか?』

思い当たる点とすれば、ここ最近の町は建造が続き、保管していた建材、資材も少々心許ない。

「いえ、そちらは然程。」

『はて?』


「先程サティアと一緒におられましたな?」

頷く私を確認して続けられた困り事。

この町の元の住民の一部もそうであったように少なからずヴィンストルの避難民の中にも親を失った子供が居るという事。

そしてここでの暮らしもまだ短く大人でもまだ慣れない環境に一番敏感なのがそういった子供たちである、という事。

「お恥ずかしい話です。」

聞けばスコルプは妻は居るものの子宝には今のところ子宝には恵まれておらず、一先ずそう言った子供たちの面倒を見ているらしい。

サティアを始めとする年上も者たちが手を貸してくれるとはいえ、そういった者たちもまたスコルプたち大人からすれば子供なのだ。

『先程サティアにも似たような話をしたんですよ。』


元々の町の子供たちは現在まだ未完成ではあるものの、保育施設が世話をしている。

避難民たちはまだそこに含まれておらず、ここに来る前に目に入った光景からすれば、互いに親交は浅い。

「そんな事が…」

先程の子供たちのやり取りを伝えると苦笑しながら「仕方ないですな。」と。

その表情はまったくと言って良い程に困ったような顔ではない。

多分あの場では私も同じ様な顔だったに違いない。


『少し考えがあります。お手を貸して頂けますか?』




三日後の朝。

時間としては朝食を終えた後のまだ早い時間だ。

中央広場に集まったこの町の住民たち。

その真中で騒がしくしているのは、エディノームの子供たちと、相対するはヴィンストルの子供たち。

世話をしている者、保育施設の職員と、スコルプの奥さんの話によれば互いに体調不良などなく、全員が元気に集まっているとの事だ。

画して、今この町で起こっている小さな派閥戦争の開幕となった。


『さて、皆?、今日は皆に手伝ってもらいたい事があって集まってもらったわ。』

手元から二枚の書類を取り出し、其々の代表のような子供に手渡す。

『キミたちエディノーム探検隊の任務はこの町周辺の調査と探索。気づいた事、見つけた物を報告してもらうからしっかり任務を遂行する事、いいね?』

止められない好奇心を抑えきれずといった様子でも私の話はしっかりと聞いてくれている。

幼いとは言え少なからず自分たちの状況は理解している証拠だ。

また、一括りにされた不満はありそうだが、名付けられた探検隊という言葉は彼らの興奮を一層高める事に成功したようだ。


渡した書類は簡単な説明文と、其々が担当する道順を示した地図が描かれている。


両勢共に東の門を出て、南北に分かれて町の外周に沿って西側へ。

町に戻る前に少し離れた西側…正確には南西の一画で合流した後、町に戻るといった運びだ。


『カイル、それにカザッカとサティアちゃん。しっかりと子供たちを見守ってね。』

護衛役は南側の経路はカイル、北側は戦士の兄妹に任せる事にした。

『サティアちゃん、昨日言ったこと、子供たちにも教えてあげて?』

声を掛けると「あっ…」という声と同時に納得が行った表情に変わった。

『アンタもしっかり働きなさいよ?』

「へーい。」

詰まらなさそう、というわけではないが、不真面目な返事に胸を小突く。

護衛役の輪に小さな笑い声が上がり、それが出発の合図となった。


『さて…お次はっと。』

勿論、ただの調査、探索だけならこの町が持つ情報としては余り意味はない。

広場から一行の姿を見送った後、この場に残った面々と顔を見合わせ頷きあった。


今回の計画の最終目標はズバリ子供たちの親交、信頼関係の構築。

とどのつまり、同世代同士、仲良くしようという話だ。

町の衛兵による事前の警戒から町の外周を探索することに対しての危険はまず無い。

よしんば何か起こっても大丈夫なように護衛役を付けた。


経路を二つに分けた理由は、其々が今まで暮らしてきた位置にも関係している。

王都方面から移住となった子らは南側の景色を見るのは南門越しの物でしかなく、ヴィンストルから避難してきた子らからすれば遠く見えるはずの王都の姿を含めた北側の景色は新鮮に映るだろう。

僅かな発見でも興味を持ってくれると甲斐があるというものだ。


しかし、ただ初めて見る景色を楽しむだけでは互いの仲が良くなるわけではない。

手っ取り早いのは協力して何かをやり遂げる事。

そして、余り褒められた考えではないが、そこに危機的な状況が含まれる程に結果は大きい。

ただ…。

『うーん…』

計画を練る為に予定していた数日を掛けても、安全な危機を生み出す手段には至れなかった。


町に残った大人たちの協力は得られるとしても、数人を変装させて野盗のように振る舞ったところで赤羅様過ぎる。

少なくともこの町にいなさそうな者。

子供たちの目に触れていなかったような存在が必要だ。


「おやまぁ…いい歳した大人連中が不景気そうな顔をしてるもんだねぇ?」


あまりにも真剣に悩んでいたおかげで、声の主の気配に気付けなかった。

いや、多分素の状態でも気付けなかった可能性が大いにある。

『あ…えっ?、ええっ!?』

声のする方へ視線を向けた私の口から驚きの言葉が洩れた。




感想、要望、質問なんでも感謝します!


現れた者は、今、私たちに、この町には申し分ない存在。


次回もお楽しみに!

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