289話 息急く少女
289話目投稿します。
短い間の助っ人は本人たちの過小評価以上に私の助けとなった。
町に流れる和やかな空気は、間違いなく功績の一部だ。
『2人共、有難う。助かったよ。』
ヴィンストルから戻って数日後、今日はリザとロカがエルフの集落に戻るという事で、この町に駐屯している同族とのしばしの別れの挨拶に顔を出した。
「また助けが必要なら顔だすよ!」
「ロカちゃ〜ん、私たちあんまり役に立ってなかったのに〜」
威勢の良いロカと、おっとりしたリザの会話は見ているだけで和む。
『そんなことないよ、リザ。ホントに助かった。』
私と違ってしっかりと魔法を学んでいるであろうエルフの力、その効果も多岐に渡る。
戦闘での行使は勿論、人間族であれば才に関わって使用可否が変わる治癒術もある程度は熟せるとくれば先の騒動に際してはほぼ万能と言ってもいいくらいの働きが見れる。
現にヴィンストル襲撃の際に負傷した住人たちの治療はこの双子とエル姐のおかげで困ることはなかった。
勿論戦闘面でも彼女らが居なければカザッカとエル姐の3人で第四部隊と交戦する事になっていた点も被害を抑える一因であるのもまた然りだ。
『集落の皆にもお礼を伝えてほしい。』
今、この町を先端とする南部とのいざこざ、少なくともエルフの集落の存在は中央から東に掛けての防衛線を引いているのと同義と言って過言じゃない。
この先はどうなるか分からないが戦場で肩を並べるに相応しい盟友と取って問題ないだろう。
「フィル様もここの皆のことお願いしますよ?」
『勿論。また落ち着いたら遊びに行くよ。』
差し出された手を握り返し、同様にリザとも握手を交わす。
「では、私たちはこれで失礼しますね。お元気で!」
こうして一時的な助っ人としての任を終えた双子は自分たちの居に戻った。
戻り道がてら立ち寄った町の中央。
「おまえ!ナマイキだぞ!」
「そっちこそ!やるか!?」
「いいぜ?まけねぇかんな!」
言葉だけ聞けば物騒にも思えるが、その騒ぎを中心、取り囲む者も含めて揚々に幼さの抜けない子供ばかりとあってはまだ止める気にはならない。
どちらかと言えば個人同士の喧嘩というよりは集団での争いのようで、一方は見覚えがある。
この中央広場に面した保育施設で世話を見ている子たちだ。
もう一方はあまり見覚えがない、が…。
『あ…そっか。』
着ている衣服を見て把握。
町の子供と相対しているのはヴィンストルから避難してきた子供たちだ。
目を細めて見た感じ、どうやら中心付近でしゃがみ込んで泣いている女の子が原因のようだ。
『何か見覚えっていうか、経験があるなぁ…』
自分の幼い頃を少し思い出す。
まぁ、主に私を虐めてたのはカイルなのだが、ある程度経た後は私もやり返したりもしてた。
事の次第を見守る中、今にも殴り合いになりそうな輪の中央。
互いにやんちゃそうな少年が正に腕を振り被って小さな戦いの火蓋が切られる瞬間、
「こらぁぁあっ!!」
広場の西側から大きな声が響いた。
少年たちは互いにビクッ!と肩を震わせ、恐る恐るといった表情で東側、私の位置からすると広場を挟んだ反対側に顔を向けた。
「あんたたちぃぃぃいいい!」
見た目はそんなことはないのだが、雰囲気的には砂煙を上げるかのようにあちら側から迫ってくる姿、見覚えのある影のヌシはサティアだ。
「ぎゃぁ!」
「サティアねえちゃんだ!」
「急げ!逃げるぞ!!」
方向的に私が立つ方へとヴィンストル避難民の少年たちが掛けてくる。
私の横を素通りして、そのまま町の東側へと脱兎の如く。
唖然として見送る私の横まで掛けてきたサティア。
立ち止まり上がった息を整えるように一度、体を前に折る。
「ふぅ…まったく、あの子たちは…。」
体を起こし、今気づいたように「おや?」と口を開いて私を見る。
「フィル様!、今見てましたよね?」
『あ、あぁ、うん。』
「何で止めないんですかっ!」
今にも掴みかかりそうな勢いで食って掛かるサティア。
押し倒す勢いを何とか両手で押し留め、
『いやぁ…ハハ…ちっさい子はあぁやって喧嘩するものじゃない?』
「今は猫の手も借りたいくらい忙しいんですよ?、子供とはいえヴィンストルの住人はしっかりと働かなくちゃ、皆さんに申し訳ないじゃないですか!」
いや、まぁ…確かにサティアの言う事には一理も二理もあるが…。
『まぁまぁ、少し落ち着いてよ。』
このままでは本当に押し倒されかねないので、一歩下がり体勢を整える。
大地震からの復興に際して改めて区画整理されてしばらくは空いた区画。
今現在は緊急用の天幕が張られ、一次的にヴィンストルの住人の避難区画とされた場所。
この後、そちらの状況を確認するために向かう予定だったので、まだ鼻息の荒いサティアを落ち着かせて促す。
『サティアちゃんの気持ちは分かるよ?。私だって同じ。ちょっとでも皆の役に立ちたいって…本当に作業に関してはちっとも役に立てないんだけどさ。』
隣を歩きながら、真剣な眼差しで私を見つめるサティア。
『サティアちゃんが頑張ってくれて嬉しい。でも、もう少し肩の力抜いて、楽にしてくれた方がもっともっと嬉しいかな?』
少しだけ遠慮がちに伸ばした手を彼女の頭の上に乗せて、ゆっくりと撫でた。
「…子供扱い…」
ぶすっと不満そうに頬を膨らませながらも、言葉とは裏腹に私の手を嫌がる様子もない少女。
『良い事…いや、どっちかっていうと悪い事かな?、思いついちゃった!』
「はへ?」
撫でていた手で、そのまま彼女の手を握りしめ引っ張る。
急に走り出した私に引っ張られた少女は少しだけ体勢を崩すが、すぐに勢いに乗り…それを確認した私は、一歩、二歩、と踏みしめ、三歩目で地を強く蹴った。
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張り詰めた糸は簡単に切れてしまう。
そんな物は幼い少女には似合わない、子供扱いでも歳相応に笑ってくれる方が嬉しいんだ。
次回もお楽しみに!